表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユメユメ~二年目~  作者: サトル
6.然る堪難き目を見て命を生きたる
57/287

6-10


 夢姫達が桔子の元へ向かってさほど時間が経過していないと分かれば、刹那にとってその後の行動は一つしかなかった。


「詠巳ちゃん、和輝君をお願いできる?」

「ええ大丈夫よ。……寛二朗さんはああ見えて配慮に欠けるところあるから、逢坂さんは夢姫さんを守ってあげて」

「ああ見えて……」


 恋人同士だとお互いの姿が違って見えるものなのだろうか、とわずかな邂逅ながらに感じた“配慮の欠片も見当たらない少年”の姿を思い起こしかけていた刹那であったが、ツッコミを入れている時間も惜しいと悟り口を噤む。


 ……そう、移動中の夢姫達との合流も不可能ではないのだ。

 それならば夢姫を追いかけ、事態の把握に努めた方が良いと感じた刹那は客間の畳の上に和輝を横たえると準備もそこそこに玄関へと向かったのだが――


「待って、下さい!」

「……え?」


 ――低く静かな声が呼びとめる。

 聞き馴染みのあるその声に刹那が振り返ると……そこには意識を取り戻し、辛くも上体を起こした和輝の姿があった。


「……水瀬のところ、行くんでしょ……? だったら、俺も……ついて行きます」

「だけど、和輝君……」

「身体ならもう大丈夫です。自力で歩けます」


 刹那の言葉を遮ると和輝は立ち上がり、先へと追い越して玄関へ向かっていく。

 その横顔は血色の悪さが残る姿であったが、制止しても聞かない……それどころか時間を無駄にするだけになりそうなほどに意思が堅そうで、刹那は言葉を飲みこんでいた。


「……灯之崎君も帰るなら、私もここにいる理由ないし着いて行くわよ」


 詠巳が背中にそう言葉を投げると、和輝は返事こそ返さなかったものの一度だけ立ち止まり、息をつくとまた歩き始めていく。


 拒絶では無かったのだろうと解釈した詠巳は手荷物をまとめ、和輝の後ろ姿をおいかけていく。

 刹那もまた、考えてる時間を惜しみ慌てて追いかけていった。



 ――刹那達を乗せた電車の中――向かい合わせになった四つのシートに座る三人。考えをまとめる暇も無かったままにここまでやってきた刹那と元来無口である詠巳、そして何を思うか口を閉ざしたままの和輝――

 それぞれの思惑がありそうで、それがお互いにつかみ取る事も叶わない曖昧な距離感の三人に会話など起こるはずも無く、車内には周りの乗客の声だけが響いていた。


 三人を乗せた電車は、瞬く間に駅を通り過ぎていく。

 申し分ない程に電車は急ぎ目的地へと向かっているはずだが、逸る気持ちと空間の居心地の悪さがあるのだろう、刹那はため息を落とすと不満げに車窓を流れる景色を見つめていた。


「――クララさんに連絡したのだけど、あの方だけ來葉堂に残っているみたいね。……詳しい場所は寛二朗さんに聞いた方が良さそうなのだけど……」


 沈黙を破り、詠巳が小さな声でそう言い淀むと、操作していたスマートフォンを膝の上に置いた。

 恐らく、夢姫と同行している自身の恋人――寛二朗とも連絡を取ろうと試みたが頓挫したのだと刹那は察し、視線を斜め前に座る少女に手向けた。


「恐らく、移動中か何かで連絡に気付いていないのだろうね。……彼は例え命を落としたとしても地獄の鬼に追い返されそうだし」


 フォローのつもりだったのか、はたまたただの本音だろうか……詠巳はそのどちらかを問いただすべき時ではないと判断し、一笑に伏すと「そうね」と返す。


「……良く分からなかったのだけど、クララさんが言うには“ソラ君が道を案内してくれてる”らしいから、夢姫さんか寛二朗さん、どちらかでも連絡に気付いてくれないと――」


 ――詠巳と刹那はお互い言葉にしないものの、同じ事を考えていた。

 駅に着けば、その次は先にソラの救出に向かっているはずの夢姫達を追いかける事になる。

 だが、肝心の居所を把握しなければそれも叶わない。


 いつ気付いてもらえるやも分からないまま、詠巳はスマートフォンの画面を光らせ刹那もまた視線を重ねる。

 ――自然に生まれた沈黙の中、次にそれを破ったのは先程まで会話に混ざる素振りも見せずに瞳を伏せていた和輝だった。


「水瀬たちが目指してるであろう場所……っていうか風見の場所だけなら分かりますよ」

「……え?」


 思いがけない一言であったが故、猜疑に満ちた視線を手向けられた和輝は伏せていた瞳を静かに開く。

 窓から差し込む光のせいなのか微かに赤みがかって見える瞳孔で二人を見据えると、和輝は普段と変わりのない……のんびりとした口調でもう一度同じ言葉を繰り返した。


「……だから、風見の居場所。……さっきまで見えていたから、どこにいるかくらいなら分かる」

「信じて良いんだね?」

「“信じる”とか“信じない”とか、そう言う大事な判断は相手に託さない方が良いですよ逢坂さん。……信じたくないなら頑張って鬼コールしたらいいんじゃないですか?」


 のんびりとした口調、だがどこか突き放したような冷めた言葉を言い残すと和輝は再び瞳を伏せ、腕を組むと座席のシートに身体を預ける。


 刹那が斜め前の少女を見やると、詠巳もまた判断に迷っているようで視線を落とすと首を振った。


「……分かった。僕は和輝君に着いて行くことにするよ。……駅に着いたら、詠巳ちゃんは來葉堂の方で引き続き猿喰さん達と連絡を取ってほしい。僕は連絡が取れるように留意しておくから」

「ええ……分かったわ」


 そう促すと、他に言葉が思い付かなかった様子の詠巳は深く頷く。

 “それで良いかい?”と和輝にも問いかけてみたが……眠りについた様子ではないもののその瞳が開く事はなかった。


「返事が無いなら、“意見が無い”と言う事に捉える事にするよ、和輝君」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ