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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
4.此れ前生の宿報也
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4-2


「――ゆめちゃん、ゆめちゃん生きてる!? どおしよおおー!! このままゆめちゃんが! おぎながっだら……うううう……おがあざんもづいでいぐのお」


 翌日――

 昨夜、案の定お通夜状態となっていた母を宥めつつ、昂る心を無理やりに落ちつかせながら浅い眠りについた夢姫は、枕元で咽び泣くその声で意識を取り戻した。


「お母さん……そんな簡単に死なないから枕元で泣くのはやめよー……?」


 時刻はまだ午前五時過ぎ、平日であってもまだ寝ている時間である。そもそも、この日は休日であるのだから早起きをする必要もない。咽び泣く母に起こされてしまった部分も否めないが……それより、夢姫には大事な用事があった。


「――あたし今日一日出かけてくるから帰り遅くなるかも」


 ……そう、昨夜に摩耶が口にしていた“猿喰(サルハミ)”と言う人を探すという使命だ。

 和輝や梗耶がいない今の夢姫にとって、それは“暗闇の中の微かな希望の光”であるような気がしていた。

 手がかりも何もない。だが、かつての友――死んだはずの桔子の出方を伺い、待っていられるほど大人しくもしていられなかったのだ。


「ええええー!! そんな、たまの連休くらい一緒にいましょ? 昨日も遅かったし、お母さん心配だよう……」


 ……が、元来心配症の母が快く見送る筈もない。大きな瞳に溢れんばかりの涙を溜めこむと首を横に振り、夢姫の細い腰にしがみつく。母は全身全霊で夢姫の動きを封じようとしたようだが、彼女は娘よりも遥かに小柄だ。力もない。強行突破を図った夢姫が、纏わりついたままの母を引きずり朝食の支度にとりかかっていると――

 ――インターホンがシンプルな音を鳴らし響き渡ったのだった。


「あら。こんな朝早くにどうしたのかな……お母さん見てくるね」


 夢姫が母と二人で住んでいるこのマンションはお世辞にも綺麗とは言えない。それでも一応、防犯面は意識してある。マンションの一階エントランスで来客はインターホンを鳴らし、玄関に備え付けのモニターから客の姿を確認できる仕様だ。

 料理の不得手な母の分まで夢姫が朝食を拵える傍ら、母は玄関のモニターを操作し始めた。


「あら、おはよ~……そか、それなら仕方ないかあ……ちょっと待っててね……」


 母はモニター越しに柔らかく微笑むと、ボタンを操作し――夢姫のいる茶の間へと戻ってきたのだった。


「お母さん、誰だったの?」

「誰って……きょーやちゃんだよ? 一緒に出かけるんだったらそう言ってよ~きょーやちゃんが一緒なら心配はないかな~うふふ」


 母はこともなげに応えるといつものように笑い、準備の整った食卓に小さく手を合わせる。

 そう、母にとってそれは“日常”の光景なのだ。


「……え?」


 正確には、昨日まで“日常だったもの”――

 ぎりぎりまで寝ている夢姫を起こし、一緒に登下校を共にしていた“親友”……休みの日には家を訪ね、一緒に買い物に行っていた。


 昨夜、消息を絶ったはずの親友が“何事もなかったかのように”迎えに来たと言うのか……?

 夢姫は朝食に手を付ける事も出来ない。緊張感に息を飲んだ。


 部屋に備え付けのチャイムが鳴り、母が訪問者を出迎える。玄関先からは元気な母の声と、聞き馴染みのある声が朝の冷たい風と共に運び込まれてきた。立ち話でもしているのか、母は中々戻ってこない。


 “もしもそこにいるのが梗耶ではなく桔子だったら”

 “何も知らない母を巻き込んでしまったら”


 最悪のシナリオが頭を駆け巡った……が、元来人見知りの母があれだけ和気藹々(ワキアイアイ)と笑い声を弾ませているのだから、不審な点は無いのだろうと夢姫は息を吐いた。


 ――昨夜の目まぐるしい出来事は全て嘘で、夢でも見ていたのではないか。

 楽観的な方へ思考を促し、高鳴っていた心臓を休めるように暖かい紅茶を流しこむと夢姫は鞄を片手に玄関へ向かう。

 そこには、前髪を頭の上で一つに束ね、サイドを三つ編みのお下げでまとめあげた眼鏡の少女――夢姫の良く知る親友、梗耶の姿があった。

 バタバタと足音を立てながら廊下を駆けると、梗耶は“はしたない”と言いたげに呆れたようなため息を落としている。その振る舞いは改めてみても梗耶そのもの。……昨夜のような“ま”の気配も感じられない。


 疑う気持ちと、信じたい気持ち――その二つがせめぎ合う中、母に背中を押され夢姫は家を出たのだった。


―――


 早朝の住宅街を通る人の姿はほとんどなく、雀のさえずりがやけに耳に障る。

 いつもと同じ道を迷うこともなく黙々と歩いていく“梗耶”を横目に、夢姫は何とも形容しがたい居心地の悪さに身をつまされていた。


 通りが静かだから、というだけではなく……“話しかけにくい”のだ。


 隣にいるのが親友のふりをした“桔子”なのか、それとも本当に“梗耶”なのか……。

 もし本当に“梗耶”であれば、彼女は守るべき存在だ。昨夜何があったのか、その答えを握っているかもしれない。

 だが、“桔子”であれば――

 ――また、見分けられなかったの? と嘲笑される気がして、どう切り出すべきが決めかねていたのだった。


「……夢姫? 今日は大人しいですね。やっぱり昨日何かあったんですか?」


 ふと、淡々とした声に夢姫の思考は止められる。アスファルトを見つめていた夢姫が視線をあげると、寂しげな親友の顔がそこにあった。


「……昨日から和輝さんと連絡が取れなくって、それで……。もしかして、私が休んでる間に、また“ご実家関係”で何かあったのかなって心配になったんです。でも、早朝からクララさんに連絡するのは申し訳ないし、夢姫なら何か知ってるかなって思って」


 少女は見なれたスマートフォンを操作し、メッセージアプリの画面を開き夢姫に見せる。

 そこに表示されていたのは良く知る親友・梗耶のプロフィール管理画面。画面下には昨日だけでなく、それ以前に自分が送ったメッセージも残っていた。

 それだけではない。“和輝の実家関連の騒動”――つまり、数か月以上も前の出来事をこの少女は把握している――

 探偵のような推理が得意ではない夢姫でも導き出せる答えは、“目の前にいる少女は今度こそ間違いなく親友・梗耶である”という事であった。


「――夢姫? どうしたんですか、私の顔をじろじろ見て」

「……えと、昨日はずっと家にいたの?」

「え? ……そりゃまあ、伯母さまがつきっきりで暗黒物質ダークマター作りながら看病して下さってるのに、どこか出かける訳が無いでしょう?」

「……そっか、そうだよね、そうだよね……!」


 首を傾げたまま、問いかけの意味が理解できない様子でそう答える梗耶に抱きつくと、夢姫は何度も首を横に振ったのだった。



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