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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
4.此れ前生の宿報也
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4-8



 夢姫が言葉に詰まり言い淀んでいる傍ら――少しばかり体調が回復したのか、刹那も立ち上がり二人の元へと足を向ける。

 その姿に気付いた詠巳は、まだ顔色が優れない様子の刹那と一瞬だけ視線を重ね、また目を逸らした。


「――君は、確か夢姫ちゃんの友達の」

「犬飼 詠巳よ」

「刹那っち! もう大丈夫なの?」

「ごめんね、ちょっと気分が悪くなってしまってね……もう大丈夫だよ」

「う、うん……?」


 掴み続けていた詠巳の腕を解放し、夢姫は刹那の元へ駆け寄る。

 不安げな表情の夢姫の頭を撫で、刹那はいつもの柔らかい笑みを携えたのだった。


「――それにしても……珍しい組合せじゃない? さっき夢姫さんが何か言いたそうにしていたけど……何か関係があるようね」

「そうなの! 和輝がね! きょーやが桔子に和輝が桔子に! まやちゃんと佐助が」

「ちょ、ちょっと待って夢姫さん」


 思い付くがままに言葉を積み上げていく夢姫を制すると、詠巳は“落ち着いて”とその両肩に手を添える。夢姫が言葉につまり口を閉ざした瞬間、その傍らにいる刹那に静かな声を紡いだ。


「まだ気分優れないでしょうけど、通訳お願いして良いかしら」

「……君も苦労してそうだね。ええと、色々あって――」


 まるで同時通訳でもするかのように夢姫の言葉の端々を拾い上げ、刹那はめまぐるしいこの数日間の出来事を辿る。詠巳もまた、視線こそ合わせないものの至って誠実に向き合い続け、耳を傾けた――


 ――が、ふとなけなしの冷静さを取り戻してきた夢姫はつい今朝がたの事を思い出し言葉を飲みこんだ。


「……夢姫ちゃん?」


 今までの出来事をあらかた紡ぎ終え、これからの事――“猿喰の一族”を探している旨を口にしかけていた刹那の腕を引くと、夢姫は友人・詠巳へ猜疑の視線を手向けた。


「ねえ、これも罠じゃないの……? 朝の“きょーや”もこうやってあたしから情報聞き出した! このよみちゃんは顔が見えるもん! 偽物かも……!」

「え……?」


 そう、夢姫の懸念は目の前にいるこの少女が本人かどうか、と言う事だ。

 桔子は“邪魔する”と明言していたのだから、またも欺きに来たのだと夢姫は考えたのだった。


「……顔が見えてて疑われるって、中々ないわよね」

「そーだよ、よみちゃんはおめめ隠してて、黒いローブ着てるもんだもん! それに、よく考えたらこんな観光地でも何でもないところに何しに来たの!? オシャレしてくるところじゃないよね? ……危うくまた騙されるとこだった。正体を現しなさいよ!」


 困ったように頬に手をあて、首を傾げている詠巳を指さすと夢姫はその手に拳を握り黒の杖を生み出す。

 “双子の姉妹を騙る事は可能でも、いくらなんでも赤の他人のふりをするのは難しいんじゃないか”

 ――刹那がもっともな思いを言葉にしようと口を開きかけたその時……それよりも幾分か早く詠巳は息をつくと咳払いをしてみせたのだった。

 

「――何でこんなとこにいるの、って……それは、近くに彼のご実家があるから。お洒落するのは、この後彼とそのお婆様に会う約束があるから」


 詠巳は白い頬を微かに紅潮させ呟き、目を泳がせる。その年相応の少女らしい恥じらいを孕んだ振舞いに、夢姫は思わず目を瞬かせ刹那と顔を見合わせた。


「……彼氏、マジ……?」

「信用してもらえないなら、連絡しても良いけど」

「う、うう」


 詠巳の提言に夢姫は言葉を探り、言い淀んだまま黒の杖を風に返す。

 疑われたままでは居心地が悪いのだと言わんばかりに詠巳は迷いのない指先でスマートフォンを取り出しその手に握ると、アドレス帳を開き二人に見せた。


「この人よ」


 詠巳の指先を辿り、二人はモニターに並ぶ名前に視線を預ける。

 几帳面な性格なのであろうか、フルネームで統一された“さ”行のページが映し出された画面上に、見覚えのある苗字を見つけ、夢姫は声にならない声を張り上げたのだった。


「この人、って……まさか猿喰さん!?」

「あら、中々難読な名字だと思うんだけどよく読めたわね……?」


 戸惑う詠巳も、状況を飲みこめていない刹那をも置き去りにしたまま、夢姫は過去の記憶を辿る。

 ――夢姫は親友・梗耶と詠巳との三人で、“詠巳の恋人”について何度か話をした事があったのだ。

 プレゼントを選ぶから、と買い物について行ったり、夏祭りの時には“彼氏といるから”と共に行動する事を断られた事もあった。


「この人、猿喰さん! よみちゃんの彼氏なの!?」

「言った事無かったかしら」

「ない! 何でもっと早く言ってくれなかったの!?」

「え、ええ……!?」


 急に怒られ、ますます意味が分からないと困惑を露わにする詠巳の手を掴むと、夢姫はまっすぐな視線をぶつける。


「よみちゃん! その人! 彼氏さんに会わせて!!」


 途中で途切れてしまっていた状況説明の先の展開――行きつく先に自身の恋人が関わっていたのだろうと、もとより察しの良い詠巳は息をつくと口元に薄い笑みを浮かべたのだった。


「疑いは晴れたようでなによりよ。……今からお婆様のところで合流する予定にしてたから、一緒に行きましょうか」



―――



 ――言われるがままに、車の後部座席に乗り込んだ夢姫達は棒のようになりかけていた足を休めふかふかのシートにその身を預ける。

 車に乗り、運転席に座る壮年の男性にお礼を告げた二人は、“親”と言うよりは“祖父”ではなかろうか……そう、遠くで見た印象よりも更に上に見える男性の風貌に初めて気付いたのだった。


「……お爺様、こっちの面白い髪型の女の子が、いつも話してる夢姫さんよ」


 お爺様と呼ばれた男性は言葉を発しないままに後部座席を振り返るとサングラス越しに夢姫を見つめ、そして深々と頭を下げる。

 “さらっと髪型ディスってるけど、彼女は身内にどんな説明をしているのだろうか”

 ――刹那は喉元まで出かかった言葉を飲みこみ直すと、夢姫を促しもう一度頭を下げた。


「ごめんなさいね。お爺様は口下手でね……怒っている訳ではないから大丈夫よ」

「う、うん」


 助手席に座り、隣の運転席から小声で話しかけている様子の男性に耳を傾け、詠巳は振り向きざまにそう言葉をかける。

 “声が小さいのは遺伝か何かだろうか”

 二人は共通の答えを導き出すと声に出さないままに愛想笑いを返したのだった。


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