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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
7.只最初の妙の一字許残り留て
67/287

7-7


「――みんな! 和輝もいるのね、んんんん無事で良かったわあ……!」

「クララちゃん! それよりこっちに救急箱ちょうだい!! けが人いるの!」


 刹那が背負った和輝をソファー席に横たえると、クララは瞳に黒い涙を滲ませ駆け寄る。

 悪夢のような顔が目前に迫ってくる恐怖。

 その場から逃げ出し離れたくなっていた刹那を救ったのは夢姫で、艶やかな着物の袖を引くとカウンター席に腰かけた桔子を指さした。


「あら、怪我人いるの……って血だらけええ!! いやぁーん!!? ちょ、救急車! 誰か!!」

「クララちゃん良いから救急箱……顔溶けてるから!」


 ――混迷を極めたクララを余所に冷静さを保っていた詠巳は救急箱を夢姫に手渡し、続けて和輝を見守る刹那にブランケットを持ち寄る。

 その的確な仕事さばきに感銘を受けた寛二朗が両手を広げ駆け寄り、詠巳がそれすらも華麗にかわしながら的確な処置を続ける中――それぞれ、ようやく冷静さを取り戻し始めたのだった。



 ―――



「――あ!? いないと思ったら、何やってたのよ馬鹿佐助!」

「……貴様には関係ない。うるさい」

「何よもー……!」


 ――引き返さざるを得なかった佐助は、あしらうように夢姫をかわすといつもの指定席へ腰かける。

 追及を試みていた夢姫を詠巳がたしなめていると、ちょうど二階へあがっていた刹那が戻ってきたのだった。


 意識を手放したままである和輝とソラは、それぞれ八雲と刹那が二人の居室でもある二階の部屋に運ばれた。二人とも重篤な様子とは見受けられず、ただ眠っているだけのように穏やかに瞳を閉じている様子であり……つきそう必要も無いであろうと判断した刹那だけがおりてきたのだ。

 刹那は少しばかり落ち着きを取り戻した店内を見渡すと、不安げに視線を手向けていた夢姫の頭をなでるとクララの元へ歩み寄った。


「――あ、刹那君ありがとうね、クララ、つい取りみだしちゃって……」

「いえ、気にしないでください。……弟さんは、今はただ眠っているだけのようですから」

「う、うん……」


 メイクがすっかり溶けてしまって白黒のまだら模様になってしまった目元を軽く拭うと、不安げな表情のままの夢姫と視線を合わせ、言葉を詰まらせる。


「本当に眠っているだけだと思いますよ。ここ数日間は寝ていないはずですから」

「きいちゃん、なんでわかるの?」

「……なんでって、私がそうさせたのだから」

「ほへ?」


 夢姫達を安心させるためなのか、はたまた自分に言い聞かせたのか……俯いたままの桔子が呟くと、クララや刹那も傷だらけの少女に視線を落とした。


「まあ、信じなくっても良いんですけど」


 ふと、夢姫以外から手向けられた猜疑の視線に気付いた桔子は自嘲気味に一笑する。

 先程まではクララを中心に各々が自分自身の事で精一杯であったがゆえに気にかける事も無かった訳だが、元はと言えば和輝の一件、“梗耶”の事――全ての始まりは、ここにいる桔子だった。

 その元凶と言える少女が然も当たり前のように同じ空間にいる……今だ状況を掴むに至っていない刹那やクララ達にとっては俄かに信じがたい現状であり、その怪訝な眼差しは桔子に注ぎこまれていた。


「……“どうして、対峙していたはずの敵さんがここにいるの”と言いたげですね?」

「あう」


 名探偵に犯行動機を見破られた犯人のように口を曲げると、クララは助けを求めるように夢姫を見つめる。

 巨体が縮こまり、もじもじと見つめてくる姿はいい景色とは到底言い難いものであり、流石の夢姫であっても気持ちのいいものでは無かった。


「ちょっときいちゃん!」


 夢姫が語気を強めたまま桔子の元へ駆け寄った時。

 ――言い返そうを口を開いた桔子を遮ったのは、いつもの席で(勝手に)お茶を淹れて口を温めていた佐助の方であった。


「貴様の方は“復讐”とやらが終わったのであろう? ……ならば禍根(カコン)は無いはずだから無理に追い出す必要も無かろう……ん?」


 言いかけた佐助は、先程まで桔子に向けられていた猜疑的な視線が自分に向けられてる事に気付くと口を曲げる。


「……あんた、ほんとに佐助、よね?」

「はあ?」

「うん、クララが知る佐助ちゃんなら“悪即斬(斬る切るkill)”って感じで真っ先に喧嘩売りに行っちゃうと思ったんだけど」

「白妖怪まで」


 刹那やクララばかりか、気がつけば夢姫までもが目を細めて佐助を見つめていた。

 ……だが、それも無理はなかった。

 今までであれば、真っ先に目の前の“異物”を排除しようと試みるのは佐助であったからだ。

 敵と疑わしきは考えるよりも先に消し去る――発言の端々からもそれは明白であったし、実際夢姫でさえも幾度となく排除されかけたのだ。


「……こんな寿命間際のオンボロ屋敷でやりあって、倒壊を早める必要も無いと言っているだけだ。それよりはこのボロ雑巾(桔子)を人質にでもとって、吾妻とクソチビ女を潰す方が手っ取り早かろう」


 そのもっともな疑念には佐助自身も思う所があったのだろう。

 答えをはぐらかすように残ったお茶を飲み干すと、腕を組んで桔子を睨みつけたのだった。


「――吾妻が、何故自身の命を賭してまで“疫病神”に固執するのか。それが僕には分からない。……ボロ雑巾、分かる範囲で構わん。話せ」

「……それが人に頼む態度ですか。まあ、今回は対当じゃない事を認めますので大目に見ますけど」


 桔子は降参したように両手を上げる。

 詠巳によって処置が完了した桔子の両手には包帯が綺麗に巻き上げられていた。


「分かる範囲だけですけどね――」


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