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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
4.此れ前生の宿報也
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4-12


「――さて、あんまりのんびりしていられねえな、早速行こうか」


 夢姫達は息をつく間も与えられないままに寛二朗に促され、屋敷の薄暗い廊下を歩いていく。

 まだ日は高いとはいえ、時間が無い事に変わりは無い二人は茶々を入れる事もせずただ静かにそれに従った。


「お姫ちゃん達は“道具の成り立ち”なんかはもう知ってるのか?」

「う、うん。えっと、確か“昔、悪いヤツがいて、それをやっつけた人が持ってたモノにその悪いのを封印した”って話だよね?」

「おう! 満点だぜ!」


 軋む板張りの音をかき消すように明朗な声が寛二朗を追い早歩きで進む夢姫達の耳に届く。

 ――“道具の成り立ち”それはかつて八雲や、摩耶の口から語られた“十の世界に分かち封印された悪しきものの魂”にまつわる話であったが、夢姫達は寛二朗の言う通り“おさらい”の意味も兼ね静かに耳を傾ける。


「で、ここからが本題だ! ……古に“悪しき魂”を封印した者、つまり剣士と美しい女と僧侶のうち……剣士の一族、その末裔が俺ってことだ」

「封印した一族の、末裔……?」


 廊下を抜けると、寛二朗は立てつけの悪い障子を力任せに開け放つ。舞い上がる埃と共に姿を現した日本庭園は主を待ち続けるかのように確かな威厳と、少しの荒涼感を日の元に晒しているようだ。

 水の抜かれた人工池、苔生した灯篭を越えていくと、やがて寛二朗は敷地の一番奥にひっそりと佇む倉の前に立ちはだかったのだった。


「三つの一族の中の“女”は、時代背景上名字が残ってなくて……どこかに子孫はいるだろうが、形としてはもう残っていない。そして僧の一族も本家は十数年前に滅び、今や遠縁の分家が生きながらえているのみと聞く。……つまり、俺の一族だけが直系として残っているわけだ」

「まあ、確かに歴史を感じる佇まいではあるね」

「はっはっは! そこは素直に“ぼろっちい家”って言っても良いんだぜツナ坊!」

「……今のは素直に褒めたんだけど」

「お、そうか? サンキューツナ坊!」


 危険を察知した夢姫が軽やかにその身をひるがえすと、その予想は的中し、寛二朗は豪快に細い刹那の背中を叩く。

 彼の体重では支えきれなかったのだろう、前のめりに突き飛ばされた格好になった刹那はすんでのところで倉の壁に手をつき、顔面激突を免れたのだった。


「まあ小難しい話は良いだろ! ……こうして尋ねてこられたのも何かの縁だし、何より詠巳の友達だ! お前らの力になれる事なら何でもやってやるよ!」


 寛二朗は豪快に笑い飛ばすと、またも建てつけが悪そうな倉の扉を力任せに引く。

 有り余る若い力に成す術も無く木材特有の悲鳴を立てると扉は勢いよく開き、中からカビと埃の匂いを溢れかえらせたのだった。


「――ばあちゃんがボケる前に聞いた事があったんだ。“この倉の奥には異界に通じる鏡がある”ってな」

「異界……?」

「当時は訳わかんなかったけど、お前らの話を聞いて分かったんだ。多分、お姫ちゃんの友達って言う“修羅の鏡”と……つまり、修羅の“心の世界”と繋がってるんだ。お前らの友達の和輝ってのがどこにもいないって言うなら、そこに囚われてる可能性もある。一か八か、だけど」


 携帯のカメラを起動させると、寛二朗はフラッシュを作動させ倉の中を照らす。

 まるで雪のように舞う、キラキラと舞い落ちる埃の中を覗き見ると、確かに一番奥には古めかしい姿見のようなものが鎮座している様子が見えた。


 刹那は気を取り直し、髪を束ねていた“道具”・絹布を手に握りしめると叩かれたせいでまたも乱れてしまった髪の毛を手櫛で整えなおす。

 “早速試すんだろう”と当然のごとく考えていた刹那が傍らの少女に視線を手向けると――夢姫は納得がいっていない様子で首を傾げ寛二朗を見つめていた。


「……ええ? あれ、これってあたしのパワーアップイベントとかじゃないの?」


 夢姫にとって今の桔子には一度と言わず二度も敗北したようなものなのだ。

 最初の邂逅では摩耶が駆け付けてくれなければどうなっていたか分からないし、二度目だって、自分ひとりでどうにか出来ていたかと言われれば怪しい。


 今は刹那が一緒にいるとは言え、向こうが前回の邂逅のように優菜と名乗った少女や片目を隠した少年、美咲との三人で襲撃してきたら、今の自分で対処できるのか――その漠然とした不安がずっと付きまとっていたのだ。


「あたし、強くならないと……桔子より強くなってあいつをやっつけて“もう悪さしません”って言わせないと! そうしないと、和輝連れ返したとしてもあいつまた誘拐するかもしれない」


 仮にも幾分か実力を持つ健康な男子がそう何度も誘拐されるものなのか。

 刹那がふと気がついてしまった至極当然な疑問に首を傾げる傍らで、夢姫の不安に耳を傾けていた寛二朗は白い歯を見せ笑みを見せると逞しい腕を組んだ。


「お姫ちゃんが“強くありたい”と願う事、それだけでパワーアップは十分なんだよ。“道具”は人を選ぶ、その人に寄り添う。結局は全部本人の心のあり方次第なんだ」

「心の、あり方……?」

「おう。恐らくだが、修羅のお嬢さんにも当人なりの“想い”がある筈なんだ。それ故に道具と心を重ねた。……お姫ちゃんの方がちょっと気劣りしてたんだなきっと。……ツナ坊も、そうなんだろ? お前さんも“譲れない想い”があるからその道具に選ばれた」

「……僕は」


 吐露する事を躊躇した様子で刹那が言い淀み視線を地面に落とす。複雑な感情が入り混じった繊細な変化に寛二朗が気付くはずもなく、夢姫に向き直ると誰もが安心できるような暖かい笑顔で歯を見せたのだった。


「それと、この鏡がもし本当に言い伝え通り修羅の心と繋がっているのなら、もしかしたら修羅のお嬢さんの“想い”の根源が分かるかもしれない」

「……そっか、それが分かれば、桔子に憎まれてる原因が分かるかも」

「そう言う事だ!」

「むぎゃ」


 寛二朗は親指を立てると、白い歯を見せ夢姫達の頭を配慮無く撫でまわす。

 整えなおしたばかりの刹那の綺麗な髪と、それまで無傷であった夢姫のツーサイドテールの黒髪は無残に乱れ、その後ろでは詠巳が呆れたようにため息を落としていたのだった。


「……この一件が片付いたら没交渉にさせてもらうよ、僕は」

「あたしも」


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