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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
6.然る堪難き目を見て命を生きたる
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6-8


「……流石は猿喰の子か。一切の強引さも見せずに我々から“鬼”の少女の気を逸らしてくれたようだ」

「摩耶様、もういっそあいつをおとりにしてチビガキ(優菜)を倒しませんか」


 子供の扱いに長けている様子の寛二朗は、媚びる事もしない自然体のままで優菜の笑顔を引きだしているようである。

 ――だが“天賦(テンブ)の才”と評するよりは“当人自身が大きい子供であるのだから、同じ目線で接することが出来るのだろう”……と、半ば呆れたように結論付けた様子の佐助がちゅうちょなく木刀を振り上げた。


「ま、まあ待て……あの者なりの考えがあるはずだ、あの男、中々に頭が切れると見た。早合点せずに様子を見よう……」


 良く知る佐助の性格、そして安易に察せる寛二朗の気性……このまま放っておくと仲間割れとも称せない混沌とした乱闘が起こる。

 そんな予感がした摩耶は慌てて佐助を(ナダ)め、寛二朗の大きな背中を見つめた。


「優菜が十数えるから、それまでに隠れてね?」

「おう! 見つかったら交代だな!」

「うん、そしたらお兄ちゃんが“鬼”になるんだよ~」

「分かった!」


 子供らしく大まかにルールを取り決め合うと、優菜は両手に抱いたぬいぐるみの後頭部に顔を埋めて目を隠す。

 それと同時に寛二朗は走り出し、大きな身体を柔軟に屈みこませて物置と塀のすきまに身を潜めた。


 ヘタな抑揚で一から数字を数え始めた幼き少女は今、まさに隙しかない状況である。

 ――“ま”の根源となっているぬいぐるみ・ライタくんを奪うとしたらこれ以上ない絶好のチャンスである事は一目瞭然であった。

 摩耶と佐助は視線を重ねると、言葉を交わす事も無くお互いの意思を確認するように頷く。

 佐助が木刀を構えて腰を落とし、傍らの摩耶は杖を片手に握り直し、少女が紡ぐ無垢なカウントダウンが残りわずかとなった頃に二人は物陰から静かに飛び出した。


「……はーち、きゅー」

「……お? おお!? 詠巳から電話あってた! チビちゃん(優菜)チビ助(佐助)! ちょっと待てよ~」

「は……!?」


 ――その時だ。

 佐助たちの緊張を削ぎ落すように寛二朗の呑気な声が響き渡ったのだった。


「じゅう! ……うう? ねえちょっとお兄ちゃんたち、隠れる気ある……?」


 弾けるような笑顔で数え終わった少女が顔をあげると――そこには携帯電話を片手に物陰から姿を現した寛二朗と、木刀を構えたままの佐助……そして頭を抱えた摩耶の姿があった。


「すまぬ佐助……前言撤回だ」

「ええ。あの男、正真正銘本物の馬鹿です」



―――



「――逢坂さん、顔色悪いですよ?」


 ――鏡の中の世界ではお互いの出方を伺うようにして二人の少年は武器を携えたまま呼吸を繰り返す。

 普段、温厚で特に狂気を孕んだ事もなかった和輝であるがゆえに、今何を思い刃を向けているのか……。

 考えたところで思い当たる節もなく、答えらしい答えを見いだせないままの刹那は震える両手と早まる鼓動を呼吸で誤魔化していた。


「ちょっと朝早かったからかな……良く分かったね和輝君」

「人の顔色伺うのは慣れてるんで。……まあ、無駄話はこれくらいで良いでしょう、逢坂さんが体調不良でも俺は容赦しませんよ!!」


 その言葉通りに和輝は一切の躊躇もない力強い足取りで踏み込むと、腰を落とし刹那の腹部目掛け刀を横に一閃させる。

 構えた大剣を盾代わりに切っ先を受けると、刹那は剣を地面に突き立てたまま、それを軸に体を捩り和輝の腹部を蹴り飛ばした。


「くっ……ははは、チャンバラって言ってるじゃないですか逢坂さん……っ! そんなの、卑怯……!」


 呆気なく吹き飛んだ和輝は、自身が作り上げた壁に背中を投げ出す。

 それでも和輝はどこか楽しそうに笑みを溢し、休む間もなく立ち上がっていた。


「……ごめん、チャンバラはやった事無いんだ。ねえ……和輝君はどうしてそんな笑っていられるんだい?」

「ええ? だって楽しいじゃないですか! 俺、あんたと戦ってみたかったんですよ!」


 確実にダメージは残っているのだろう……和輝は先ほどよりも鈍った動きを隠しきれないまま刀を振り上げる。

 振り下ろされる瞬間、刹那は剣先を軸に飛び避けると、すぐに大剣を構えた……が、それを目の前で確かな隙を見せる少年に振るうことが憚られ、唇を噛み締めた。


「は……っ、なんで止めちゃうんですか……?! 遠慮なんていらないですよ、あんた、“守りたいモノ”ってそんな程度なんですか……っ」


 刹那が大剣を地面に突き立てると、それを眺めていた和輝が荒い呼吸の合間に言葉を投げつける。

 先程刹那が与えたダメージだけがそうさせているとは思い難いほど、和輝は痛むであろう体を壁に預け、まっすぐに睨みつけていた。


「……無理だ。やっぱり、戦えない」

「は……なんで」

「何で、って……」


 刹那は言葉を詰まらせ、息を吐く。

 だが、それは言葉を選びかねているのではなく……返す言葉が見つからなかったからだ。


「か……和輝君が、苦しそうだから……?」

「いやあんた不良とかワンパンでぶっ飛ばすじゃないっすか。躊躇なく。遠慮なく」


 目の前に対峙する“敵”は弱っていく一方であり、何なら刹那が手を下さなくとも時間と共に崩れ落ちるであろう未来は容易に想像が出来る。

 だが、震える手がとどめを刺す事をためらっていた。


「……逢坂さんがそのつもりでも、俺はやめませんよ」


 刹那の慮る心とは裏腹に、和輝は刀を片手に構え直すと切っ先をまっすぐに手向ける。

 戦意を失っていないと言う意思表示のつもりだったのだろう。赤に染まった瞳でまっすぐに刹那を射ぬくと息を吐き、覚束ない足元に力を入れた。


「まさか、逢坂さんともあろう人が……“怖い”とか言いませんよね?」


 挑発するように鼻で笑うと、和輝は刀を振りかざして立ちつくす刹那に垂直に振り下ろす。

 だが、確実に和輝は体力を消耗しているようでその切っ先に勢いは無く……刹那は難なく刀の描く軌道を見極める事が出来た。


「避けてばっかりいないで、戦って下さいよ!」


 肩で息をする状態の和輝だが、その言葉は依然として強気なままである。

 むしろ焚き付けているかのようにさえ聞こえる挑発的な言葉の数々に、刹那はある答えに辿りつきかけていた。



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