6-5
話しあった結果、戦う力を持たない(?)クララは來葉堂に残り、未だ外出先から戻らないままの八雲や、詠巳との連携をとる事となった。
夢姫と佐助は当人たちの希望が強かった為、先陣を切って飛び出した格好で、寛二朗と摩耶はそれぞれのサポートとクララとの連絡係も兼ねる。
その場しのぎのグループ構成と相成り、それぞれを良く知る摩耶にとっては不安も大いにあったが……共通の敵があると言う結束感があるのか、はたまた佐助の心境に変化があったのか、夢姫と佐助は特に言い争う事もなく町を駆け抜けていった。
「皆さん、こっちです! ……この、丘の上――」
佐助の腕に抱かれた猫姿のソラが短い前足で指さすと、そこには一件の邸宅があった。
思わず見上げてしまうほど大きく、そして広い洋風建築の建物。
だが、正面で出迎えた大きな門は錆びついたまま、閉まりきらずに風にその身を揺らし、奥に見える庭には雑草が生い茂っていた。
「皆、気をつけろ。……“修羅”と“餓鬼”の気配がする」
「はい……ぼくが連れてこられた時点で片目をかくした少年もいましたから、おそらくは……」
「敵さん勢ぞろいってわけだな!」
三者三様の言葉を受け取ると、佐助はしっかりと頷き、視線を屋敷に手向ける。
――閑散とした庭には花壇があったのだろう。枯れ果てた花のクキと、踏み荒らされた土だけが寂しく残る。隅に目をやると幼児向けの玩具が雨に打たれ朽ち果てていた。
大きな屋敷の傍らには犬小屋のようなものもあるが、犬が居る気配は無いようだ。
屋敷の窓ガラスの向こうに人の姿が見えないか目を凝らしてみたが――流石にそこまで把握することは叶わず、佐助は息をついた。
「人数としてはこちらが多いとしても、向こうには人質がいる。十分に気をつけねばな」
「……うん、そーだね!」
夢姫は両手を胸の前で強く握り、意識を集めると黒い靄が両手を包み込み、やがてその手に黒い杖を形取る。並び立っていた佐助がマリンを地に降ろすと木刀を両手に構え、その横で摩耶もまた淡い光と共に白い杖を手に取った。
「――やはり来ましたかあ。ようこそ久世君、水瀬先輩……って言っても、ここは俺の家じゃないんですけどね」
「吾妻……」
寛二朗が錆びついた門を力尽くでこじ開けると、まるで到着を待っていたかのようなタイミングの良さで少年は手を叩き、歌うように言葉を紡いだ。
風に煽られ、舞い上がりそうになる前髪を片手で押さえ弄ぶと、少年――美咲は人懐こい笑顔を夢姫達に手向ける。
だが、その一切の好意を遮断したまま、佐助は木刀の切っ先を美咲に突きつけた。
「吾妻、今は貴様とおしゃべりしている暇はない。そこをどけ……さもなくば」
「お前をぶっ倒して! ……ってヤツですねえ? お気持ちは分かりますが、お断りします。これからレッツパーリィなんで忙しいんです、俺は」
「ちょっと!? パーティ……って、あんた達ソラぽんに何するつもり……!」
脳裏を掠める“最悪の展開”を拭い去るように夢姫が声を荒げると、美咲はこともなげに首を傾げ腕を組む。当たり前の事を尋ねられたかのようにあっけらかんと瞬きして見せると、やがて美咲は目を細め微笑んだ。
「んなまさか見ず知らずの子を誘拐して、一緒にゲームでもして遊びましょ! とか言い出すはずないじゃないですか? ……当然の流れで殺しますよ」
道具を構えたままの夢姫と摩耶、そして木刀を突きつけ続ける佐助と指を鳴らす寛二朗――
多勢を前に、本件の主犯であろうはずの美咲が武器らしい物一つも持っていない丸腰状態のまま呑気に話しをしている。
……その事実が物語っている事は間違いなく裏に人質が――“ソラ”の体が、ここにいない桔子と優菜の手に託されているのだと言う事だろう。
ヘタに動けば、所在も分からないまま屋敷のどこかでソラが命の危機にさらされてしまうかもしれないという焦りを胸に、佐助は木刀を握る手に力を込めると歯を食いしばり、怒りを堪え息をついた。
「なあ……吾妻。お前の言っていた話――“僕の生みの母が件の事件で亡くなった”と言う話……僕もあらましを聞いて、思い出したんだ」
「……人づてに幼少期の記憶を取り戻すとは……“記憶喪失系主人公”の才能がありますねえ」
「茶化すな! ……その、僕の場合は少し状況が異なってはいるものの、お主らの“疫病神”を憎む気持ちも理解は出来たと言う話をしているんだ!」
傍らで確かな視線を注ぐ摩耶の方を見ないまま、佐助は冷ややかな面持ちで見守る美咲にまっすぐな視線を返す。
「だが……理解は出来ても、同意は出来ない。憎むだけでは前に進めない、違うか? 仇なすものを憎み、復讐に命掛けるよりも……守ってくれた者へ恩を返す方がよほど心晴れるものではないのか?」
――おおよそ佐助らしからぬ言葉に、隣の夢姫は二度見していた。
現実の言葉だと思えなかったのだろう……自分の頬を抓ったり、後ろに控えていた寛二朗の顔を見上げてみたりと忙しそうにしている夢姫を見て見ぬふりしながら佐助が火照る顔を誤魔化すように咳払いをした。
「……勘違いしないでください」
美咲は少しの沈黙の後……明瞭な片側の瞳を地に伏せ、呟くようにぽつりぽつりと声を紡いだ。
「俺は、死んでしまった人の仇打ちでこんな事してるんじゃない……! 俺は、俺自身の為に……前を向く為にやっているんですよ。……話はそれだけですか? ならば……優菜!」
「はーい!」




