3-8
――夢姫の親友、梗耶となんら変わらない姿をした少女の名前、そして彼女の言葉を聞き八雲は納得したように呟いた。
「……双子、か」
一卵性双生児……いわゆる双子の中でも見分ける事が困難なほどに良く似た兄弟・姉妹がこの世には存在する。
この場合、一同が良く知る夢姫の親友・風見梗耶と、今目の前にいる少女・桔子……この二人が双子だと言うことだ。
そこまでは理解に追いついたが、何故その亡くなった筈の少女が今ここにいて、今、夢姫に憎しみを向けているのか。
元より夢姫を助けるつもり等毛頭ない八雲がただ淡々と事の成り行きを見守っていると、ふと後ろから聞きなれない少年の声が聞こえてきた。
「――ちょっともー! 風見さん! 話が違うじゃないですか~?」
気の抜けるような呑気な声、上機嫌そうに話す愛想のいい丁寧言葉――
その声は、佐助にとって聞き覚えがあるものであり、とっさに佐助は振り向いた。
「吾妻、美咲……?」
薄闇を照らす街灯に照らされ、片側の瞳が光る。
こともなげに屈託なく笑って見せた少年は、そう――佐助のクラスメート、美咲であった。
「あ、名前覚えてくれたんですねえ、嬉しいです! でも、呼び捨てはキャラに寄っては好感度が」
「それはもう良い! ……何故、ここに」
佐助の声で気がついたのか、桔子は構えていた鏡を降ろし、美咲の方へ視線を手向ける。
状況がのめないままの佐助と夢姫は一瞬だけ視線を重ね、そしてお互いに良く知る筈の二人の姿を見つめた。
「怒られる筋合いはないですね。……結果として失敗はしてないでしょう? “本件で唯一無関係だった”――そして唯一の脅威だった和輝さんを封じた訳ですし。むしろ褒められてしかるべきでは?」
桔子の口から紡がれた馴染みのある名前を耳に、夢姫達は息をつく暇もないままに置き去りにしていた和輝達の動向を思い出し、小さく声をあげる。
夢姫の声が耳障りであると言わんばかりに眉をひそめると、桔子は赤に染まった瞳を面倒くさそうに手向けた。
「ちょっときいちゃん! ……あんた、きょーやと和輝に何かしたの!?」
「……“梗耶”はもういないよ。かつて夢姫がそうしたように、今度は私が葬ったの……これで、おあいこね」
「へ……?」
桔子はこともなげに言うと、楽しそうに微笑む。
“葬る”――その言葉の意味を知らない筈もなく、瞬時にその言葉を理解した。だが、あまりにも突拍子もなさ過ぎて、心が追いついて行かない。
戸惑いを整理しきらないまま、言葉を探しあぐねていると、状況をみかねたように美咲は手を叩き明るい声を弾ませたのだった。
「まあまあ、皆さん状況が理解できないでしょうから俺から説明致しましょう! ……俺と風見さんは、意図が合致してるんですよ~いわゆる“win・win”の関係って奴です! ……ああ! ビジネスパートナーってやつですかねぇ? ん、ギルメン……」
「良いから続けろ」
「佐助くんは冷たいですね~俺の仲間なのに」
「はあ?」
普段学校で見せている振舞いと何ら変わりのない調子の美咲。佐助もまたそれにつられいつもの刺々しい言葉で返した。
「まあ順を追いましょうか。……つまり、俺と風見さんの共通のミッションは復讐なのですよ! 彼女はそちらの“元お友達”、そして俺は――」
美咲は、息を吐くと前髪に隠されていないままの片目を瞑る。
わずかに生まれた静寂の中、細めがちな瞳を大きく見開くと先程までの愛想のよさが一瞬で影を潜め、美咲は殺意さえ感じられるほどに冷たい憎悪の表情を浮かべた。
「十一年前の火災を引き起こした張本人、“疫病神”に、俺が受けたのと同じ苦しみを与える事! それが、俺の復讐なんですよ……!」
どこか飄々とした明るい話声はそのままではあったが、その表情には確たる憎しみが滲み出ていて、佐助は思わず息を飲む。
「……佐助君、君は俺たちの復讐を手伝うべき人間だと言う事で、今回お招き致しました!」
一瞬だけ垣間見えた殺意が冗談であるかのように……手を叩いた美咲はコロっとその表情を変え、いつもの笑顔を顔に貼り付ける。
まるで、ゲームのイベントをこなすかのような美咲の言葉を受け止めきることができないままにその名を呼ばれた佐助は、戸惑いを胸に押し殺し声を返した。
「……どういうことだ?」
「俺の当初の計画では、水瀬さんが“まの手”フルボッココース確定してー……風見さんには佐助君を引き離して頂くって感じだったんですけど……唯一の誤算は佐助君の足がそんなに遅いとは考えもしなかったことですね!」
「うるさい!」
美咲はそう話終わると、佐助のツッコミに笑い声を返し桔子の隣へと並ぶ。
憎悪を一切隠そうともしないままに睨みつけている桔子とは対照的に、美咲は至って平静……むしろ友好的にさえ映る笑顔を手向けると、佐助の目の前に歩み寄り手を差し出したのだった。
「佐助君、君が俺たちと一緒にいるべき理由は……俺と桔子さんと……三人の共通点が“十一年前起こった火災の被害者”であると言う事なんですよ」
美咲と桔子の動向を睨み続けていた夢姫の杖を握る手が緩み、その強い眼差しは動揺に代わり佐助へと手向けられる。
視線を伏せ、美咲の言葉に耳を傾けていた八雲もそれは同じで……一同の視線を一身に集めた佐助は言葉を失い、木刀を持つ両手を緩めた。
「僕、が……?」




