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「――そう……そんな事があったんですね」
刹那との待ち合わせ場所である駅前の広場へと向かう道中、夢姫は目の当たりにした一部始終を自分の言葉で紡いでいく。
今、目の前にいる少女が果たして本当に梗耶なのか。確たる答えがあるわけではない。夢姫にとってそれは考えたくない不安だったのだろう……。
藁にもすがるような面持ちで声を絞り出す夢姫に対し、梗耶は冷静な様子。全てをしっかりと受け止めると小さく息をつき眼鏡を指先で押し上げた。
「うん。あたし、桔子が許せない。きょーやのふりしたのも、和輝をどっか連れてったのも! ……それで、何か解決の糸口が見つかるんじゃないかなって、一人じゃ危ないかもだから、刹那っちを召喚して一緒に人探しするの」
「猿喰さん、ね……」
住宅街を抜けると、そこは駅の裏口広場へつながる。商業施設やカフェが早くから営業している人通りが多い表口広場とは真逆で、裏口は日中でも客待ちのタクシーくらいしかいない静かな空間となっている。
刹那との待ち合わせは当然ながら目印も多い、表口の方。夢姫にしてはかなり早く家を出たつもりであったが……梗耶と話している内に時は流れ、待ち合わせ時間まで後数分と言う頃に差し掛かっていた。夢姫は気持ちを焦らせ足を急がせた。
……だが、そんな夢姫の焦りとは裏腹。梗耶は辺りを見渡すと速度を緩やかに落としていき――やがて、完全に足を止めてしまったのだった。
「……ねえ、夢姫。一つ聞いても良い?」
「ほわ? い、今……?」
小さい頃からずっと聞いてきた一番馴染みのある声に振りかえると、“梗耶”は眼鏡を指で押し上げながら、レンズ越しに夢姫の瞳をまっすぐに見つめる。
「夢姫が怒っているのは、“親友である梗耶のふりをしていた事”と“和輝さんを奪おうとしている事”……どっち?」
「どっち、って……そんなの、どっちも」
「嘘だね。本当は“私”のことはどうでも良いんでしょ? ……だって、入れ変わっていても気付かないんだから……!」
嘲笑い、声を弾ませた“少女”の声に、心臓を掴まれたように呼吸を荒げると夢姫は親友の姿をした少女を睨む。
「いつから入れ変わったの!?」
「いつからって? 馬鹿だね、最初からだよ……! また引っかかったわね。猿喰さんかあ、良い情報ありがとう」
サプライズに成功したかのような清々しい笑顔と共に、少女は――“桔子”は鞄からスマートフォンを取り出し、見せつけるように差し出す。
夢姫にとって良く見なれたそれを手なれた様子で再びしまい込むと、桔子は声を潜め微笑んだ。
「ただの居候とはいえ、未成年の子供が急に音信不通になったら伯母さん達が心配するでしょ? ……だから、何もなかったようにお姉ちゃんのふりをしてあげてるのよ。演技力あるでしょ、私?」
茶化すように眼鏡を指先で押し上げるその姿に、夢姫は昨夜の激しい怒りを再燃させ激情のままに黒い杖を握り構える。一方で桔子は動じることも無い。冷ややかな視線を手向けると、辺りを見渡し……再びその手にスマートフォンを握り締めた。
「――夢姫ちゃんはもう少し客観的な目を持った方が良いよ? 今この状況……私と貴方、どちらが“悪役”に見えるかな」
桔子の視線を辿り追いかけると、辺りには不穏な空気を察した様子の通行人たちが少女二人に視線を注いでいるようだ。怒りに身を任せ半ば八つ当たり気味に野次馬を睨むと、怯んだ通行人は目を逸らしていた。
「……桔子……あんたね!」
夢姫の手にしている“道具”――杖は実体が見えない人の方が多いとはいえ、中には見えている人もいるようである。傍から見れば“棒状の凶器を持った少女が無防備な少女に襲いかかろうとしている”ようにしか見えない現状。通行人の中には手持ちのスマートフォンで警察を呼ぼうとしている人も見受けられた。
“まんまと罠に掛けられた”と夢姫も頭では理解できていたが、心が納得出来ていない。
桔子は苛立ちを隠しきれないままの夢姫を眺め、笑みで緩みかける口元を抑えると冷たい視線を絡ませた。
「夢姫ちゃん、どうする? ……私の振舞い次第ではこのまま警察のお世話コースもあり得るよね? あーあ、恵さん悲しむだろうね、可哀相」
「……そんなこと」
「したくないよね、そんな事。……まあ、今回は色々良い情報聞かせてもらえたし多めに見てあげても良いんだけど。ねえ、私に頭を下げてみてよ、そしたら丸く収めてあげるよ?」
「……ムカつく!」
冷静に状況を判断し、最適解を導き出せるほど落ちついている事の出来なかった夢姫は声を荒げると勢いのまま黒の杖で空を裂くと、切っ先は桔子の胸元を掠める。
杖の姿が見えているらしい通行人からは悲鳴も聞こえたが――そんな事も今の夢姫にとってはどうでも良い事に思えていた。




