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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
8.密夫と心を合せて
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8-9


「――まあ、文字通り(高血圧誘)本当に何(発剤の話)も出(参照)来なくって結局(クララ)を雇うことになったけど」

「その節はすみませんでした」


 光を失った刀を握り直すと、和輝はため息を落とした。

 和輝もまた、出会った頃の事を思い出す。まだ幼いながらに描いた気持ちが頭を駆け巡っていった。


「……あの頃は、とにかく何もかもを認めて、許してくれる春宮さんが本当に聖人に思えて……“役に立ちたい”って必死でした。家ではいつも兄さんと比べられて、怒られて……よく覚えてもいない兄さんなんかより、春宮さんが俺の兄だったらよかったのに、って思ってました」

「……」

「いつしか、“師匠”の言葉だけが俺の世界に。……師匠の為に生きる事が俺の使命かのようになっていったんです」



 ―――



「あの! ……おれ、考えたんですけど、こちらで今日からお世話になるにあたり、呼び方を変えても良いでしょうか」

「呼び方? ……別に、何でも良いけど」

「じゃあ、“師匠”って呼ばせて下さい」

「師匠? ……俺、別に何も教えたりしてないよ」

「良いんです! だって――」


 それは初めて“來葉堂”にやってきた日の記憶。

 まだクララが雇われる前の事。乱雑に積み重ねられた僅かばかりの骨董品がカウンター上を占拠し、“喫茶店”と呼ぶのは失礼な有様だった。

 それでも、和輝にとっては――それまでの自分が生家で受けていた扱いに比べたら雲泥の差があり、ここで始まる新しい生活を彩る“額縁”のようで……。

 生まれて初めて味わう“気持ちの高揚”をひた隠しにしていた。



「……でも、時間を重ねるうちに“兄さん”と話しが出来たり、春宮さん以外とも心を重ねるうち、少し認識が変わりました。確かによく考えたら人でなしって言うかこき使うし俺を隠れ蓑にして変なもの買うしそれのせいで風見に怒られるし過去の話聞いても全く共感しようのない畜生エピソードって言うか本当によくもまあのうのうと生きていられますね」

「ここぞとばかりにディスるね」

「この際なので」


 和輝は刀を片手に持ち変えると、その重みに逆らう事無く降ろす。

 焦茶色の瞳に憎しみは微塵も残さないまま顔を上げると、さほど変わらない背丈の八雲の顔をまっすぐに見つめた。


「確かに、ろくでもない。だけど、俺にとっては……」



 和輝にとって、來葉堂での日々は真っ白なところからの始まりだった。

 中学に進学してから実家にいた頃の友人とは疎遠になり、徐々に自分の“心”を見つけていった。


「貴方にとって俺が身代わりであっても……心を癒す為の“道具”であっても。俺にとっては、居場所をくれた大切な人でした」


 “――師匠の技は盗んで覚えるものだって、前にテレビで見ました。師匠は黙って背中を見せる。そして弟子はその思いを汲み取り付いていくんです”


 自分の“心”をしっかりと見つけたからこそ、和輝は前を向いた。


「……だから、“役に立ちたい”と言う気持ちは変わりません。とは言え、春宮さんの悪いところも、今後はちゃんと学んでいきたい所存ですが……。春宮さんが“駄目人間”なら、俺はその後ろ姿から学び取り、反面教師にして真っ当に生きるだけかなって」


 和輝ははっきりとした言葉で紡ぐと、空いている片手を差し出し微笑む。

 幼い頃の彼はもっと下手くそでぎこちない笑顔だったと記憶していた八雲は、昔より自然に笑う和輝の手を握る事も出来ないまま目を逸らした。


「軽蔑しないの? 自分で言うのもなんだけど、最低だろう?」

「はい。……正直、今までは同じ人間じゃないんじゃないかって思う事もありましたけど春宮さんもただの人だって……俺みたいに子供の頃があって、悩んだ頃もあったんだって分かりましたから。軽蔑する事もありませんが、盲信もしない事に決めました」


 迷いの無い和輝の言葉を受け取ると、八雲もまた視線を返した。

 一切全てが許されたとは思っていない、思ってはいけないと理解したうえで息を吐くと差しだされていた手を握り返す。


「分かった。……ありがとう、和輝」

「お礼を言われることは何もしてませんよ。これからも宜しくお願いします。……師匠」



 ―――



「――どうしてあんな凶行に及んだのかなんて分かりません。何か事情があったのか、そして本当に“道具”と心を重ねた結果の惨劇なのか? ……ただ、一つ言える事は、あの日彼は確かに“疫病神”と呼ばれ、私の姉を、美咲さんの母親を見殺しにしたという事実だけです」


 桔子は自分が見たものを――“梗耶”として生きるにいたった経緯、美咲が見たであろう景色を言葉に紡ぐとため息をつく。

 思いだしたくない記憶を脳裏に過らせたのだろうか、包帯に包まれ不自由な指先を守るようにして握りしめていた。


「八雲さんが“疫病神”なの? ……ダジャレみたいなのだ」

「クララちゃんそれ面白くないよ」

「夢姫ちゃんに言われると流石に傷つく……」


 しんと静まり返ってしまった店内を温めようとしたのだろうか。クララがぽつりと呟いてみたが重い空気に飲みこまれてしまったようで巨体をすぼめてカウンター裏に身を潜める。

 刹那や佐助はそれぞれ空気を察しようとしないまま沈黙を貫き、各々思案を巡らせているようであった。


「よく分かんねーけどよお? その疫病神さんとやらは昔でこそやっちまったけど、今は“弟子”もいて慕われてるんだろ? だったら反省してんじゃねえか?」


 基本的に空気を読めない仕様なのだろう。寛二朗が臆することなく歩み寄ると、それに気付いた桔子は自身にとって初対面の大男の距離感の無さに驚き目を見開く。


「……そう言う問題じゃないんじゃないかな。……例え、悔い改めて陽の当たる場所にいたとしても、その人の罪は消えない。心に傷を負った被害者にとって、加害者は一生“傷を負わせた咎人(トガビト)”だよ」

「お、おう?」


 桔子の戸惑いを察したのか、庇うように寛二朗の行く手を阻むと、刹那が息を吐いた。

 ……が。


「ツナ坊……頼む、もうちょっと簡略に言ってくれ」

「もう良い」


 彼特有の癖のある言い回しに慣れていない寛二朗が頬を掻くと、刹那は呆れたようにため息を落としたのだった。


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