2-8
「助かったわ佐助ぴょん! さあ、ちゃちゃっとやっつけちゃいましょ!」
「そうだな、まずは馬鹿女は僕の邪魔になるから下がっていろ」
「ええ!? 何よあたしを守ってくれたんじゃないのー?」
「お前ごと殴っても良かったんだがな」
「はあ!?」
一方の佐助と夢姫は、それぞれの立場、意思を示すかのように対になる形でお互いの出方を伺う。
佐助自身には“ま”を払う力も“道具”もない。だが、その力を持つ少女、摩耶と常日頃から行動を共にし、且つ彼女を守っているがゆえに“ま”も見えるし、対人であればそれなりの力を持っている。
対する夢姫は正体不明ながら“道具”の持ち主であり、“ま”を払う力はあるのだが、当人の華奢な体格も関係し、戦いに向いているとは到底言い難い。
相反する性質である二人に共通する点は“好戦的である”という点だけか。だが、相反するがゆえに協力すればより強大な力となりそうなのであるが――
――二人の性格はまるで火と油、混ぜると爆発してしまう危険物のようであった。
「女の癖に、女の癖に女の癖に女の癖に女の癖に!」
二人が“どけ、どかない”の押し問答を繰り返している最中、またも無視された形になった男は苛立った様子で頭を掻きむしり叫ぶ。
再び自分らの置かれた状況を思い出した夢姫と佐助は一瞬だけ目を合わせ、そして男に向け各々の武器を構え直したのだった。
「助ぴょん、話はあとね! まずはあいつを片付けましょ!」
「助ぴょん言うな。……あと話す事もないが片付けには賛成だ!」
三人の中で一番こう言った状況下に慣れている和輝は、目の前の二人の危ういやりとりに肝を冷やしつつ、未だ背中に残る抵抗に息を吐く。
「――風見? あの、ちょっとどいて頂けるとありがたい」
「……駄目。行かないで」
傍らの少女は振り払えばそのまま地に伏してしまいそうなほどに弱々しく浅い呼吸を繰り返し、その顔は薄明かりでも分かるほどに血の気が無い。
「風見……何かあったの?」
和輝が当人の出来る限り精一杯優しく問い掛け、裾を掴む手を解くと……梗耶の瞳には、まるで奥底で燻ぶる炎のような“赤”を宿している気がした。
「行かないで、あなたは私が――」
言いかけた梗耶は辛うじて保っていたらしい意識を手放した様子でその身を後ろに投げだす。
「え、風見!?」
そのまま凹凸の激しいアスファルトで頭を打ち付けてしまう所であったが、一早く察知した和輝が咄嗟に背中に手を回すと、緩やかにその場に崩れ落ちたのだった。
「ちょっと、風見さん!?」
「やだ、そんな風見さんまで!」
怯えたままの瑞穂が駆けだすと、香奈もまたそれを追いかける。女子二人の声や動きに対し男が反応を示す事は無い様子で、それを確認した和輝は香奈に梗耶を託した。
「軽い……風見さん、ちゃんと食べてるのかな」
皮肉にも本人が先程宣言した通り、香奈は軽々と梗耶を背中に背負う。
和輝は“あんたは食べすぎなんじゃなかろうか”というまっとうなツッコミをすんでのところで呑み込んだ。
「と、とりあえず香月さんと川島さんは離れてて……あと、さっき言い忘れてたけど、“今から見るもの”は見なかった事にして!」
気を取り直し、和輝は息を吐くと片手に持ったままの刀を握り直す。
そして一進一退の攻防を続けていた夢姫達の元へと走ったのだった。
「はえ!? 和輝、護衛は良いの?」
「よく分かんないけど、こいつの狙いは水瀬だけみたいだ! 良かったなモテて!」
余裕が無かったのか、当人の親友である梗耶が倒れた事には気付いていないらしい夢姫が素っ頓狂な声をあげると和輝が応じ、立ちつくす男へと間合いを詰める。
「ええまじ? やだあたしどうしよー? 刹那っちと良い、大学生にモテる系かも?」
「ただのブス専だろう」
「ちょっと佐助!?」
和輝が光の刃を横に一閃させると、男はのけぞりそれをかわす。
「ふん、事実を言ったまでだ!」
すんでのところで刃先をかわした男であったが、背後に控えていた佐助が逃亡を許さず、躊躇なく木刀を振り下ろす。和輝が背後から間合いを詰める中、佐助が振り下ろす一撃はかわせないとの判断したのか男は両腕で木刀を受け止めた。
香奈や瑞穂の悲鳴と混ざり、固い骨を打つ鈍い音が辺りに響き渡ったが――男は痛がる素振りも怯む気配も見せないまま、雄たけびのような奇声を発するとまたも佐助を無視したまま夢姫へ虚ろな眼を向けていた。
「……ちょっと、ここまで来ると! キモいんですけど!!?」
薄明かりにかざされた男の腕は佐助の一撃をしっかりと記憶し、赤い痣を浮かび上がらせる。ゆっくり歩み出す男から身を守るように夢姫が杖を構えていると、彼は虚ろで生気のない面持ちのまま両手で杖を掴み引っ張り始めたのだった。
「きゃー! きゃー!! なに!? これ取ろうっての!?」
負傷しているとは言え元は健康的であったはずの体格の良い若い男――
細身で筋肉を付けている訳でもない夢姫が力で勝てる道理はなく、杖の奪い合いは男の有利となる。
――だが、男が両手を使い全力を夢姫に向けている今、それはすなわち“隙しかない”と言うことでもあった。
和輝は赤に染まった瞳を細めると刀を構え腰を深く落とした。
「水瀬! ちょっとそのまま動くなよ!」
「おっけーはよ助け……ってちょっ……!?」
考えを咄嗟に理解した様子の佐助は、和輝と反対側から杖を奪い合う二人の間に向かうと、木刀を貫き、杖を突き飛ばす。
引き合いの攻防を続けていた二人にとって横からの衝撃は到底耐えうるものではなく――男は呆気なく杖を手放し、それよりも必死に杖を握っていた夢姫はその華奢な体ごと地面に投げ出された。
「あたたた! ちょっと佐助! あんた何するん」
「灯之崎」
「ああ!」
「二人揃って無視か!」
夢姫が体勢を整えなおす傍ら、和輝がその前に庇い立つと男もまた体勢を整えなおし間合いを取ろうと後ずさる。
「女オンナうるさいんだよ! この軟派野郎!」
だが、最早男に逃げ道はなかった。
既に後ろに回り込んでいた佐助が退路を塞ぐ中――和輝は光の刃を縦に一閃させ、脳天から一直線につきぬけた光は、彼の体を包んでいた“靄”と共に薄明かりの街灯へと溶けていった。




