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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
2.日当らざる故に
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2-2


 ――明陽学園高等部、一年一組の教室には真新しい制服に身を包んだ若々しい声が響き渡っていた。


「ねえねえ、今日のお昼さ、一緒に食堂行ってみない? お弁当持参でも良いらしいからさ~カッコいい先輩とか探したいんだけど!」

「ええ? あたし屋上行ってみたいんだけど」

「屋上って、去年自殺未遂事件が起こって封鎖になったらしいよ」

「マジ!?」


 入学から一週間が過ぎ、クラス内には早速グループのようなものが形成され始めていた。


「……下らん」


 佐助は、誰にでもなく呟くと、そうため息を落とす。

 ……そう、誰もが予想の範疇(ハンチュウ)であっただろうが、彼は相変わらず友達と呼べる存在が出来ていないのだ。


 元々“人に合わせる”と言った付き合いの基本が出来ないばかりか、その傍らには校則違反の木刀。

 仲良くなれそうな気配が皆無である彼を、旧友たちは敬遠し始めていた。


 次の授業が終われば昼食の時間――

 当然ながら、共に昼食をとろうなどと言う奇特な生徒はクラスにいない。佐助は今日も和輝の元へ乗り込もうか、などと思案しつつ次に使う教科書を机に並べる。


 ふと、前の席の生徒がこちらを振り返った気配に気付き佐助は顔を上げた。


「……何を見ておる」

「何とは何ですか~! 早々に高校デビュー失敗した久世君にチャンスをあげたと言うのに。その返答だと普通好感度下がりますよ~?」

「貴様の好感度などいらん。前を向け」

「あっ言っておきますけど、俺は親友枠。攻略対象じゃありませんからね! まあチュートリアル担当のキャラというか」

「ごちゃごちゃうるさい! 前を向け“片目”!」


 会話を続ける気がない佐助が鋭く視線を投げつけてみるが、前の席の少年は――片目を覆い隠す左右非対称(アシンメトリ)の髪の毛先を指で弄び一笑に伏した。


「そのあだ名は傷つきますよ~? 俺にはちゃんとした名前が。“吾妻(アガツマ) 美咲(ミサキ)”と言う名前があると言うのに! あ~泣きそうです~入学早々いじめだ差別だああもうこれは学校側に強く抗議して親御さんを呼びだしてもらって」

「一気に喋るな! ……ああ疲れる。まったく、何なんだ貴様は……」

「ええ? 自己紹介聞いてなかったんですか? だから友達が出来ないんですねえ良いですか俺の名前は――」

「“吾妻美咲”だろう! 二回も名乗らなくて良い!」


 ――男女混合の出席番号順に並べられた机……佐助の前の席は件の少年、美咲のもの。

 美咲と梗耶の邂逅(カイコウ)も、不穏な気配をまとった少女――優菜との関係性も、佐助の知るところではない。

 つまり、佐助にとって美咲はごく普通の男子生徒そのものである。

 それゆえに“仲良くする義理もない”と入学当初から冷たくあしらい続けているのだった。


「はあい、“美咲君”でも“吾妻君”でもどちらで呼んでも構いませんよ~。ああ、でも攻略キャラによってはいきなり名前で呼ぶと逆効果になる場合もありまして」

「その話はもう良い。……で、何の用だ吾妻」

「あっ呼び捨てもキャラによっては」

「それはもう良い!」


 一向に進展する気配を見せない言葉のキャッチボールに徐々に苛立ちを募らせた佐助が投げつけるように返すと、受け取った美咲はまるで悪びれる様子もなく笑う。


「本当に怖いですねえ~だからモテないんですね分かります! ……折角、女子ウケ抜群な“噂話”を仕入れた、と言うのに」

「……は?」

「お? 食いつきましたねやっぱり男の子ですねえ」

「違うわ!」

「……もしかして久世君……女の子でしたか? これは失敬」

「お前と話していると話が進まないな」


 “女の子”と言うキーワードで、何故か真っ先に思い浮かんだ“白塗り妖怪(クララ)”のイメージを、頭を振り払拭している佐助の背中を誰かが指でつついた。


 姿勢よく自席に着座していた佐助のすぐ真後ろの席の生徒であろう。美咲に対する刺々しい視線をそのままに背後に向けると、真後ろの男子生徒はどもったようなはっきりとしない言葉を紡ぎ始めた。


「あああ、あの、そ、それって“火災跡地の疫病神”の事……?」


 肩をすぼめ、声を震わせながらも言葉を紡ぎあげた男子生徒はレンズが厚い眼鏡を両手で押し上げる。


 いつの間にか席を立ち隣に隣に来ていた美咲が頷き、手を叩く一方――佐助にとっては聞きなれない単語の数々であり、思わず首をかしげていた。


「火災? ……疫病神?」

「ええ? まさかご存じないです? 久世君昔っからこの辺住んでるんでしょう?」

「うるさい吾妻」


 男子生徒は佐助をたしなめる。少し緊張がほぐれて来たのか先程の第一声よりもしっかりとした声で話し始める。


「じゅ、十年……あ、もう十一年か、それくらい前に商業施設で火事があったの……知ってる、よね……?」

「……名前だけは」


 ――十一年前の春、商業施設を丸ごと焼きつくし、死者・十名、負傷者・百八名という甚大な被害を生んだ火災事故が起きた。


 消火設備の故障、定期点検時に見落とされた小さな部品の破損、施設管理者側の人的ミス――それらの不幸が重なった結果の事故としてこの一件は片付けられた。


 ……だが、事故の傷跡も消えない時期に子供たちの間でとある“噂話”が流行り始めた。


 “あの火災現場で、疫病神を見た人がいる”と。


 黒髪を熱風に揺らめかせ、まるで絵画のように美しく整った顔立ちの美少年の冷たい瞳には炎のような赤が宿る。


 一面の炎の世界、地獄のようなその光景を楽しんでいるかのように少年は笑っていた――



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