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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
4.此れ前生の宿報也
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4-4


「そう、それが夢姫ちゃんの答えだね? なら私は“被害者”役を演じるね!」


 桔子は悪戯な笑みを浮かべたままそう呟くと、後ずさりをしてみせ、その場に力なく座り込む。

 その姿はまるで悲劇のヒロイン。

 まさに“被害者”を演じきっている桔子の姿は、“黒い杖”や“ま”が見えない筈の通行人達にも力関係を分かりやすく伝え、いよいよ見て見ぬふりも出来ないと近くの交番へ走る者も現れた。


 もはやそんな事はどうでも良い、と夢姫が半ば自棄を起こすように杖を苛立ちのままに天高く振り上げ、少女の脳天目掛け振り下ろしたその時――

 甘い香水の匂いと柔らかな声が少女達の間に割り込み、振り下ろした杖の切っ先は鈍い音と共に勢いを奪われた。


「落ちついて夢姫ちゃん!」

「刹那っち……!?」


 桔子を庇うようにして夢姫に向かい立った、姫を守る王子様のような美少年の姿に再び状況が理解できなくなった通行人たちはスマートフォンを操作する手を止める。


「刹那っち、どいてよ……! そいつの味方するの!?」


 通行人が固唾を飲んで見守る中、美少年――刹那はまっすぐに夢姫の視線を受け止め、静かに首を横に振ると、囁くように微かな声を紡いだ。


「落ちついて夢姫ちゃん……ここは分が悪い、僕に合わせて」

「はあ!? 何!? あわせ……ちょっと!」


 怒り冷めやらぬ夢姫が声を荒げると、刹那はそれを無視したまま桔子に向き直り、手を差し伸べる。

 その振る舞いは優雅でありながらごく自然で、さながら童話の世界から抜け出した王子様のようである。だが……桔子は動じることも無く冷ややかな視線を叩きつけるばかり。

 差し出された手を見ようともしないままの桔子と視線を重ねるように刹那はその場に跪くと、柔らかい笑みを手向けた。


「怖かったでしょ……怪我はないかい?」

「……何のつもり? 私は貴方に用事なんてないわ」

「そんなつれない事言わないで欲しいな。“演じる事”なら、僕も得意なんだ。……君の紡ぐ物語の一(ページ)に入れてくれないかな?」


 桔子が鬱陶(ウットウ)しそうに視線を返すと、刹那は甘く妖しい声を紡ぐ。遠巻きに成り行きを見守る通行人には聞こえないほどの小さな言葉で囁くと、刹那は桔子の言葉を待たないままに立ちあがり、そのまま夢姫の元へと歩み寄った。


「夢姫ちゃん、誤解なんだ。彼女はただの友達。君が世界で一番大切だ……だから彼女を傷つけないで」

「は、はあ……? さっきから何を」


 先程までとは打って変わって、刹那は周囲にも聞かせるかのように鮮明で通った声を紡ぐ。刹那の振舞いに、夢姫は戸惑いを隠せないまま気付けば黒の杖をも意識から手放していた。


 夢姫の耳元で、刹那は“静かに”と囁きその頭を優しく撫でる。以前感じた“甘ったるい嫌いな香り”では無いらしい。不快感こそ無かったものの、状況が呑み込めた訳ではない……。

 夢姫は呆気に取られ、その端正な顔を見つめ返した。


「大丈夫、僕は君の味方だよ。……ほら、そんな怖い顔しないで“デート”に戻ろう?」


 敢えてその関係性を見せつけるように、観客に印象付ける舞台俳優(ストーリーテラー)のように――

 親しげに言葉を紡いでみせる美少年を傍目に、先程まで不穏に満ちていた通行人(観客)達は、呆れたように息をつくと一人、また一人とその場を後にして行った。



 夢姫よりも先に刹那の意図に気付いた様子で桔子は苦虫を噛みつぶしたように表情を苦く歪ませる。


「……勝手にフらないでくれますか!?」

「ああごめんね、僕が思わせぶりな事を言ったのが悪かったね。だけど、君の気持ちには応えられないんだ。本当にごめんね」

「まだ言うの……!?」

「ごめんね、だけど僕の気持ちは揺るがないよ」

「いい加減に」

「分かった、どうしたら君の気持ちは収まる?」

「……あくまで、続けるのね……!」


 ――そう、それは傍から見たら“三角関係のもつれ”にしか見えない光景である。


 夫婦喧嘩には犬も食わぬとは良く言ったもの。

 通行人の誰かが呼び、駆けつけていたと思しき警察官でさえも……睨む少女とそれを宥める少年の姿を見るなり苦笑いと共に来た道を引き返していった。


「――流石に即興芝居(エチュード)程度じゃ観客は盛り上がらないようだね。どうする、今度はもっとお互いに見せ場のある物語でも紡いでみようか?」


 通行人がすっかりいなくなった頃、ふと繰り返していた“良くあるフレーズ”を止めると、刹那は悪戯に微笑み手を差し出す。

 だが、当然桔子が心を和ませる筈はない。その手を叩くと表情を怒りに歪ませたのだった。


「もう良い! ……ほんと、これだから口だけの人は嫌いなの! “デート”でも何でも勝手にすれば? ……勿論、邪魔はしますけど!」


 桔子は捨て台詞のように吐き捨てると、刹那の背中から顔を覗かせていた夢姫を睨みつけ、足早に立ち去っていく。

 気持ちがまだ追いついていないままである夢姫が小さくなり行くその後ろ姿に手を伸ばし、追いかけようとしたが……刹那はそれを制すると首を横に振ったのだった。


「夢姫ちゃん、今は追うだけ無駄だよ。……それより、彼女に話してしまったんだろう? 鍵を握るかもしれない一族、“猿喰”の事を。……先に見つけないと、あの子が罪を重ねてしまうかもしれないから、急ごう」



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