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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
12.此許女の睦びむには
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12-2

 

「――ああ、お忙しい中申し訳ありません。……凄いコレクションですね、まるで美術館みたい。これだけのものをお集めになっているのだから、きっと老成なさっていると思っていましたら……意外とお若いんですわね」


 強引に居室を追いだされた八雲が目の前のカウンターテーブルに頭をぶつけかけた時、騒音に気付いた沙羅は少しだけ驚き、そして柔らかな笑みを返す。

 “若い”と言葉にしていたが、外見だけで判断する限り八雲と沙羅は同じくらいの年齢でなかろうか――

 八雲の背中に隠れていた和輝は言葉にしないまま二人を見つめていた。


「そう言うそちらも、多分歳もそう変わらないと思うんだけど」

「あら、そうかしら? あ、申し遅れましたわ。……伊月と申します。お噂には聞いておりましたが、改めて素敵なコレクションですね」

「……ティム・コーポレーション」


 その、懐かしく苦い思い出の残る名前に八雲は改めて沙羅の姿を見た。その会社名が印字された名刺のレイアウトには痛いほど見覚えがある。十数年程前に初めて出会った想い人――百花が勤めていた会社であったのだ。

 会社のホームページを穴があくほど調べた過去のあるのだ、忘れる筈がない。


「あら、弊社(ヘイシャ)をご存じでいらっしゃいましたか?」

「あ、ああちょっと、知り合いが昔勤めていて……」


 過去の記憶と共に体を駆け抜けていく罪悪感をごまかすように言葉を濁すと、八雲は涼しげな笑みを返した。目の前の女性と想い人との間に共通点は無い。名前も違えば年齢を推察するに勤めていたであろう時期もかみ合わないはず。


 だがタレ目な印象の整った顔立ち、白い肌、そしてスーツに抑え込まれてより一層に存在感を主張する豊かで柔らかな体には確かな既視感があった。


「……なるほど社長の趣味かー」


 どことなく透けて見えた既視感の正体にため息を落とすと、八雲はあれほど憎んだはずの“恋敵”が急に近しい存在に思えたのだった。



 ――一方、溶けたメイクを整え仕上げ直したクララはと言うと……。

 見慣れない麗しい来客と和やかに話す八雲の姿を発見してしまい、思わずカウンターテーブルの陰に大きな体を縮めて隠れていた。


 八雲を居室から追い出し、半ば八つ当たりに近しい感情から音声だけ取り残されていたゲームの電源を落とした和輝がようやくその姿を見せると、それに気付いたクララは声を潜めたまま呼び寄せた。


「かか和輝くん!? ……ちょっといらっしゃい! あれ、誰なの!?」

「……あ、えっと名刺には……ティム・コーポレーション、秘書課長の伊月 沙羅さん、だって」

「ん? なんか聞いたことある社名ね」


「――それで、えっと伊月さん? その、俺に何の用? ……やっぱり、この骨とう品かな?」


 他愛も無い世間話を少し交わした後――この蒸し暑い店内でいつまでも汗を流させる訳にもいかないと判断した八雲は単刀直入に尋ねる。

 その意図を汲んだのかは定かではないが、伊月もまた素直にその問いかけに頷くと微笑みを返した。


「お察しの早い……ええ、我が社では来期より新たなプロジェクトを控えておりましてね。此方にございます骨とう品達を買い取り、あるいは貸与という形で少しご助力願えないかと思いまして――」



 別に隠れて盗み聞きする必要も無いのであろうが、何故かクララと和輝は尚もカウンターテーブルの陰に身を潜め、事の成り行きを伺い続けていた。

 時折笑顔も垣間見える二人にだけ興味が注がれ、クララのメイクが再び溶けかけていたが、それにさえ気づいていない。


「何の話してるのかしらね……はあああんっ!? まさか、八雲さん再婚するつもりで……!!」

「“再婚”っていうか“初婚”だと思うんだけど。百花さんと籍入れてたわけじゃないじゃん」

「ん、そうだったわ。“未婚”で子持ちってややこしいのだ」

「“未婚”で“妖怪”のクララよりはマシだろうけど」

「んまー! お兄ちゃんに言うようになったわね!?」


 “いかがでしょうか”と尋ねる伊月の向かいに座っていた八雲は、少しだけ悩んだようで口元に手を当てたまま骨とう品に目を向ける。


「ものによる、かな。……いつかは手放すべきなんだろうけど、品によってはそうもいかないから」


 八雲の視線を辿ると、伊月もまた壁に設えられた棚を見つめる。

 クララがこまめに清掃している棚の上には、かつて父親が買い集め、その死後に息子である八雲に相続された骨とう品が整然と並ぶ。


 何かを探しているかのように手帳を取り出すと、伊月は手元のメモと棚の骨とう品とを見比べながらその口を開いた。


「そうですね、例えば……鈴の付いた腕輪や刀の柄、黒い鏡、勾玉……こういった類を探しているのですが。春宮さんほどの収集家様なら、どこかでご覧になったことありませんか?」

「え……?」


 首を傾げる伊月の方を振り返った八雲は自身の耳を疑った。

 ――そう、それらは全て“どこかでご覧になった”なんてレベルじゃないくらいに聞き覚えのある、“道具”と呼んでいるものばかりだ。


「……いや、知らないね。勾玉はともかくとして、他は骨とう品にしては一般的じゃないけど……どうしてそれを探しているの?」


 何を目的として道具を探しているのか。

 それまでの和やかでどこか懐かしい空気は一気に冷え切り、八雲はカウンターを盗み見る。

 “道具”の一つ、刀身を持たない柄だけの刀は今まさに――カウンターに隠れている和輝が持っているのだ。麗しい女性の目的も掴めないままであるというのに、そう簡単に手渡して良いものではない。

 八雲が探る意味合いを込めて問い掛けると、伊月は少し困った様にはにかみ微笑んだ。


「そうですよね、私も実はよくわからないのですが……社長がどうしても集めたいとのことで」

「……社長、ね。……申し訳ないけど、うちには見ての通り無いよ。飾ってあるのが全てだ。力になれなくて申し訳ないけど」

「いえ、貴重なお時間をありがとうございました。今日のところは失礼いたします」


 動揺を隠すことが得意な八雲は涼しげに頭を下げると、伊月は納得したように席を立つ。八雲が見送ろうと追うように席を立つと、伊月は振り向き明媚な微笑みを手向けたのだった。


「――社長の探しているものは無かったとしても、個人的にはとても好きな空間のようですわ。また、来てもよろしいですか?」

「……ホラー耐性があるなら」



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