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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
9.然も云はざりけるに
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9-4


 

「僕達の成すべき事……一つが“吾妻美咲の復讐を止める”、二つ目は」

「劇おこゆうなちゃんを止める! ……だよね?」


 まだ身支度を終えていなかった和輝を待つ間、クララの淹れたお茶で体を温めながら刹那が言葉を紡ぐ。

 まるで水を得た魚のごとく生き生きと上半身を弾ませた夢姫がその隣に勢いよく座ると、クッションの反動で刹那も髪を揺らしていた。


「優菜は昨日までの私と同様、道具に依存し理性を蝕まれた状態のはずです。……一度“ま”に落ちた私や春宮さんはともかく……他の方は、彼女の近くにいるだけで“ま”の影響を受けてしまうかもしれない、そうそう簡単には止められないかと思います」


 夢姫の目の前、机を挟んだ向かい側の椅子に座ると、桔子はため息を落とす。

 物憂げな視線を受け取った刹那は、少女の発した“影響を受けてしまう”という言葉を受け止めると小さく頷いた。


「……せめて、あの一緒にいた男の子……彼の協力を仰げたら。彼なら現状打開の策があるかもしれないのだけど」

「だが、吾妻の厄介なところは“春宮八雲を不幸にしたい、その為なら死んでも良い”と言う確たる信念であろうな」


 夢姫達とは離れた場所にある窓際の指定席――いつもと変わらない席に腰を深く沈めたままの佐助と、その近くに立っていた詠巳はお互いに顔を見合わせることもない微妙な距離感のまま言葉を重ねた。


 そう――佐助の言葉通り、美咲の唯一無二の信念、遂げるべき目標は皆の言葉を一つ一つ、黙って受け止めている“疫病神”……八雲への復讐であろう。

 事実、昨日の邂逅の際にはソラの体もろとも遥か見下ろす地上へと転落しかけていたのだから、命を投げ出すことに恐怖心など抱いていないはず。

 少ない言葉数ながら、佐助の言葉に的外れな箇所などある筈も無く、皆は目の前の課題に言葉を探しあぐねていた。


「……なあ、あの鬼○朗(ゲゲゲ)みたいな坊ちゃんはよお、このままだと“ま”に飲みこまれちまうんじゃないか?」

「…………良くそういう名前を出せたねえ君。君の発言の奔放さには流石に直接的な暴力に訴えたくなってしまったよ」


 沈黙を破ったのは寛二朗だ。

 特徴的な美咲の髪型を某国民的有名アニメの主人公になぞらえ言葉を紡ぐと、あまりに空気の読めない素っ頓狂な発言に呆れたのか、刹那が握り拳を机上で持て余した。


「まあまあ、ツナっちどうどう。……でも、そーだよね、その……さっき、きいちゃんも言ってたじゃん。“ゆうなちゃんの近くにいるだけで、周りに影響が出る”ってさ」


 刹那の肩を叩きながら、そう首を傾げると、夢姫は桔子の顔を覗きこみ先の言葉を探る。

 ――そう、頭の回転が速い方では無い夢姫でも察しがつくように、“ま”は近くにいる人に影響を及ぼすことがある。

 以前、桔子の“ま”に影響されて通り魔と化した大学生の男のように……理性を失い獣のように暴れてしまうことがあるのだ。

 彼が道具の主ではなさそうである現状……目下影響を強く受ける可能性を孕んでいるのは他でもない美咲自身であろう。


 やや安直ながら辿りついた答えの正解を求めるように投げかけられた視線を受け取ると、桔子は少し目を伏せ、首を横に振った。


「……美咲さんも、私や佐助さんと同じですよ。彼は道具に選ばれていないとはいえ、一度は“ま”に……“鬼”と化していた疫病神の影響下にいたことがある。だから、多分優菜に対しても影響を受けていないのだと思う……そうですよね、春宮さん」


 桔子の視線を受け取った八雲は、炎のような赤い瞳を伏しがちに逸らす。

 その仕草が物語るのは“見当違いな答えでは無い”と言うことだろう。桔子は息を吐くと先の言葉を飲みこみ、夢姫に向かい直ったのだった。


「――春宮八雲や風見桔子のように道具に依存し、心を委ねてしまった者、佐助や吾妻美咲のように一度は“ま”に飲みこまれ、自我を委ねてしまった者……必ずとは言えぬが、そう言った“心”を手放しかけた人間はその分影響を受けにくくなる」

「……あえ。まやちゃん!? いつの間に?」


 口を閉ざした八雲の代わり、と言わんばかりに澄み切った細い声が店内の静寂を切り裂く。

 物音の一つも無いままいつの間にか空間内に姿を見せた摩耶は、佐助の座る椅子の隣に寄り添い立つと、目を瞬かせていた夢姫を見つめ微笑んだ。



「……驚かせてしまったようだな。ともかく、あの少年の方はさほど心配はいらぬであろう。それよりも……あの優菜と言う少女の状況だ。昨日よりも道具による浸食が進んでおるようだ」


 その姿を見ることの出来ないクララと詠巳を除く、その場にいる全員の視線を集めると、摩耶は赤い瞳を伏せ呟く。

 語られた言葉は想像通りの展開を描いていおり、耳を傾けていた刹那は皆の気持ちを代表するかのようにため息を落としたのだった。


「……昨日の邂逅より、状況は悪化していると捉えた方が良さそうだね」

「ああ。……それと、どうやらあの少女は彼女が根城としておる“建物”自体にも強い執着をしておるようで、敷地全体を取り囲むように“ま”の壁を作りだしてしまっておるようだ」

「バリアー張っちゃったってこと!? あのお家に思い入れでもあるのかなあ? ……きいちゃん、何か聞いてないの?」

「美咲さんは何か知ってそうな口ぶりでしたけど……申し訳ないけど、私は全く」

「そっかあ……」


 摩耶の言葉に腕を組んだまま耳を傾ける刹那の真似をするかのように、夢姫もまた腕を組むと傍らの桔子に首を傾げてみる。

 だが、“それ以上の言葉を持たない”と言わんばかりに首を横に振る桔子の姿を見届けると、夢姫はうなるようにため息を落とした。



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