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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
14.女の手は福よかに滑かなる
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14-2


 少し早目の昼食をとった後、一同はいよいよ一大イベント――

 それぞれの思惑が交錯する“水着タイム”と相成る。まだ人影まばらであった朝方とは違い、日も高くなってきた海水浴場は多くの客で賑わっている。それぞれ準備してきた水着を海の家で着替える中――一番乗りとなったのは和輝と燈也であった。


「――先に準備出来ちゃった女子が一人でツレ待っててさあ」

「ああ」


 何となく歩き出した燈也を追いかけ、和輝もまた砂浜にサンダルの足跡を残す。

 一度は揉めた相手とはいえ、元来は気心の知れた幼馴染である二人の間に余計な遠慮などは存在しない。


「気合入っためっちゃエロい水着着ちゃっててさあ?」

「……ああ?」


 歩き出した事に意味も目的も無いのだろう。燈也は少し湿った砂をサンダルで踏み固めては少し間隔を開けてまた踏み固めると言った生産性の欠片も無い行動を続けながら言葉を紡ぐ。

 和輝もまた、そんな彼に付き合ってやるかのように……燈也が固めた砂を少し角度をつけたサンダルのつま先で崩して回りながら返事をしていた。


「ナンパヤローに“そこの彼女かわいーじゃん! 一緒にお茶でもいかへんかー”って」

「はあ」

「“きゃっ! いや、やめてください!”」

「ああ。それ男の方が駆け付けて“俺のツレに手を出すな”って言うヤツな」

「……意外に詳しい」

「師匠が好きな展開だし」


 徐々に芝居に熱がこもり始めていた燈也の独り舞台を強制的に終了させると、和輝はサンダルに入り込んだ砂を叩き落としていく。

 芝居がかった気持ち冷めやらぬままであった燈也は突如として海に向かい走りだすと、慌てて追いかけた和輝を待たないまま波打ち際に足先を浸した。


「海ネタの定番っしょ? 男としての株、バク上げっしょ? なのにさあ……!」

「あ、ああ……?」

「オレら男が一番乗りじゃ意味ないじゃん!! “ごめん待った?”って普通に登場しちゃって悪い男の出る幕ねえじゃんくっそおおお!! 悪い男出てこいよおおおおおおお」


 夢姫が焦がれていたように、どうやら燈也もまたその“一連のネタ”をやりたかったらしい。崩れるように、両膝を打ちよせる波に叩きつけると、悔しさを水面にぶつけた。

 ある意味“他者を蹴り落として自分の道を進みたがっている”と言える燈也の姿を前に……和輝はかつて、焚きつけられた結果と言えども彼が“鬼”になった理由。彼の素質が垣間見えた気がして呆れたようにため息を落としたのだった。


「――まぁ……なんだ。落ち込んでるとこ言いにくいけどさ。その手のイベントって、彼女の魅力にかかってるわけな。だから安心しろ。湊がナンパされる展開はありえな」

「ちょっとー!! 失礼な!」

「あいた」


 波打ち際で叫んでいる燈也を、通りすがりの子供たちが不思議そうに見上げている――

 ――子供たちにとって、これから始まるであろう“夏休みの楽しい思い出”の一ページに妙な男の咆哮を混ぜ込むわけにはいかないと察した和輝が燈也の腕を引っ張ると強引にその場を離れる。


 和輝がフォローのつもりで発した一言は全く慰めにもなっていない。

 いつの間にやら準備を終えて二人の元までやってきていたらしい湊は、その極めて失礼な一言に黙っていられなかったらしく……手にしている黒いビニール風船のようなもので和輝の頭を叩くと、頬を膨らませた。


「湊、遅かったな。……って言うかそれ何?」

「これ? シャチのうきわ、夢姫さんと遊ぶの! さあ膨らませてちょーだい!」

「子供かよ。あとお断りします。そう言うのは猿喰さんが得意そうな気がするんだけど」

「えー!」


 不意打ちで叩かれた直後は黒いビニール素材に遮られて良く見えていなかったが、その手にしていた風船のようなものは、どうも膨らませる前の浮輪の類のようだ。

 いまどき子供でも持て余すような素朴なレジャーグッズを堂々と見せびらかす幼馴染……湊は楽しそうに笑うと、カラフルで艶やかなワンピースデザインの水着のフリルを翻した。


「こんなに可愛い私のお願いを断るの!? こんなに可愛いのに! 可愛い私が水着姿なのよ? 貴重な姿よ、似合ってるでしょ?」

「ああ、小学生の中では可愛い方のレベルじゃない?」

「私高校生なんですけど!? ねぇーとーやも黙ってないでなんか言って……あれ?」


 ――ふと、二人は傍らにいるはずなのに、幼馴染同士の言い合いにも混ざらず黙り込んだままであった燈也の存在を思い出すと恐る恐る視線をスライドさせる。

 優菜の時のような、“道具”の影響下に置かれる環境は今、この時点ではありえない事だろう。だが、彼には二回――まだ和輝が幼かった頃と、そして昨年末の騒動の際に度々“ま”に取り憑かれた過去がある。

 何かの拍子に再び“鬼”に変貌してしまったのではないか、と言う不安が和輝の脳裏に駆け巡ったその時……

 ――同じく不安な気持ちを胸に顔を覗きこんでいた湊と目を合わせた燈也は、堰を切ったように叫び声をあげたのだった。


「かっかかかかかかかかか!!! え、ちょっま……湊!!! 好き!」

「とーや!? 顔がヤバイよ!? キモいよ!!」

「んんんん!! ……はあ、ちょっとトイレ行ってくる! 和輝ぃ! てめー湊に触ったらコンクリートで固めて海に流すからな!」

「触らないよ」


 幼馴染であり、小さい頃は和輝も含めてプールに行く機会等もあったはず。

 だが……“恋人”となってから初めて目の当たりにする水着姿は燈也にとって格別なものだったらしく、瞳に溜めていた涙をあふれさせると悶絶して暴れ始めたのだった。


「ちょっ、ちょっととーや!? とーや!? 和輝、とーやが大変!」

「まあほっといてやれば……?」

「冷たい~!」


 腰が引けたような前のめりの姿勢を保ったまま男子トイレに向かい走り始めた燈也――彼の身に起こったであろう()()を考えないようにすると、和輝は目を逸らした。

 一方の湊は、何が恋人をそうさせたのかなど知る由も無い。

 何の脈絡も無くトイレに駆けこんで行った燈也の後を不安に駆られたまま追いかけていったのだった。



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