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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
9.然も云はざりけるに
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9-8


 ――同じ頃。

 來葉堂に残り、皆の無事を祈るばかりのクララは祈りをささげる乙女よろしく、太い指先を絡めて窓の外を仰ぎ見ていた。


「……大丈夫よ、クララさん落ちついて」


 カウンター席の端に腰かけ、お茶を啜っていたのは同じく留守を預かる詠巳だ。

 緊張感を孕んだ静寂の中にそう声を紡ぐと、我に返ったクララは祈りのポーズを止めて向き直した。


「う、うん……そ、そうよね……ごめんね、クララったらつい不安になっちゃって。……詠巳ちゃん、クールなのねえ……全然取り乱さないっていうか、クララも見習わないと」


 ここで不安がっていても、何も変わらない――

 クララはため息を落として握り拳を小さく胸の前で作って見せる。

 だが、対照的に詠巳の表情は何か罪悪感を残しているかのように曇らせてしまったのだった。


「……クールじゃないわ。ただ私はこの先を――」


 ちょうどその時だ。


 入口の大きな扉が錆びついた音で空気を震わせる。

 少しして、来客を告げるベルが鳴り響き、クララは思わず悲鳴のように声を上ずらせた。


「もう帰ってきたのだ!? ……それとも、敵さん……」


 ――夢姫達が戻ってきたにしては早すぎる。先ほど話を聞いた限りでは、すんなりと話合いで解決させてみんなで仲良く平和に帰宅できるような都合のいい展開などあり得ないという印象を受けていたのだ。

 だとすれば――“悪い展開”へと想像を巡らせたクララが古武術の構えで詠巳を守り扉を見据える。

 カウンターの陰に潜み、様子を伺い見ていたソラと視線を重ねると、詠巳もまた緊急連絡用の番号をセットした携帯を握りしめた。


「……ゴメンナサイ、ここは、coffee飲めませんか?」

「…………あら?」


 ……だが、そこに立っていたのは、夢姫達でも“敵”でもなく――


「が、外人さんだぞ……!?」


 ――まるで光を吸い込んでいるかのようにキラキラと輝く黄金色の髪、雪のように白い肌、そして宝石のように美しい蒼い瞳の、異国の青年であった。


 異国の青年――彼、ルーカスは優菜と面識があり、本件とも仄暗い関わりがある。

 だが、そのような関係性を知るよしもないクララにとっては少し珍しいばかりの普通の客人。嫌な予感が外れた安堵に胸をなでおろすと、入り口まで青年を出迎えた。


「――コーヒー、飲めます、だぞ! えっと、日本語オンリーは大丈夫なのかしら……」

「日本語、大丈夫です。Coffee飲める……では、もらいます」


 状況が状況であることに変わりは無いが、皆の心配をする前にクララは飲食店の店員だ。

 そのプロ意識が手伝うのか……先程までの不安な面持ちを感じさせない笑顔で青年を出迎えると、クララは急いでお湯を沸かす。


 くどいようだが、ここ“來葉堂”は外観や立地、そして店員の風貌(白塗り)のせいなのだろうが滅多に新規の客が来ることが無い。

 それでなくとも、観光地でもない商店街の一角にこの国では目立つ風貌の美しい青年――この不釣り合いな来客の姿を、カウンターに隠れたままのソラも、そして詠巳も盗み見るばかりなのであった。


「……私は、ルーカスです。君、お名前は何と申しますか?」

「私? ……詠巳よ。あなたは留学生か何かかしら。それなら、もしかしたら私の恋人と同じ大学だったりするかも……」


 お湯を沸かすクララを待っている傍ら、青年は蒼い瞳を詠巳に手向けた。


 何気なく視線を重ねた詠巳は、彼女生来の能力――“その人物が今までに見てきたものを見る”と言う力で青年の事を多少知ってしまったのか、視線を泳がせ持て余しながら目の前の湯呑に視線を落とした。


「ヨミ、ですね。……貴方の洞察力は鋭いようですね? ……ならばきっと分かってくれますね、私はその通り、留学生です。ヨミは高校生ですね」

「……ええ」

「では、貴方の高校に“メグミ”と言う女性の子供、貴方くらいの年の女の子が通っていませんか?」


 ――蒼い瞳越しに見えた戦慄の“赤”、燃え盛る炎と身を焦がす“薔薇”に既視感を抱いていた詠巳には、青年が口にした言葉の意味が理解出来ていた。


 理解したからこそ、深入りしてはいけないと察したのだろう。

 思い当たる人物を脳裏に過らせたまま、詠巳は首を横に振ったのだった。


「私は貴方くらいの年の子を探しています。もし、分かれば。些細でも構わないのですが」

「残念ながら、知らないわ。お役に立てなくて申し訳ないわね」

「そうですか?」


 決して嘘が下手なはずは無い詠巳だが、纏う雰囲気のどこかに違和感を感じたのか、ルーカスは腑に落ちないと言わんばかりに口元に指先を重ね、怪訝に細めた眼差しを手向ける。


 人形のように整った顔であるが故の無言の圧力と称するべきか……店内が重々しい空気に支配されかけた頃――


「はあい! おまたせ! だーぞ!」

「……」


 空間の管理者(シリアスブレイカー)・クララの弾むような野太い声と、ハート形に彩られた口紅から舞い飛ぶ投げキッスがその空気を吹き飛ばしたのだった。

 (ルーカスはさらりとかわしました)



「……ヨミ、これが“ジャパニーズ・ゲイシャ”と言うものですか?」

「いえ、違う生き物よ。芸者に怒られてしまうわ」



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