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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
6.然る堪難き目を見て命を生きたる
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6-12

 

「――本当に良いのかい? 君のお兄さん(クララ)、かなり心配してたから顔くらい見せてあげた方が」

「いや、あの顔見たらぶっ倒れますので。俺が精神的に安定してからにしときます」

「既に刺激物扱いなんだね……」


 その頃、詠巳を來葉堂前で見送った刹那達は、休む間もなく夢姫や佐助が居るであろう場所へと向かっていた。


 話しかければ相槌くらいは返すものの、笑う事もしない和輝との二人だけの道すがらは刹那にとって居心地が良いものではなかった。

 だが、だからと言って放っておく事も出来ないと様子を伺い見ながら先を急いだ。


「――さっきの話の続きでもしましょうか」

「え……?」


 はやる気持ちで足を急がせていた刹那とは裏腹にやけにゆっくりと歩く和輝は沈黙を破るように小さな声を紡ぐ。


 ……目論みを打ち明けた上で、更に時間を稼ぎたいのかもしれない。

 刹那はそう感付いてはいたが今ここで暴力に訴える必要性を感じなかったがゆえに足を止め和輝を見据えると深いため息を落とした。


「……夢姫ちゃんの事、心配じゃないのかい? いま彼女は恐らく一人で戦っている。それは君の為でもある。……それなのに、どうして敵であるはずの桔子さんを助けるような真似をするんだい?」


 強い口調で刹那が切り返すと、真正面で受け止めた和輝は目を見開く。まるで想定外の言葉を聞いたかのような表情を浮かべたかと思えば、すぐに息を吐き視線を逸らした。


「どちらかを助ける、とか守るって言うのは、違うかなって思ったんですよね」

「どういう事だい?」

「……少なくとも風見はそれを望んでいた。俺や逢坂さんが間に入ったとしてもそれは本当の意味での救いにならないんですよ。どんな結末であれ、これは当人同士――水瀬と風見だけで解決させる必要がある」


 刹那にとって、和輝の言いたい事が理解できない訳では無かった。

 聞く限りでは風見桔子が憎んでいるのは火災に関わったとされる“疫病神”ではなく、幼馴染であるはずの夢姫のようである。

 和輝が言っている事はつまり“憎んでいる相手と腹を割って話させる”と言う事であろう。


「だけど……」


 刹那が気にかけていた事は、その先の事だった。


「……もし、それで夢姫ちゃんが傷付く結果に終わったとしたら……? 和輝君、君は夢姫ちゃんが傷ついたとしてもその先の責任を取れる立場でもないだろう? 君の言っている事は無責任な事なんじゃないかな……」


 ――みんながみんな、お互いを思い合って生きている訳ではない。相手を傷付けたとしても自分を守りたい人だっている。


 悪い未来が安易に想像できていた刹那がそう呟き目を逸らすと、“一理ある”とは考え至ったのだろう、和輝は息を吐いた。


「風見の方は……大丈夫です。見てたら分かりますよ。……本当に心から憎んで、拒んでいたらあんなに水瀬に執着するはずが無いんです。あんな馬鹿で馬鹿で、馬鹿なヤツは放っておけば良いわけですから」

「とてつもなくディスるね」


 “だって、馬鹿以外に言いようがなかったので”といつもの調子で一笑に伏すと、和輝は足を止めた。


「それに水瀬は――」


 ――差しかかった坂道の途中で、和輝は頂上を見上げる。

 その視線を辿り、刹那も目を凝らしてみると……奥に見えるのは大きな囲いに守られてそびえ立つ一件の邸宅のようであった。


「……あいつは馬鹿だけど、誰かに何か言われたくらいで傷付いて、逃げだすような弱い奴じゃないって、信じてますから。……風見とも、ちゃんと決着をつけられるはずです」



 ―――



「――死にました?」


 地面に刺さると同時に刃は溶けるように床板に沁み込み消えていく。

 射程範囲外にいたソラが駆け寄るよりも先に、桔子は夢姫が居るであろう黒い靄の中心にゆっくりと歩み寄っていった。


「死んで、ない……もん!!」


 甲高い声で存在を主張した少女は黒い杖を振り上げて力強く踏み込むと桔子の懐へ飛び込んで行く。


「な……!?」


 平行に握られた杖はちょうど桔子の細い首に引っかかり、踏み込んだ夢姫もろとも背中から床に倒れ込む。

 確かな手ごたえを感じていた桔子は、想像とかけ離れた夢姫の覇気に満ちた姿に声も出ずに押し倒された格好と相成った。


「夢姫さんおけがは……!」

「ソラぽん大丈夫よ! 何か、この“腕輪”が守ってくれた!」

「そう、ですか……?」


 仰向けに横たわる桔子の足の上に馬乗りをする様相となったまま、夢姫は杖を片手で天高く振り上げた。


「きょーやのふりしたこと、和輝に何かした事、ソラぽん誘拐したのも! 全部許さない……!」


 杖先でまっすぐ少女の胸を狙い定めると、夢姫は歯を食いしばった。

 睨みつけるように見上げていた少女は、夢姫の強い言葉に怯んだ様子で眉を顰めると息を飲みこむ。


「ま、待ってください夢姫さん! その子は――」


 何かを言いかけたソラの存在を思いだしたらしく、桔子は我に返ったように鏡を天井に向けて構え直す。

 鏡面から勢いよく溢れだした黒い靄は天高く立ち昇り、刃の形を成し雨のように桔子と夢姫の頭上に降り注ぎ始めた。


「なっ……!? あんた、馬鹿なの!?」


 夢姫は先程の段階で要領を掴んでいたらしく腕輪が光る手首を天高く掲げて見せると、降り注ぐ刃は腕輪にはめ込まれたガラス玉のような部分に引きこまれ吸い込まれていく。

 だが、それはあくまで夢姫の真上に降り注ぐ刃のみであり――

 桔子に降り注ぐ刃の雨は無情にも少女の細い腕や、乱れた髪の毛を切り裂いていた。



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