表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユメユメ~二年目~  作者: サトル
3.生き難き命存したる者
23/287

3-10


「おい馬鹿女! 何を遊んで」

「はいお話しだめー! お兄ちゃんは優菜と遊ぶのー! 余所見しないでー」


 腹部の痛みを堪え、杖を頼りにやっとのことで立ち上がっていく夢姫を横目に、先程と同様の戦術指南をしようと声を荒げた佐助は、視界を遮ったぬいぐるみを咄嗟に木刀で叩き落とし間合いを取る。

 一緒に手を叩かれたのだろう、優菜はその目に涙を浮かべながら手の甲をさすり、服の袖で涙を拭うと地に落ちたぬいぐるみを抱き上げた。


「ライタくんが怒ったよ。優菜がいじめられたら、ライタくんは優菜の為に怒ってくれるの」


 優菜は涙声を震わせ、“ライタくん”を強く抱きよせる。

 すると、ぬいぐるみを覆っていた靄はさらに濃さを増し優菜自身までも包みこみ、辺り一帯の地面までもを黒く染め上げ始めた。


「これは……!」

「もー知らない……お兄ちゃんとは遊ばない、ライタくんのご飯にしてやるのー!」


 気分が重く暗くなりそうなほどの“ま”が足元を包み込み、靄は意思を持つように手を形を作り夢姫達三人の自由を奪いにかかる。


「優菜さん、ナイスアシストです!」

「やった! きいちゃんに初めて褒められたよ美咲くん!」

「あの子基本的に塩対応ですもんね~よしよし」


 桔子は片手に構えた刀を地面に向け振り降ろすと、夢姫に切っ先を突きつけ恍惚の笑みを浮かべる。

 大好きなおもちゃを自慢する子供のような無邪気さと、敢えて見せつける大人の悪意、そのどちらともとれる良く知る少女の知らない表情を目の当たりに、夢姫は“ま”の影響とはまた違う嫌な心音に苛まれていた。


「あっははは……はははは……! そうよ、私は夢姫の“その顔”が見たかったの。怒り、憎しみ、嫉妬……ねえ? 今、夢姫は“こいつの気持ちが分からない、理解したくもない”って考えてない? 私は今の夢姫の気持ち、良く分かるわ……だって、私がずっと抱いていた感情なんですからね! ようやく隣同士に並べたわね!」


 桔子は間合いを詰めると、夢姫の腹部を目掛け漆黒の刃を一閃させる。

 後ろに下がりかわそうとした夢姫だったが、“まの手”に足をからめ捕られ、そのまま後ろに転んでしまった。


「桔子……どうして」

「今さら悲劇のヒロイン? そう言えば小さい頃はお姉ちゃんと三人で“勇者とお姫様ごっこ”やったよね。……良いわよ、今日は久々に機嫌が良いから、乗ってあげる。この場合、私の役は“姫を(サラ)った悪いドラゴン”ってとこかなぁ!!」


 桔子は恍惚の表情で物語を紡ぎあげながら、立ち上がろうとしていた夢姫の足を体重の限り踏みつける。


「殺す……!」


 そして、夢姫の細い首筋に刃を突きつけた。



 ――その時。閃光が走り、薄闇に慣れ切っていた夢姫達はその眩さに目をつぶった。

 万事休す、と夢姫達は肝を冷やしたが……目がくらんだのは桔子達も同じだったようで、暖かい光の中に優菜の呑気な叫び声が辺りには(トドロ)いたのだった。


「――誰?」


 その中で、一番最初に目を開けたのは桔子だ。

 光の中心に見えた、夢姫や佐助、八雲でもない新たな人物の姿に不信感を前面に見せると桔子は夢姫の元を離れその人物の元へ刀を突きつける。


「……そうか、お主が“修羅”に選ばれた者か。だが、付け焼刃では私には及ぶまい」


 そこにいたのは佐助が慕う、不思議な少女――摩耶。

 光を発していたのは真っ白な手に取られた杖。夢姫が手にしているものと瓜二つの道具のようだ。その事に気付いた桔子は片手に握られたままの“鏡”を振りかざし鏡面から幾多の“まの手”を引きずり出す。


 飛びかかってくる“まの手”をまっすぐに見つめると、摩耶は杖で空を裂く。

 すると、杖の描いた軌道上をなぞるように光の刃が現れ、それは意思を持つように“ま”を次々切り裂いていき、そして桔子の手にある刀だけを貫き――砕き、光の粒となって空へ帰っていった。


 続けて、摩耶が杖の先で地面を叩くように突いて見せる。すると、杖の先から広がった波紋状の光は“ま”や、黒い靄が覆っていた地面を洗い流すように切り裂いていき、夢姫や佐助の足を纏っていた“手”も光の輪の中に溶けていく。


「摩耶様……!」

「佐助、無事のようでなによりだ」


 目が慣れてきた佐助が、その聞き覚えのある声を頼りに光の中を走り寄ると、気付いた摩耶は暖かな声を紡ぎ、微笑みかける。


「立てるか、水瀬夢姫」

「う、うん……」


「むー!! その男の子は置いてって! 優菜の事いじめたから許さないの~!!」


 蹴られた箇所に鈍い痛みを残したままの夢姫が弱々しく立ち上がっていると、優菜は駄々をこねる子供のように手を大きく振り回し始める。

 そんな優菜に応えるように“ライタくん”はその胴体から一度は消えかけた“ま”を滲み出し始め、再び両手に黒い刃を握った。


「……春宮八雲、後でゆっくり話そう。まずはこの者どもを連れて來葉堂まで帰ってはもらえないか」


 八雲の方を見ないまま、摩耶は背中で呼びかける。

 八雲もまた、思う所があったのか摩耶に反論も返事も返さないままに佐助の手を引くとその場を後にしたのだった。


「あ、ちょ……! あたしはー!?」


 自分を置いて走り行く男二人の背中を恨めしそうに見つめていると夢姫のすぐ背後で摩耶の強い声が響いた。


「何をしておる! 水瀬夢姫、お主も行け!」

「わわ、分かった! ……何か扱いが悪い気がするう」


 夢姫が痛む足に鞭を打ちながら駆けだすと、逃がすまいと桔子もまた追いかける。

 だが、摩耶は行く手を阻み杖を横に構え直した。


「すまないな、“餓鬼”の少女。……これは私のわがままではあるが、あの者達に傷を与えたくないのだ、ここは下がってもらえないか……!」


 更に強い光があたりを包み込み、桔子の持つ鏡と優菜の腕の中のぬいぐるみ、それぞれから滲み溢れていた“ま”は光に照らされじりじりと光に溶け始め――状況を察した美咲は未だ殺意冷めやらぬ二人を引かせたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ