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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
1.心直かりければ
2/287

1-1

 ――長いようで短い春休みが終わる。


今日から二年生となる、灯之崎(ヒノザキ) 和輝(カズキ)は数週間ぶりに校門をくぐると、息を吐いた。


「それではかずきさん、がんばって下さいね! 本年度こそ、お友だちゲット! ですよ!」

「が……頑張るよ、うん。……ソラも新しいクラス、頑張れよ」

「はい!」


 中等部の頃から和輝が世話になっている下宿先――“來葉堂(ライヨウドウ)

 その主の子供である春宮(ハルミヤ) (ソラ)は小学校五年生になる。

 十一歳にしてはいささか稚拙でたどたどしく、反面仰々しくも思えるソラと挨拶をかわし、別れると和輝は高等部の校舎へ向かっていった。


 明陽学園(メイヨウガクエン)は、初等部から高等部までの一貫教育をモットーとした学園である。

 和輝は中等部からこの学園で過ごしている……が、当人なりの事情、想い故に今まで気が置けない関係性を築いた事がなく、学園内でも孤独に過ごしていた。


 綺麗に掃除された下駄箱に靴をしまい新しい教室に向かおうとしていると、昨年まで使っていた棚の真新しく少し大きい制服に身を包んだ生徒達の瑞々しい声が聞こえ始めた。


 特に知り合いがいるわけでもないと和輝は気にも留めないまま歩き始めた……が。

 そんな彼を追いかけるような騒々しい足音が徐々に近づいてくる。

 なんとなく展開が読めた和輝が何気なしに振り返り手にしていた鞄を盾に構えると、そこには真新しい制服が似合っていない、前髪と横髪を切り揃えた古風な少年が立っていたのだった。


「……ふん。学校には遅刻せずに来ておるのだな、まあ及第点はくれてやろう」

「佐助……お前その制服を着る以上、俺の方が先輩だからな」


 ――和輝を取り巻く状況が一変したのは昨年の事。


 ちょうど一年ほど前の“ある出会い”をきっかけに和輝にとっての“日常”は夢幻(ユメマボロシ)のように消え去った。

 転がるように、逃れるように過ごした一年の様々な出会いを通し……和輝は少しだけ考えを改めたのだった。


「先輩? ふん、見せかけの尊厳など興味がない。僕にとって貴様は敬う価値も見いだせないな」

「あーはいはいなるほど。つまり先輩とか上下関係じゃなくって“友達だーっ”て言いたい訳な。俺以外に友達いないもんな。お父さんに“また今度遊びに行って差し上げます”って伝えといて」

「違う!! ……貴様、少し図々しくなったのではないか」


 真新しい制服に身を包んだ少年、久世(クゼ) 佐助(サスケ)

 古くよりこの地を守ってきた久世神社の一人息子である彼もこの年から同じ学び舎の後輩となる。

 比較的整った顔立ちであるにも関わらず、まっすぐに切りそろえられた時代錯誤な長髪に背中には校則違反の木刀。

 そして包み隠さぬ暴言、尊大な態度……それらが指し示すのは他人に対する明確な拒絶である。

 そんな彼もまた昨年一年間で置かれた環境が大きく変わってしまった一人と言えよう。


「冗談が通じないな、相変わらず。……今日も摩耶さんの言いつけを守って俺を監視してるんだろ、分かってるよ」


 ――お主に頼みたい事がある。それは、“灯之崎和輝の監視”だ。


 何百年も存在し続ける樹木のような存在感と、風が吹くだけで揺らぎ消えてしまいそうな儚さを持ち合わせた不思議な少女――摩耶(マヤ)

 彼女にパシら……もとい。彼女に仕えている佐助は、その命を全うし、こうしてストレスと向き合いながら日々を過ごしていた。


「摩耶“様”だ。“様”をつけろ」

「俺“様”の監視? お疲れ“様”です?」

「刺すぞ」


 茶化す余裕が身についてきた和輝が軽く返すと、佐助は背中に背負った木刀を居合いの構えで携え、鋭く睨む。

 学校指定の鞄を盾にしながら、和輝は“だから冗談だって”と宥めたのだった。


「まったく、摩耶様に気にかけられてるからと言って調子に乗りおって……もう一度言ってみろ、次は貴様の腹に風穴を開けてやる」

「はいはい……」



―――



 高等部一年の校舎は三階、二年の校舎は二階である。

 佐助と別れ、まだ肌寒い廊下を進んでいると中央の掲示板の前には人だかりができていた。そう、この一年の学校生活を決めると言っても過言ではない……クラス表が貼り出されているのだ。


 クラス表のすぐ真下にはこれから一年間、共の教室で学ぶかもしれない生徒達が一喜一憂の様相で話に花を咲かせている。

 わざわざ人の波をかき分けて行かずとも、離れた場所からクラス表を確認できる程度の視力を持ち合わせている和輝は目を凝らし……“灯之崎”という、比較的後半の方にあるであろう自分の名前を探し始めた。


「――和輝! ほら何してんのよ、行くわよ!」


 端から順に目で追っていく。一組、二組と確認したが、自分の名前はおろか僅かばかり見知った名前すら見つからない。

 和輝の中に根深く残るネガティブ思考は“もしや、どこのクラスにも名前が載っていないのではないか”等とあり得る筈もない嫌な想像ばかりを思い描いてしまう。


「ちょっと! 無視しないでよ!」


 ……嫌な想像を払拭するように、和輝はすぐ耳元に響く甲高い少女の声を敢えて無視していた。


「“2の3”か。担任は続木(ツヅキ)先せ……え」


 貼り出されたクラス表の三枚目、その端の方で和輝はようやく自分の苗字を見つける。

 だが、安堵の感情もほんの数秒……すぐその横に、“一番見たくなかった名前”を見つけ、深いため息を落としたのだった。


「――“2の3、水瀬(ミナセ)夢姫(ユウキ)”……マジか」


 和輝は大きく肩を落とし、絶望のあまり手放してしまいそうになっていた精神をすんでのところで繋ぎとめると苦々しく視線を手向ける。


「さっきから言ってるじゃない。“一緒に行くわよー”って。……今年も一年、先生のツンデレ攻撃食らうのかって思うとうんざりしちゃうけど、和輝と同じクラスなのは不幸中の幸い……じゃなくって、えっと。……そう! あんたは不幸中の幸いよね! 光栄に思いなさい!」


 去年より少し伸びたボブの黒髪に、部分的に長いツーテールヘア、相変わらず短いスカート姿の賑やか過ぎる校内きっての問題児・水瀬(ミナセ) 夢姫(ユウキ)


 “超絶美少女”を称する我の強い性格である彼女に、初めて出会ったちょうど一年前の春からずっと和輝は振り回されてきた。


「不幸中の“不幸”だ」

「なんでよ!」


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