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「――はー、もう! あたし、今日も居残りだって! 勉強ベンキョーって、あたし達何のために生きてるんだろ」
数日経ったある日の昼、夢姫は終礼のチャイムと共に悲痛な叫びを教室中に轟かせる。
既に慣れ切ってしまっている級友たちは苦笑いを浮かべながら各々の余暇を過ごし始めていた。
「“達”って言うな。水瀬は鞄の中におもちゃばっかり詰め込んでるから怒られるんだろう、いい加減学習しろよ」
「おもちゃじゃないもん! あたしの武器よ、これのお陰で明陽学園の平和は守られたって言うのに!」
「……今回はたまたまだろ」
――あの後、岩崎を襲い、学校に押し入った一味はまとめて警察の御用となった。
彼ら一味の中核的メンバーには、岩崎の他にも数名の高校生から金品を巻き上げたり、暴力を振るっていた余罪があった為、本件も含めて調査が入る事となったのだ。
「そういや、ばか佐助ってばよく捕まらなかったね~。あいつもついに逮捕されるのかーと思ったのに」
「いやあいつ悪い事してないし……」
これだけの騒ぎとなったのだ。岩崎を含め、本件で彼らと対峙した佐助や夢姫、和輝も警察に事情を聞かれる運びとなっていたが――
「灯之崎和輝君!」
「うわびっくりした」
人もまばらになった教室で和輝はいつものようにお弁当の包みを開ける。この日もホワイトデビル、もとい兄であるクララが拵えた色どり鮮やかなおかずがお弁当箱の中所狭しと敷き詰められていた。
突然耳元で弾けた元気な声に驚き、蓋を落としそうになった和輝を無視して声の主――美川は分厚いメガネを指先で押し上げた。
「ちょっとー今日の和輝は“あたしとごはん食べる”って決めてるの! また無断で借りようとしてるでしょ!? ダメよ、あたしの許可を取りなさい!」
「借りる? 違うさ! 僕、美川健二も一緒に! 水瀬夢姫君と三人で食事を取ろうと思って、今日はお弁当を作ってきたのさ!」
「はあ!? イヤだ! あたしつまんないフツメンと一緒に過ごす時間が何よりも大嫌いなんだけど!?」
“水瀬の所有物扱いになってる”――和輝は色々言いたい気持ちになっていたが、目の前の二人の言い争いに割って入る気力すら面倒に思え、諦めておかずに箸を入れる。
「……さりげなく仲良くなったよな」
――警察への事情説明の際、木刀を所持し男達に向かって振るっていた佐助は流石に注意では済まないだろうと誰もが思っていた。
だが、現場で目撃していた生徒達、その中でも特に美川が先陣を切って取り計らい、“彼は演劇部の所属で、普段は持ち歩いていない”と口八丁を尽くしたことで厳重注意のみで免れたのだった。
「べべ別に!? ……た、ただ。まあ、少しだけ認識は改めた、かな。君達四天王も、根っからの悪人ではないのだろう、と」
「ほほー? やっとあたしの完璧美少女ぶりが分かったのねー」
「それは、それは違うかな……」
一瞬にしてゆでダコのように赤く染まる頬をごまかすように、美川はそう早口でまくしたてると眼鏡を指先で押し上げたのだった。
「……なあ、灯之崎のその弁当って、ホワイトデビルが作ってるの?」
――歩み寄りの道を選んだのは、美川だけでは無い。
お弁当箱の真ん中でやたらと可愛らしいプラスチックピックが存在感を放つクララお手製ミートボールをつまみ上げた時、和輝の肩に誰かの腕の重みが圧し掛かる。
「……ホワイトデビル、って言うか兄さんが作ってますけど。岩崎さん、それ痛いからやめて」
「“岩崎”で良いよ。……ふーん、本当に何でも出来るんだな。ホワイトデビルかっけえ……」
そう、例の一件で問題の中核にいた岩崎だ。
彼もまた厳重に注意を受けたが、被害者でもあった事により刑事沙汰とまでは至らなかった。
「…………岩崎、そんなに羨ましそうに見るなよ。何か、逆に申し訳なくなる」
「だって伝説の存在だぜ? そんな雲の上みたいな男……いや女? に弟がいて、しかも世話してくれてるとか、灯之崎はその幸せを大事にした方が良い」
「まあ、クララちゃん顔と体以外はパーフェクトガールだもんね」
自身が抜け出せずにいた不良集団から無事に抜け出すことが叶った岩崎は、近頃では授業にも顔を出すようになったようだ。
元々の不良時代に伝え聞いていた伝説の男(女)・ホワイトデビルに憧れを抱いていたらしく、こうして和輝の元へ集うようになったのだった。
「あ!! そーだよ、こーみくんも來葉堂に来ればいいじゃん。そしたらクララちゃんのお手製スイーツ食べられるし、投げキッス浴び放題だよ!」
「待て、投げキッスはいらなくな」
「マジかよ水瀬! よし、灯之崎、今日の帰り一緒に帰ろうぜ」
「ちょちちょっ! なんで僕は誘ってくれないのかな!? 美川健二、お供しますけど!」
「え、メガネはいらないんですけど」
「投げキッス欲しがる人は流石に初めてだ……って、水瀬が勝手に決めるな! 來葉堂は俺の家な!」
“もう、まともな学園生活は諦めよう”
――頭上で賑々しく声を弾ませる三人を余所に、和輝はため息を落としたのだった。




