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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
13.田舎人なれども
133/287

13-5

 

 ――湊の立てた計画は次のとおりだ。

 この日は湊と燈也、それぞれ桔子の家と和輝が住む來葉堂に泊まり、翌朝早くから海に面した町……ここから電車で三十分ほどの海水浴場に向かう。そして夜にはまたそれぞれの家に戻り次の日に家路に着く、という二泊三日の旅行だ。


 実家が遠く離れた場所にある湊と燈也以外は、それぞれ自分の家から出かけるだけという極めてシンプルで前準備も最小限で済むプランの為、参加人数の限りもない。


「……一応念のため万が一のとりあえず聞いとくけど、佐助も来る? もちろんムリにとは言わないけど」


 つまり、参加したい人はいくらでも呼ぶことが出来るわけだが……。

 今、この場で話を聞いている人は名目上誘っておかないと角が立つと思ったらしい。

 指定席となった隅の席で頬杖をついていた佐助に夢姫は遠まわしに気を使いながら問いかけた。


「もちろん行かない」

「ですよねー。ねえねえ、ツナっちはどう?」

「うーん、バイトが入っているからね……。渚の歌姫のように可愛いであろう夢姫ちゃんの姿を見ることが出来ないのはとても残念だよ」

「ええー! ツナっち来ないの? それは残念……」

「おい馬鹿女。僕と扱いが違う」

「うるさいわねー馬鹿佐助! ()()()()()気を使って声をかけてあげたんだからそれだけでも感謝しなさいよ!」

「何だと!?」


 いまだ眠たげなままの刹那を置き去りに、特徴的な黒いツーテールを引っ張った佐助とつい本音が出てしまっていた夢姫との間でいつもの押し問答が始まる。


「……風見も来るの?」

 

 ――エネルギーが有り余る二人のぶつかり合いである。

 二人の仲裁ほど体力を消耗する作業はそう無いであろう……もはや止めることもせず眺めていた和輝は、おそらく同じ気持ちで眺めていた桔子にそれとなく尋ねた。


「え、ええ。夢姫も行くみたいだし」

「……そ」


 “押したモン勝ち”――

 湊がいたずらに発した言葉が耳に残ったまま、桔子の頭を支配している。

 自身の気持ちに陰りが生まれた訳ではないはずなのに、心のどこかでやましさを覚えるような……ブレーキを掛けたままの車輪のような気持ちになっていた。

 心の声が聞こえてしまいそうな錯覚にとらわれたまま声を潜め答えると、問いかけた方の和輝もまた消えそうな小さい声で呟いたのだった。


「――だー! もう! なんなのよ馬鹿佐助! そんな突っ掛かってこないでよ、来たいなら来れば良いじゃん!」

「誰もそんな事は言っていない! た、ただ誘い方が気に食わんだっただけだ!」

「意味分かんないんですけど!? なに? “是非とも一緒に行きませんか?”ってヘコヘコしてほしかったの!?」


 和輝と桔子が止めようとしない為か、夢姫達の言い争いはどんどんと激しさを増していく。

 言い合う内容は極めて稚拙な子供のケンカそのものであったが、二人の苛立ちは既に手につけられないほどになっていた。


 だが、このまま放っておくわけにもいかない。

 ようやく客を招き入れる準備が整った來葉堂にとっては他の客を遠ざける事にもなりかねないのだから店主であるクララにとってはその思いはなおのことであった。


「こーら! 二人とも――」


 見かねたクララが艶やかな着物の袖をまくりあげると、浅黒く筋張った雄々しい上腕が蛍光灯の光を浴びる。

 “ああ、地獄のデコピンコースだ”――

 ――彼女()の逞しい肉体が渾身の力を指先に集めて放つ必殺技・デコピン……その恐ろしさを良く知っている和輝は思わず目をそらすと、子供じみた喧嘩をしている二人を待つ目前の未来に同情し手を合わせた。


 彼女()が準備がてらに腕を回すと、風を切る音が耳に付く。

 隠しても隠しきれない強者の気配を察したのか、はたまたデコピンの恐怖をもとより知っている二人だからか……夢姫と佐助は視界の端で仁王立ちをしている白い巨人を直視できないまま言葉を失っていた。


「――ただいまもどりまし……あれ? 何かあったのですか?」


 ――二人がデコピンを覚悟していたその時。来客を告げる扉のベルが鳴り響き幼い声が店内に舞い込んだ。


「あらっ……ソラくんおかえり! だぞ!」

「そらぽんー!」

「…………助かった」


 図書館から戻ってきたソラの本が詰まった重そうな手提げかばんを預かると、クララは先程まくりあげた着物の袖を上品に正す。

 その仕草が意味するのは、先程の“執行されかけた(デコピン)が一旦保留になった”と言う事である。

 与えられた猶予(ユウヨ)を静かにまっとうすればデコピンも食らわずに済むはず……。

 決して仲が良いとは言えない夢姫と佐助だが“クララのデコピンを食らいたくない”と言うのは共通の考えであったようで、顔を見合わせると確認し合うかのように“休戦協定”を結んでいたのだった。



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