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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
4.此れ前生の宿報也
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4-10


「――ここって……病院?」


 來葉堂の異変など知る由もない夢姫達は、詠巳の祖父と思しき男性が運転する車に揺られ、町はずれの建物の前に辿りつく。

 白を基調とした清潔感のある建物が見下ろす広々とした駐車場に降り立つと、夢姫は呟きつつ看板を探していた。


「……正確には“老人ホーム”ね。猿喰家の現当主――私の彼の祖母にあたる方は結構な高齢だから、今はここ(老人ホーム)で暮らしてあるの」


 詠巳はそう促すと、慣れた様子で車中に残る祖父から紙袋を受け取り正面のエントランスへ向かう。


 てっきり詠巳の祖父と思しきその人も一緒に来るものだと考えていた。夢姫達は自分たちが乗ってきた車と、遠ざかる詠巳とを見比べつつも“置いていかれては元も子もない”――そう割り切り、追い掛ける事に集中したのだった。


「現当主のいらっしゃるフロアは比較的しっかりしたご老人が多いとはいえ、一応振舞い方には気をつけてね。ちょっとした話声でも神経に障る方がいるかもしれないから――」


 目的の階へと昇るエレベーターの狭い箱の中で、詠巳が声を潜める。

 夢姫にとっては火災事故の直後――梗耶が入院していた頃に母親に言われた“病院では騒いだら駄目だよ”と注意されて以来馴染みの無かった空間である。


「分かってるよ」


 フラッシュバックする幼き日の記憶を強引にしまい込むと、夢姫はまっすぐ前を見据えた。


 ――エレベーターを降りると、そこはマンションのようで入院病棟のようでもある独特な空間が目の前に広がる。目の前には来客用であろうか、飲食店のようなテーブルといすが数セットと、見やすい高さには大きなテレビが夢姫達を出迎えていた。


「ちょっとここで待ってて。現当主様を呼んでくるわ」


 詠巳は薄く口元に笑みを携えると先程祖父から預かっていた紙袋を抱え、入所者の居室が並ぶ通路の向こうへ消えていったのだった。


「――あらあら、お見舞いですか~?」


 窓際の席に座り詠巳の戻りを待っていた夢姫達の耳に、枯れた女性の声が届く。

 自分達に向けられた言葉である事が明確な距離であった為、無視する道理も無いと二人が見上げると、声の主だろう……人の良さそうな老婆は皺だらけの顔に笑顔を浮かべるとあいていた刹那の隣の椅子にゆっくりと腰かけた。


「うん、今友達が会えるか見に行ってるとこなの、お婆さんはここの人?」

「ええ、そうよ~」

「そうなんだ」


 夢姫の問いかけに答えると、老婆はまるで懐かしむように隣へと視線を手向ける。

 明らかに自分に向けられた視線に気付き刹那が首を傾げると、老婆はニコニコと笑い、その手を取ったのだった。


「貴方、女優の……あら名前が出てこないわ。“何とかさん”に似てるわねえ……名前は、なんだったかしら? 昔この町に住んでらして、私がやってた喫茶店にも何度かいらした事あったのよ~……名前……」

高良(コウラ)(ケイ)……じゃないですか?」

「そうそう! にしても……貴方若く見えるのに良く分かったわね~……確か二十年くらい前に亡くなったと思うけど」

「……父が、ファンだったので」

「あら、そうなの~美人さんだったし、演技も上手かったものねえ~……でも、美人薄命って本当なのねえ~まだお子さんも小さかった頃に亡くなったのよねえ」


 老婆はそれまでの半生を、自分が見た懐かしい記憶を一つ一つ取り出していくかのように次々と思い出を語る。まるで蘇る記憶と共に心も若返っていくかのようで老婆は年頃の少女のように、相槌を必要ともせずただ無心に言葉を紡ぎ続けた。


 ふと、そんな時。椅子に座る三人に降り注ぐ蛍光灯の光を遮るほど体格の良い若い男が刹那達のテーブルに手をつく。

 刹那と同年代と思しき少年。施設の職員にも見えたが……どうやら違うらしい。彼の服装は職員らしからぬ軽装、もっと単刀直入に言えば“センスの欠片も無いダサいTシャツ”姿であったのだ。


「おう浦辺のばあちゃん、逆ナンしてっとじいちゃんが化けて出てくるぞ?」

「……あら、猿喰さんとこの! やだわ~ナンパじゃないわ~。私は旦那一筋よ~」


 ノンストップで喋り続けていた老婆が顔を見上げ、ちょうど手が届く高さの臀部(デンブ)を叩いている。よほど親しいらしい。老婆と和やかに言葉を交わす少年――夢姫と刹那は互いの顔を見合わせた。


「……ねえ!? もしかしてあなた、猿喰さん!?」


 勢いよく立ち上がると、夢姫は少年を指さす。老婆が口にしたその名を聞き逃すはずがなかった。

 老婆を部屋に送り届け戻ってきた少年は愛想もそのままに夢姫を見つめると……何故か照れくさそうに頭を掻いていた。


「あー……嬢ちゃん悪いな、俺には将来誓った相手がいてさ!」

「は?」


 自分に駆け寄る少女……つまり夢姫の事を“自分のファン”か何かだと思ったのだろうか、少年は“ごめんな!”と両手を合わせる。


「コクっても無いのにフラれた」


 この急展開には流石の夢姫も対応出来なかったのだろう……目をまん丸に見開くと、助けを求めるように刹那を振り返っていた。


「あ、いやこの子は告白したんじゃなくって……僕達、君を探していたんだ」


 スピーディーにフラれた夢姫をフォローをしようと刹那が手を差し出すと……少年は驚いたようにその整った顔を見つめ、目を逸らすとまた頭を掻く。何となく“先の展開”を悟ってしまった刹那は苦虫をかみつぶしたように眉をしかめると、声を潜めた。


「僕が、告白したい訳でも、ないからね?」

「おおおお!? あんた俺の心を読んだのか!?」

「……何この人」


 珍しく直球な感想を漏らす刹那を横目に、気を取り直した様子で夢姫は首を横に振り今一度少年の前に立つ。改めて見ても“大きい”と言うのが素直な感想であった。

 どこに売っているのかも分からない不思議なTシャツ、布地に覆い隠されても尚、分かるほどに隆々とした体格の良い体つきの少年は、太陽のように眩しい白い歯が輝く笑顔を二人に返している。

 自分のタイプ……つまり“王子様系”では無いのは一目瞭然ながらも悪い印象を抱く外見では無いと夢姫は感じていた。


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