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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
13.田舎人なれども
134/287

13-6

「――はあい! ソラくんにも! クララお手製のわらび餅だぞっ」

「ありがとうございます。……それにしても、今日はずいぶんとおひさしぶりなお客さまもいらっしゃってるんですね」


 預かったカバンをカウンターの隅に横たえると、クララは厨房へと舞い戻っていく。

 少し経った後、鼻歌を交えながら姿を見せたクララが手にしていたものは……先程佐助達にも提供していたものと同じ、涼しげに透き通るわらび餅だった。


「あー!! そうだよソラぽん! ソラぽんも一緒に海に行こうよ! ねね、みなとちゃん、良いよね?」

「ああ、良いですね!」


 カウンター席に並び腰かけていた湊と燈也に、会釈したソラはつまようじを手に取る。

 その様子を眺めていた夢姫は思い出したように小さな両肩を捕まえ、いたずらな笑みを浮かべた。


「海……」

「ふん、僕に断られたからと言ってかような弱者を強引に連れだそうと言うのか。流石は馬鹿女だ、考えが野蛮だな。……小僧、遠慮するな、断って良いぞ」

「だーもー! 馬鹿佐助には聞いてない! あっち行ってなさいよ~!」


 ――ソラの中で答えはとっくに決まっていた……が、口を開くよりも先に傍らにやってきていた佐助が夢姫の頭を叩き遮る。

 追加されていたわらび餅をさり気なく自席に持ち帰ろうとしていた佐助の手からつまようじをはたき落とすと、夢姫は片手を腰に置いたまま頬を膨らませていた。


「あっあの、どうかけんかはお止め下さい! ……あの、ボク……海に行きたいです」

「ほれ見ろ馬鹿おん……な?」


 第二回戦に突入しかけていた夢姫達の間に割って入ったソラが二人を見上げそう告げる。

 ――だが、ソラが出した答えが想定外であったらしく、佐助は驚いたように見下ろしていた。


「小僧、こんなうるさい馬鹿女と一緒に海に行くなど疲れるだけで楽しく無いと思うぞ?」

「いえ……だって、和輝さんや佐助さんもごいっしょなされるのでしょう? だったらきっと楽しいです」


 “自分は行くつもりなどない”――

 ――佐助が切り出しにくそうにソラの肩に触れる。……だが、小さなソラの中にはまるで大きな使命があるかのようでその姿は堂々としていた。


「あの! 出来れば、クララさんも……ごいっしょしませんか? ……お店があるから、むずかしいのはしょうちなのですが……ボク、みんなで行きたいです……おねがいします!」


 佐助の言葉も待たないまま、ソラはカウンターの向こうで動向を見守っていたクララに向かって頭を下げる。

 クララは子供達とは少し立場の違う、いわば保護者的な存在だ。

 大抵の場合こう言ったイベントごとに関わらず店番をするというのが暗黙の了解であり、ソラもその事を理解しているはず。


 その前提を踏まえたうえで頼み込んでいるのだろう……頭を深々と下げた表紙に胸ポケットにしまいこんでいた鉛筆と名刺が転がり落ちていたが、構いもせずにソラはクララの言葉を待っていた。


「こ、小僧? まあ一旦落ち着け。……ほら、落としたぞ」

「え? ……あ、ああすみません」


 カウンターの向こうでおろおろと上半身をもじもじさせていたクララを視界に入れて居たくなかったらしく、ソラの顔をあげさせると佐助は足元に転がってきた名刺を拾い上げる。


 ――クララが海に同行すると決まった場合店は臨時休業になるであろうから、先にオーナーである八雲に伺いを立てよう、という運びでクララが八雲の居室の扉を叩く一方。

 手持無沙汰になった夢姫はソラの手に戻された名刺を覗きこんでいた。


「ん? なにそれ名刺じゃん? ……なになに、いつき……何て読むのこれ。キラキラネームね」

「貴様がそれを言うか、馬鹿め。貴様は“沙羅(サラ)双樹(ソウジュ)”という言葉もしらんのか?」

「何それ」

「……伊月」

「沙羅……!?」


 漢字が読めなかった夢姫と、それを得意げに見下す佐助。ソラを挟んだまま“第三回戦”に突入しかけたその時――ふと傍観に徹していた和輝が二人を制し、その隙に刹那が名刺を奪う。


「か、和輝? それにツナっちまで」


 戸惑う夢姫をよそに、刹那は何か思案しているかのように名刺を見つめている。

 その横顔にはいつもの柔らかさも優しさも無く、ただ冷徹で無機質に思えるほどに凍りついていた。


「……そう言う事ね」


 名刺と共に転がり落ちていた鉛筆に気付いた刹那は誰にも聞こえないほど小さな声で呟くと、鉛筆のキャップだけを抜き取り足元に置いた。


「ツナっち、どうかしたの?」

「……何でも無いよ」


 鉛筆の存在に気付いていない夢姫が、突然しゃがみ込んだ刹那の姿に不安を覚え顔を覗き込む。

 ――だが、刹那はまるで何も無かったかのようにいつもの柔らかな微笑みを返すと夢姫の頭を撫でると、立ち上がると同時に誰にも気づかせないままキャップを踏み割ったのだった。



 ―――



「……ねえさっきの話だけど、やっぱり僕もご一緒させてもらって良いかな?」

「え!?」


 ――八雲はまだ眠っているのか、はたまたいつものように二次元の世界で愛をはぐくんでいるのか……。押し入る勇気のないクララは扉の前に張り付いたまま、控えめなノックを続けている。


 話が進まない中、ふと口を開いたのは刹那である。ソラの前で王子様のように跪き、目線を合わせると刹那は手を差し伸べた。


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