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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
9.然も云はざりけるに
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9-7


「優菜、一人でブツブツと何を喋って――」


 ふと、寛二朗の背後から訝しげな少年の声が投げかけられる。


 ――“ま”による影響、昨日に見た光線のようなものによるダメージを受けることは無い寛二朗であるが、だからと言って物理攻撃に対抗しきるかと言われると完全ではない。

 その事が重々理解出来ていた寛二朗は、“敵が集合してしまった”という――傍目に見ても分かるほど明確な“ピンチ”を脳裏に過らせると思わず息を飲んだ。


 だが、寛二郎が抱いた危機感を余所に、少女はまるで何もなかったかのように……つい今しがた寛二朗と()()()()()()()()()()()()()()()かのようにその存在を無視すると、横をすり抜けて走り出したのだった。


「優菜、おしゃべりなんてしてないよ? この“ニセモノ達”が話してたんじゃない?」

「え……? いやそこに……ええ?」


 ――呼びかけた少年……美咲は片側だけの瞳を丸く見開くと、状況を整理しようと頭を回転させているのだろうか。寛二朗と優菜、距離のある二人を見比べる。


「あ……貴方、どうやってここに? まさか、貴方もあの外人の……!?」

「外人……? いや、確かに外国語並に訳の分からない言語を喋る男(刹那)は友達だけど、外人じゃないっていうか」

「は……はあ?」


 美咲は首を傾げると、理解する事自体を諦めたようで深くため息を落とす。

 その姿は優菜と違い理性的で、受け答えに不自然な点はないように見える。

 ――先刻、摩耶達が予測していた通り、彼もまた“ま”の影響を受けないという事であろうと寛二朗は結論付けていた。


「……まあいいや。貴方、あれでしょ、春宮一派の“マワシモノ”でしょ? ……そろそろ、相方が人間やめる一歩手前なんですよ、何とかしてくれませんか」

「何とか? って――」


 聞き返そうと口を開いた寛二朗の横をすり抜けると、美咲は先の言葉を紡ぐ暇も惜しむように足早に歩き出すと……虚ろな眼差しを注いでいた優菜と視線を重ねた。


「なあに……えっと、君は、誰? お父さんの、お友達? あのね優菜はね」

「俺のことも思い出せなくなりましたか。……まあ良い。それより……優菜。今ね、君のお友達を殺した悪い車の運転手が、家の外に来てるみたいなんですよ。一緒に懲らしめませんか?」

「え……?」


 ――淡々と紡がれた少年の言葉を聞き終えると、それまで上品に耳を傾けていた優菜の表情が一変した。


「……悪い人、敵、優菜の……!」


 少女の無垢な顔は激昂に歪み、その口元は歯が折れるのではないかと不安になるほどに噛みしめられている。

 “ま”の影響を受けない寛二朗でさえ目を背けたくなるほどに少女の顔、立ち姿は怒りや憎悪を溢れさせていたのだった。



 ――一方、敷地内から微かに聞こえていた声に耳を傾けていた夢姫達は、明らかに空気が変わった事に気付くと誰からとなく顔を見合わせた。


「――――来る!」


 摩耶が声をあげ、その手に白の杖を握り締めた瞬間だった。

 屋敷を中心に放射線を描くようにして風が吹き抜けていった。

 目の前には大人の背丈よりも僅かに上回る高い塀がある。だが、それをすり抜けるかのように吹き付けた風を打ち消すように摩耶が杖を光に包ませると、夢姫や刹那、そして和輝も各々の道具に心を傾けた。


「隠れてないで出てきてよ。ライタくんと同じ目に遭わせてあげるんだから」


 少女の声帯を持った“別の何か”に話しかけられたような――名状しがたい感情が夢姫達の鼓膜を駆け抜けた。


「……気をつけて、昨日の……いや、今まで僕達が見てきた優菜ちゃんじゃない、“アレ”は……!」


 刹那が眉間にしわを寄せたまま声を絞り出すと、頷いた桔子もまた道具――“鏡”を胸に携える。


 僅かに反応が遅れていた夢姫が慌てて黒い杖を握り直した頃――

 吹き抜けていった風に押しあけられたのだろうか、ギイギイと錆びついた門戸は夢姫達を迎え入れようとその身を揺らしていた。


「――やあやあ、皆さん勢ぞろいで。お待ちしておりましたよ。……御覧の通り、優菜を焚きつけてみましたので、皆さん彼女を止めてみてください」


 開け放された扉の奥、大きな屋敷が見下ろす荒廃した庭からは、緊張感の欠片も感じない呑気な少年の声が紡がれる。


 油に火を放り込むかの如く、優菜を激昂させる材料となる“言葉”を投げ込み、少女の感情を爆発させたのであろうか。

 美咲の視線の先には既に人間らしい怒りの表情を失い、まるで抜け殻のように虚ろな目をした少女と、その手に握り締められた真っ黒の靄の塊――“ライタくん”の姿があったのだった。


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