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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
3.生き難き命存したる者
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3-7

「ねー!! 和輝どこいったの!? あたし疲れてき……うわわ!」

「何をしておる馬鹿女! 横だ横! ……ええい右からも湧いておるであろう!」

「助ぴょんはうるさーい! ……にゃにゃー!?」


 同じ頃、夢姫は無尽蔵に湧きあがり続ける“まの手”と(何故か指南し続ける佐助の下)戦い続けていた。


 杖を野球のバッターのように豪快に振るい飛ばすと湧きあがる“ま”は千切れ闇に溶けていく。そして、一振りする毎に佐助“先生”の指摘が夢姫の耳を劈き、元々心許ない精神力を消耗させていった。


「だーもう!! 佐助うるっさい! 役に立たないんだから黙っててよ!」

「貴様が無駄な動きばかりしておるからだ」


 叶うことなら杖を振りかざし、後方の佐助に向かって振り下ろしたいものだが、目の前の“まの手”たちは夢姫に休む暇も与えない。

 (クス)ぶり続ける火のように、地面からは黒い靄が立ちのぼり、“ま”となり夢姫の足元に這い寄り続けていた。


「しかし、何故だ? “ま”が多すぎる」


 夢姫とは逆で余裕が十二分にある佐助は、目の前にある異様な光景を眺め呟く。

 その傍らで静かに見守っていた八雲はそれに応えるように、また自分自身の考えをまとめるかのように薄闇に涼しい声をとかした。


「――遊園地みたいな場所と同じだよ。ここには、楽しかった思い出は勿論だけど悲しい記憶が……絶望、渇望……人々の“負”の感情が取り残され続けている。この地に沁みついた感情を“疫病神”が呼び起こしているんだ……」

「“負”の感情……」


 目の前に広がるのは今を生きる少女に、救いを求める“置き去りのままになった負の感情”――佐助は、ふと既視感に似た感覚に苛まれ、あたりを見渡した。



『――佐助、ママはこの男の人と二人でお仕事があるから、今日もキッズコートで遊んでなさいね?』


 記憶の奥底に眠る、鮮明で酷く懐かしい声。


「僕は“ここ”に……?」


 一つ、また一つと佐助の記憶は次々と心の奥に消えかけていた風景を呼び起こし、蘇る鮮烈な風景は胃の中さえ掻き乱していく。


「そして……」


 内臓から込みあげてくる不快感をもう一度呑み込み、震える声と共に佐助は傍らの八雲を見上げる。

 八雲は口を噤んだまま、目を逸らした。



―――



「もー……キツイ、無理……」


 一方の夢姫はいよいよもって体力の限界を迎え始めていた。

 体力が無く飽きっぽい彼女にしては頑張った方ではあるが……生憎、褒めてくれる人も救いの手を差し伸べる人もこの場にはいなかった。


「……ん、誰か来る」


 この場から走り逃げだそうと心に決めた時――ふと冷たい風が汗ばんだ夢姫の頬を掠める。

 夢姫の腕に絡みつく“鬼”達もまた、“誰か”を慕うかのようにその手を解放し地の底へと帰っていった。


「あれは……」


 夢姫は足を止め、漆黒の向こうへと目を凝らし、状況の変化に気付いた佐助もまた視線を手向ける。


 暗闇からゆっくりと歩き、薄闇の中姿を見せたのは夢姫達も良く見知った少女――“梗耶”であった。



「……きょーや!? どこ行ってたのさ?」


 普段肌身離さず付けている眼鏡や、特徴的な前髪を上げた三つ編みヘアーではなく、髪を解いた状態であるものの、その姿は見間違えるはずもない。


 夢姫は杖を投げ出すように手放すと、持ち主の元を離れた黒の杖は闇に溶け、無に帰る。

 いつものように駆け寄る夢姫――だが、一方で“梗耶”の異変を佐助はいち早く察したようだ。とっさにおさげ髪を馬の手綱を引くかのように握りしめると、夢姫はその反動で首が曲がってはいけない方向に向いてしまったらしい。そのまま尻もちをついてしまったのだった。


「いい加減にしてよ! 馬鹿さす」

「馬鹿はお前だ! 何をしておる、下がれ……来るぞ!」


 佐助の言葉とほぼ同時、少しだけ早く“梗耶”は背中に隠し持っていた手鏡のような黒いものを取り出し、黒く濁った鏡面を夢姫に向かい構える。


 その鏡面からは噴き出すかのように黒い靄が溢れ出し、自分目掛け吹きついて来るそれを辛くもかわした夢姫は、追いつかないままの感情をぶつけるように佐助と“梗耶”とを見比べていた。


「あっははははは!! あー……良いね、その顔。どう? 自分がドッキリをしかけられる気分は」

「きょーや、なに言ってるの……?」


 “梗耶”は子供のように無邪気に笑う。

 控えめに笑う“梗耶”とは似ても似つかない――だが聞き覚えのある彼女自身の声。

 少女は笑いが収まると、座り込んだままの夢姫の目の前まで歩み寄り息を吐いた。


「きょーや、ねえ……まだ分からないの。やっぱり見分けついていないじゃない、何が“親友”よ」

「……へ?」


 座り込んだままの夢姫を見下ろし、“少女”は自嘲気味に笑みをこぼす。


 “少女”が言わんとしている事はまるで意味が分からない、と佐助は木刀を携えたまま同行を見守り、八雲は静かにその様子を見つめていた。


「私の名前は“梗耶”じゃない。妹の方だよ……十一年ぶりだね。夢姫ちゃん」

「……うそ、嘘だ! ……まさか」


 珍しく夢姫は声を震わせ、立ち上がれないまま“少女”を見上げる。

 少女は踵を返すと夢姫の傍を離れ、間合いを取っていた佐助と、その奥の八雲を見据えた。


「私の名前は、風見“桔子”……“疫病神”に家族を奪われ、水瀬夢姫に葬られたただの“怨霊”だよ!」


 桔子、そう名乗った彼女は再び手鏡を構える。

 先ほどよりも量の多い、夥しい黒い手が今度は夢姫の両足をとらえた。


「嘘だ! だって、桔子は、きいちゃんは! 火事で!」


 鏡面の禍々しい闇の中へ誘おうと言うのか、“まの手”達は掴んだ足を引き、自分たちが元いた場所へ戻ろうと(ウゴメ)く。

 だが、大人しく掴まっていられない夢姫は気合の入ったミニスカートが翻ろうとも気に掛けず、足を振り上げ強引に“ま”を引きちぎると、乱れた呼吸を整え右手に黒の杖を構えた。


「……殺されたんだ、あなたに!! 許さない、許さない……!」



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