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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
9.然も云はざりけるに
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9-2


「“助けたい”……って、それだけで良いと思うよ。……俺は今回の事、完全に部外者だけど……見てきた以上、皆が笑って過ごせる道を見つけたいって思うし」

「べ……別に助けたい訳ではない!! ただ、あのチビ女の“道具”を野放しに出来ないだけだ!」


 和輝が返した言葉に、僅かに頷く……と思いきや、佐助はすぐに我に返ったかのように鋭い視線を跳ね返し、勢いに任せて立ち上がった。


「あー……じゃあ、それで良いんじゃない……?」

「何だその目は! 何か諦めたような目をするな! ……と言うか、そもそも人が話しておる時に食事するなど無礼だと思わぬのか貴様!」

「いや元はと言えば佐助が人の朝食時に居座ってるからだと思うんだけど……照れたからって八つ当たりすんなよ」

「はあ!?」


 “言ってしまった”と和輝が口を抑えても、後の祭りである。

 本当の事しか言っていない訳だが……図星であるがゆえに佐助は閉口し眉毛を釣り上げた。


「折角心配してやったと言うのに」

「やっぱり心配してたんじゃ」

「違ううるさい黙れ馬鹿!」


 佐助が罵詈雑言の勢いに身を委ねてテーブルを叩くと、僅かに残っていた味噌汁がお椀の中で揺れた。

 和輝が何か言い返そうと口を開くと――

 ふと、二人の視界の端に大きな体と逞しい腕が横切ったのだった。


「喧嘩しないの!! めっ! だぞ!」


 その瞬間、二人の額にはほぼ同時に刺す様な鋭い痛みが駆け抜ける。

 脳天を駆け巡る痛みに声も無く顔を伏せると、視界の片隅に立ちはだかる褐色肌の巨人は逞しい腕を骨太な腰に添えてため息を落とした。


「んもう! 男の子ってどうしていつも喧嘩ばっかりするのだ? これだから男って生き物は~」


 “いや待てお前も男だろう”

 ――和輝と佐助、二人は声に出さないままであったが、この瞬間確かに同じ理不尽を共有していたのだった。



―――



 痛むおでこを労わりながら和輝は朝食を平らげ、下げられた御膳はクララが片付ける。

 店が営業時間を迎える頃には刹那や詠巳、そして寛二朗も加わり、來葉堂はいつにない盛況な様相と相成った。


「よおーっし! これであらかた揃ったなあ! 今日こそはあのぬいぐるみの嬢ちゃんを止めるぞ!」

「“あらかた揃って”ないけどね。君は夢姫ちゃんと桔子ちゃんの存在を忘れていないかい?」

「あと木偶(デク)の坊、貴様が仕切るな。誰のせいでこうもややこしくなったと思っておるのか」


 寛二朗が両手を叩き一同を鼓舞する……が、朝から灼熱テンションの熱血漢とは対照的に、刹那と佐助は頬杖をついたまま冷ややかなツッコミを浴びせている。

 以前は険悪そのものであった上に和解の糸口も見つかっていないはずの二人が息を揃えている――

 これは佐助の心の移り変わり如何では無く単純に寛二朗の存在感に所以するのだろうと言う結論に辿りつくと、和輝は一人苦笑いを浮かべたのだった。



「――あれ、きいちゃんは?」


 噂をすれば何とやら、とでも記すべきか――

 寛二朗の笑い声にかき消されたベルの音と共に、甲高い声が室内に舞い込む。


 いつも通り気合の入ったミニスカート姿で、“今から戦いになるかもしれない”と言う現実を一切無視した厚底のミュールを打ち鳴らしていた夢姫は店内をぐるりと見渡すと腕を組み口をへの字に曲げていたのだった。


「風見さんはまだ来ていないわよ。……ここに来る前に家を訪ねたら、もう出たって仰ってたから、てっきり一緒なんだと思っていたのだけど」

「あっれ、よみちゃん!? ……おかしいなあ、てっきりよみちゃんと先に行ったのかと思ったのに?」


 カウンター席の隅に佇んでいた詠巳が首を傾げると、真似するように夢姫も首を傾げる。

 ……少女二人の言葉を拾う限り、お互いに桔子の家を訪ね、共に來葉堂へ向かおうと打診したようだが、夢姫が開け放した扉は反動でゆっくりと閉まるのみ――後ろに桔子の姿は無い様子であった。


「もしかして……美咲さんの手に?」


 カウンターの向こうからやりとりを覗き見ていたソラが小さく呟くと、隣のクララと顔を見合わせる。理性を失ってしまっている優菜とは異なり、美咲は狡猾である事をソラが一番理解していたからだ。


「あの方は、“いかに、にくむ相手に心のキズを負わせるか”……そのさいぜんの方法を選んでいるように思います……」

「あいつ……!」


 ソラが言い終えるよりも先に、悪い展開を想像してしまった様子の夢姫は踵を返し閉まりきった扉を再び開け放す。

 単純に考える夢姫の事、彼女が向かおうとしている場所が安易に想像できた刹那が慌ててその手を取り動きを制した。


「待つんだ夢姫ちゃん、まだそうだと決まった訳じゃないし、何より一人で行くなんて危険だよ!」

「でも、きいちゃんが!」

「……はい、私がどうかしました?」

「…………は?」


 開け放した扉から素っ頓狂な声が跳ね返り、夢姫の動きが止まった。

 それも仕方がない事であろう。救いに行かねばと息まいていたその相手がまさに今目の前に立っていたのだから。



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