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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
6.然る堪難き目を見て命を生きたる
51/287

6-4


「――白妖怪。何があったか話せ」


 メイクを整えなおし、いつも通りの真っ白な顔に戻ったクララは夢姫達が不毛な言い争いを繰り返していた間にカウンターに戻ってきていたようだ。


 その姿にようやく気がついた佐助が争いから退き問い掛けると、クララは自身が見た一部始終を紡ごうと口を開く。

 ……だが、同じタイミングで――灰色の猫が首に付けられた鈴を揺らしながら顔をあげたのだった。


「佐助さん、巻き込む形になってしまい申し訳ありません……クララさん、ボクの方から説明させて下さい」

「その声は……ソラくん!?」


 猫の声では無い、はっきりと聞き覚えのある少年の声が狭い店内に響き、佐助達は視線を落とす。

 そこには、耳を揺り動かすマリンの姿があった。


「クララさん、佐助さん、落ちついて聞いて下さい。ソラです。今、マリンのれいばい(霊媒)能力で体を借りています」


 ――そう、佐助やクララは今まで知ることのなかった事象であるが、夢姫にとっては今さら驚く話でもない――こうして話をしている少年“ソラ”は、心が長い眠りについている八雲の実子“(ソラ)”の体を借りている魂だけの存在、いわば幽霊のようなものである。


 通常、眠ることのない魂であるソラは“体”を休める為に夜間のみ霊媒能力を持った猫……マリンの体を借りて過ごしているのだ。


 “詳しい説明は後で”と促しつつソラは概略を大まかに話すと、未だ驚きを擁したままのクララを見据え、言葉を紡いだ。


「クララさんはご存じのとおりですが、マリンは桔子さんにすいみん薬をもられて命の危機に追われてしまいました。そして、ぼくの身がらと引きかえにマリンを動物病院にはん送することを許されたので、ぼくと桔子さんは病院に行きました」


 風見 桔子――嫌な予感が的中してしまい、佐助と摩耶は視線を重ねる。

 摩耶も言葉にはしなかったものの、事の重大さを感じているようで珍しくその眉間にしわをよせ、俯いてしまった。


 一同がその小さな体に視線を預ける中、ソラは短い尻尾を揺らし更に続けた。


 ――その説明を聞くに、動物病院についた後のソラは桔子の目を盗み領収証に走り書きしたのち、それを道中に隠したようだ。


「……そして、ぼくは……“宙君”の体を桔子さん達の元に残したままではありますが、たましいだけで抜け出し、道中であった知り合いの猫さんに先程かくしたメモを託し――今に至るということです」


 ソラはそう締めくくると、怪訝な表情のままであった佐助を見上げ、ひげを揺らす。

 佐助と同様に狐にでも抓まされたような表情で見つめていたクララは、ふと何か気付いたように口元を抑えると小さい猫に視線を合わせ身をかがめた。


「じゃあ、もしかしてソラくん……桔子ちゃん達がどこにいるか、分かるってこと?」

「はい……今、桔子さんは片目をかくした少年とぬいぐるみを持った少女と……三人でいます」


 ソラは大きな口を開け言葉を紡ぐと、佐助とクララ、夢姫と寛二朗……そして、まるでその姿が見えているかのように摩耶の姿を次々と見上げ、耳を伏せた。


「……あの、おこがましいお話だとは重々しょうちしています。……でも、ぼく一人じゃどうにもできなくって……おねがいです。皆さんのお力をお貸しねがえませんか? どうか“宙君”を助けて下さい……!」


 小さな猫は背中を丸め、綺麗に座ると首を垂れる。

 ソラにとって必死の訴えだったのだろう……だが、最初から次に成すべきことは決まっていたように、各々視線を重ね合うと、代表して夢姫が視線を合わせ屈みこんだのだった。


「そんな難しいこと言わなくっても、最初っからそのつもりだよ! ……桔子はあたしが止める。そんでソラぽんも……和輝もきょーやも助けるんだから!」

「お姫ちゃんに何かあったら、俺は詠巳に顔向けできなくなっちまうからなあ! 俺も行くぜ!」

「クララも! ソラ君はクララを庇ってくれたんだもの、当然よ!」

「皆さん……」


 ソラが耳を跳ね上げ首元の鈴を鳴らす傍ら――摩耶は赤い瞳を細め、佐助へと視線を手向けた。

 摩耶が言葉にしなくとも、佐助にはその意図が痛いほど伝わっていたようで……目を伏せ、わざとらしい咳払いをして見せると、佐助はしゃがみ込んだままの夢姫の長いツーテールを引っ張りあげたのだった。


「あだ!? 何すんのよ馬鹿!」

「おい馬鹿女、勝手に仕切るな。……僕も行く。ふ、不本意だが貴様と目的は一緒だからな。お主の友達がどうなろうと知った事ではないが……この店には世話になっているし、その……」

「おお、お前さんも回りくどいな、ツナ坊と一緒だな! そこは素直に“ダチが心配”で良いんだぜ!」


 言い淀んだ佐助の頭を子犬でも可愛がるかのように力強く撫でまわし、その黒髪を乱し切ると、寛二朗は豪快に笑う。

 ボサボサになってしまった髪の毛を整える事もしないまま佐助が鋭く睨むと、寛二朗はその背中を思い切り叩き――そんなやり取りを見上げ、夢姫とソラは目を合わせ苦笑いしたのだった。


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