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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
3.生き難き命存したる者
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3-4


 手頃な花瓶を見繕(ミツクロ)い、花を生け初めていたクララは梗耶の姿に気付くと、鼻歌交じりに厨房へと足を弾ませる。

 お茶を入れる準備をしているのだろう。店内には玄米茶の香ばしい香りが漂い始めた。


「――それより、和輝さん、佐助さん……もしかして、また火災の跡地に行くつもりなんじゃないですか?」


 夢姫に付き添われながらテーブル席に腰かけた梗耶は、眼鏡を指先で押し上げると淡々と切り出す。いつもの調子で何か情報を調べてきたのだろうか、徐にスカートのポケットからスマホを取りだし、梗耶は何かアプリのようなものを立ちあげ始めていた。


「ふん、無論そのつもりだ。……ちょうど良かった、眼鏡。その馬鹿女が“ついて来る”とわめいておったのだ、回収しろ」


 和輝が口を開くよりも先に佐助が呆れたように指示を出すと、梗耶が言うよりも先に夢姫が立ち上がる。

 色々と気に入らない文言が多かったようで文句を言いたげに歯を食いしばっていたが……やがて諦めたように夢姫が“言われなくても帰るわよ”と言いかけた、その時――


「佐助さん、和輝さん! ……その事なんですが」

「ほえ? ……きょ、きょーや?」


 ――夢姫の手を引くと、梗耶は控えめに挙手をしたのだった。


「まだ何かあるのか、眼鏡」


 面倒そうに頬杖をつき先の言葉を促す佐助の前、机越しの正面まで歩み寄ると梗耶は小さく息をつく。心なしかスマホを握る片手には力がこもっているようにも見えた。


「私もついて行って良いですか? ……って言っても、ダメと言われそうなので、個人的に行こうかとも思いましたが……一応宣言はしておこうかと」

「……は!?」


 梗耶とは思えないその言葉に、和輝は勿論佐助や夢姫でさえも声を合わせ驚きを表す。

 そう、梗耶と言えば良くも悪くも厄介事には首をつっこみたがらない性格である。

 今回は特に当人にとって“行きたい場所”であるとは到底思えない。


 同行を断ったところでそうそう簡単に諦めそうな気配もない少女の決意を前に、和輝と佐助は視線をかわしお互いの出方を探り合っていた。

 ――そんな空気を察したのだろう。梗耶は握っていたスマホの画面を開き三人に見えるよう差しだす。


 何気なく夢姫が覗き込むと、そこには誰もが使っているSNSのアプリ画面が映し出されていたのだった。


「……私、気になって……休んでいる間に色々調べていたんです。そうしたら、川島さん達の他にも目撃したって人の投稿が何件かあって」

「風見は体調悪くてもとりあえず調べるんだな」

「半分私の存在意義のような気がしてきているので」


 呆れたように和輝がため息をつく傍ら、夢姫と佐助は画面に映し出されている文字を競うように追いかける。

 顔も名前も知らない誰かが書いたであろう文章――だが、添付されている画像には確かな既視感がある。

 信憑性を著しく欠くものではなさそうだ。


「――書いてある通り、目撃したって人は揃って“若い女を見た”と言っているんです。だけど、元々の……“火災現場の疫病神”は少年だったはず。つまり別の誰かだってことじゃないんですか?」


 二人が文章を読み終える頃、梗耶は眼鏡を指先で押し上げるとそう付け足す。

 何件か目を通した投稿記事にも確かに“女の子がいた”と記載があったので、そこは間違いがないだろうと二人は納得し頷いた。


「確かにな。性別もだが……十数年前の噂の発端の方だって実在するとすればもう良い歳のおっさんであろうから、同一人物ではないであろうな。……で?」

「そう、人は歳をとるんですからおじさんになってるはずですよね? それと同じです。今回目撃されている“鬼”が若い女だとしたら」

「十一年前の火事があった時にはチビっこガールだった! ……ってこと?」


 夢姫が素っ頓狂な声と共に元気よく挙手すると、梗耶はそれを見つめ、深く頷く。

 そこまでは間違いが無い事であろう。だが、それと梗耶の事がどう結びつくのか……


「なあ、風見……つまり、どういう事?」


 そもそも十一年前には現場から程遠い山奥にある実家に住んでおり火災の事自体良く知らないままの和輝が置いて行かれまいと尋ねると、梗耶は何故か言いにくいような表情を覗かせながらも息をついた。


「――その、“火災跡地の疫病神”が……事件発生当時小さな女の子で、もしも火災の被害者の一人だとしたら……私の妹である可能性があるんじゃないかと思ったんです。私の妹、“桔子(キコ)”が一人だけ生き残ってしまった姉を探しているんだとしたら……正体を確かめに行きたいんです」


 途切れ途切れに、だか確たる信念を秘めた梗耶の言葉に耳を傾けながら――和輝はふと原因の掴めない違和感を抱いた。だが、恐らくその“噛みあわない感覚”に他の者は気付いていないようだ。

 佐助は返す言葉を探しているのか頬杖をやめ、腕を組んだまま仏頂面をしているし、端で話を聞いていた風の八雲は相変わらず何かを考え込んでいる。

 夢姫は思い当たる節があったのだろうか、元々大きな瞳を更に大きく見開き声をあげていた。


「きいちゃん!? ……え、だって、きいちゃんはあの時死んじゃったじゃん……? お葬式だってやったし」

「でも、遺体は見ていないよ。……“子供が見るものじゃない”って、私も夢姫も棺の箱しか見ていなかった、そうでしょ?」

「う、うん……そう、だけど」


 反論の材料をそれ以上持っていなかったのだろう。夢姫は言葉を濁すと珍しく俯いてしまう。二人が話す“桔子”という人物の事はもちろん、葬儀の事など知る由もない和輝や佐助にとって“亡くなった人が蘇る”なんて事、ある訳が無いと言う認識であろう。

 だが、魂だけで存在し続ける“幽霊”のソラという事例もあるのだから、完全に否定できないのも事実であった。


「お二人の邪魔にならないようにします。もし思い違いであれば……金輪際関わりませんし、夢姫が首を突っ込まないよう監視しておきます。……でも、もし本当にそうであれば……話をすべきは私の筈なんですから、きっと解決の糸口も見いだせると思うんです」


 梗耶はそう言うと深く頭を下げる。

 佐助の出方を参考にしようと和輝が視線を向けると、彼は既に反論を諦めたのか、再び頬杖をつく姿勢に戻り、小さく舌打ちをしていた。


「そーいうことなら! あたしも一緒に行って良いわよねえ? あ、ほらきょーやを守らないと!」

「あ、いえ。わがままは承知の上ですから、同行がダメなら一人で」

「ええ!? きょーやひとりは危ないよ!」


 “一人ででも行く”の一点張りの梗耶に対し、“それなら自分も一緒に行く”と夢姫もまた譲らない。

 一方で佐助は“一人ででも勝手に行け、自分は関与しない”と言わんばかりに口を閉ざしたままで少女たちの声にも耳を貸さないまま――話は完全に平行線をたどり始めていた。


「……はあ、結局こうなるのか」


 和輝が観念したように呟くと、そのため息を耳にした夢姫は答えを悟り、くるくると舞い踊る。

 ダンシングスターのような決めポーズを決める夢姫を横目に、和輝はまた諦めたようにため息を落としたのだった。



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