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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
2.日当らざる故に
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2-9


「水瀬さん、灯之崎君! ……先輩は」


 その場に崩れ落ち、意識を手放した男の姿を確認した瑞穂は三人の元へ駆け寄る。

 梗耶を背負ったままであった香奈はその後をゆっくりと追従し、恐る恐る先輩の様子を伺った。


「何で“ま”に侵されたのかは分からないけど……多分、目覚める頃には落ちついてると思うよ」


 刃先を光に返し、普段のゆっくりとした様相に戻った和輝が瑞穂に説明している傍らで、夢姫と佐助はようやく梗耶の異変に気付いたらしい。


 指をさし大声を張り上げた夢姫に驚き、香奈はたじろぎ近くに佐助の後ろへ隠れた(隠れていない)


「きょーやはどうしたの? かなちゃん!」

「あ、えっと急に倒れた、みたいなの……」


 幸い、梗耶の呼吸はしっかりとしているらしく、香奈が“貧血か何かじゃないかな”と続けると夢姫は納得した様子で胸を撫で下ろした。


 ――何か言いかけていたような。


 和輝は、先程聞き逃した言葉に……梗耶が言いかけた言葉に何か重要な意味があった気がしてため息をついたのだった。




 ――数日後。和輝の教室には女子たちの瑞々しい声が溢れかえっていた。


「あっみずほちゃんにかなちゃん! やほー! こっちこっち!!」


 自席のすぐ真後ろで広がっていく女子のエネルギッシュな会話。混ざりたくない、仲間だと思われたくない一心で和輝は机に突っ伏し寝たふり決め込んだ。


 ――寝たふりなのだから、当然女子達の声は聞こえている。“鬼”の話、“ま”や道具の話に発展してしまったら即座に話を打ち切らせようと内心で身構えていた和輝であったが……話を盗み聞く限り瑞穂や香奈には“ま”は見えていなかったらしい。

 つまり、彼女達にとっては“心霊的な恐怖に見舞われ正気を失った男が暴れ、それを力でねじ伏せた”ように見えていたのだろう。

 ……少女達は特に不審がる様子もなく、その後の顛末を紡ぎ始めていた。


 ――瑞穂達と夢姫の話を要約すると……例の一件の翌日から今日まで梗耶は学校を休んでいるらしい。ただ、重い病気な訳ではなく診断としてはやはり“貧血”と言う事であった。

 夢姫と詠巳の二人で放課後、梗耶の家を訪ね見舞っているらしいが……直後の記憶を失った以外は問題もなく、元気そうであったとのことだった。


 そして、それとはまた別で――(クダン)の先輩は目覚めた後、恵子の家を尋ね謝罪したらしい。

 

 その時に男が語った事、それは――恵子を置いて逃げた彼は、“送り届けた”と言う体でカラオケボックスに戻り本命の女をどう口説こうか計画を練っている最中、ふと後ろから誰かがついて来る気配に気付いたそうだ。


『どうでも良い女の子は置いて行っちゃうんですね? 男の風上にも置けない人……』


 恵子の気持ちを代弁するかのような聞きなれない少女の声。

 頭を駆け巡る数々の言い訳の中から単語を一つ一つ選びかねている最中――


 ――男の記憶は途絶え、気がついたときには腕の痛みと“何事もなかったかのように動く”バイク、そして無断欠席を数日間繰り返してしまった事に起因する、着信履歴が溜まった携帯だけが残されていたのだそうだ。


「――ふむ、これはその“少女”とやらが何か関係していそうね!」


 話を聞き終えた夢姫は名探偵よろしく腕を組み指を立てると、そう得意げに言ってみせる。……まあ、誰しも安易に辿りつける答えのような気がしたが。和輝はまたも無視を決め込んだ。


「じゃあ、今度はその少女に狙いを定めて調査に乗り出すわよぉ! ……って、和輝、聞いてる? スヤァなの?」


 水を得た魚のように生き生きと声を弾ませると、夢姫は立ち上がり……そして無視を決め込む和輝の頭を軽く叩く。


 無視を決め込むつもりであったが、太鼓か何かのようにひたすら叩き続ける夢姫に対していよいよ我慢が限界に達しつつあった和輝が起き上がり文句を言い返そうと口を開いた時……僅かに早く瑞穂がそれを諌めたのだった。


「まあまあ、水瀬さんも落ち着いて。灯之崎君もありがとう。……あの一年の子にもよろしく伝えてほしいわ」

「……あ、ああ一応伝えときます、けど」

「けど……?」


 瑞穂が首を傾げ、聞き返す。思わず口をついてしまったのは言わまいと決めていた言葉で、咄嗟に口を閉ざした和輝であったが、覆水は盆に返らない。


 マスカラとアイシャドウが固めた瑞穂の瞳から目を逸らすと、和輝は微かな声で紡いだ。


「――“ま”が差す時って、大抵心の奥底にある……当人が元々思ってる感情が暴走してしまう時なんです。“若いカップルが人目も気にせずいちゃついてるのが腹立つ”とか“謝れば許されると思ってる女への苛立ち”とか……時には“コロッケが食べたい”……たったそれだけの些細な感情からも、人は暴走してしまうことがあるんです」

「……つまり?」

「あの、大学生は言ってました。“女の癖に”――元々、川島さん達の事を“対等な相手”とは思ってなくって、下に見てて……まあ、言い方があれだけど」

「あたし和輝が言いたい事分かった! こーいうのを“ヤリ目”って言うのよね!」


 助け舟? と言わんばかりに夢姫が自信満々に瑞穂を指さす。

 間違ってはいなかったのだが、あまりにも居た堪れない空気察し和輝は思わず夢姫の手を叩き落としたのだった。


「えー……えっと。まあ、えっと……水瀬さんが仰る事は間違っていない可能性が高いわけで」

「何でしどろもどろになるの? ……あだ! 何でぶつのよ」

「うるさい水瀬。……まあ、だから、川島さんも、後ろの二人も。あんまり自分を安売りしたりしないで、ちゃんと見極めて……下さい。何かあったら、悲しむのは親友と親だと思いますから」


 叩かれた手の甲を摩り、口を尖らせている夢姫を横目に瑞穂はしっかりと耳を傾け……そして恵子と香奈と三人でお互いの顔を見合わせた。


「……肝に命ずるわ。今後は灯之崎君みたいな人狙う事にしようかしら?」


 瑞穂はふっと笑みを溢し、グロスリップで艶めく唇に人差し指を当てる。

 その後ろで存在感を隠しきらない香奈が慌てふためいた様子で瑞穂の手を引いていたが、状況が呑み込めていない夢姫だけはその光景を不思議そうに目をぱちくりさせ見守っていた。


「あはは……そうですね、でも、俺じゃ釣り合わないと思いますから、路線的にはそのまま逢坂さんとかで良いんじゃないですかね」


 和輝は目を逸らし、咄嗟に思いついたその名を出すと……「それもそうね」と頷く。


「そうよ! あの一年の子も……ちょっと生意気だけど脈はありそうだったわよね? 遊んでなさそうだし、そういうのもありかも?」


 “そう言うとこを治した方がいいのでは”


 喉まで出かかった言葉を呑み込み直すと、手を叩く瑞穂を傍目に和輝は苦笑いでお茶を濁したのだった。


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