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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
11.物云ひ可咲き奴にてぞ有ければ
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11-9

 

「やっぱり、妙だと思いませんか?」


 ――放課後。自席で帰り支度をしていた佐助の横で、美咲は意を決したように呟く。


「お主はどこぞの特命係にでもなったつもりか」

「言ってみたかったんです」

「…………で? 何が妙なんだ」


 その軽妙な口ぶりがいちいち気にさわるようで佐助は眉間のしわを戻せないまま頬杖を吐く。

 不機嫌を隠さない佐助を意にも介さず、美咲は腕を組み言葉をつづけた。


「金剛寺君の事ですよ~。俺、昼休みに例の秘書の弟さんにも連絡して聞いてみたんですけど、やはり弟さんも“明日も帰りは宜しくお願いします”って、学校に来る前提で話してたみたいなんですよ? それなのに……心配じゃありませんか?」

「いや待て。その前にお主は何故さらっと連絡先を交換している。秘書の弟とやらは初対面であろう」

「あれ? 言いませんでしたっけ? ですから――」

「ばか佐助ー! ……あれ、和輝居ないじゃん」


 勢いよく開け放される扉の音に驚き、美咲は先に紡ぎかけた言葉を飲みこむ。

 ガラガラと転がるような低い音に混ざって投げ込まれたのは甲高い声で、教室に残っていた数名の生徒達の視線は入り口で仁王立ちしているツーテールヘアーの少女――夢姫に注がれていた。


「お友達が呼んでますよ、久世君」

「知らぬ。僕には見えぬ」

「ちょっと! なんで無視するのよ」

「近寄ってくるな」


 ――既に新入生の間でもこの“問題児”の事は知れ渡っているらしく、問題児二人の邂逅を目の当たりにした生徒たちは遠巻きに眺め、距離を取りながら逃げるように教室を後にして行く。

 冷ややかな視線を気にも留めないまま、いつもの低レベルな言い争いに発展していた夢姫と佐助をよそに、美咲は“自分も問題児とセットにされてないか”と注がれる視線にちりちりと身を焼かれるような気分になっていった。


「あの、水瀬先輩は何しに来たんですか? 桔子さ……じゃなくて、風見先輩は? 一緒じゃないんですか?」


 美咲は元来喧嘩の仲裁をしたがるような正義感のある性質では無い。

 だが、このまま放っておくデメリットの方がよほど深刻であると察し、間に入る。

 第三者の介入により、ようやく我に返ったのか夢姫は若干の不満を表情に残しつつも美咲に向き直ると腕を細腰に当てていた。


「……きいちゃんは、なんか職員室に用事があるとかで後で合流するの。で、その間ヒマだから和輝を捕まえて遊ぼうって思ったら、もう教室からいなくなってるし……」

「ああ、それでここにいるだろうと?」

「そう! 折角、今日は楽しい事がありそうな予感がしてたのに……ばか佐助が隠したの?」

「灯之崎はここに来ていないし。そもそも僕は貴様より成績は良い」

「はあ!? よく言うわよ、いっちー達せんせーも、あんたには頭抱えてるって言ってたわよ!?」

「貴様のような馬鹿女と一緒にするな。僕は成績に関しては教員共に口を出されることは無い。僕の態度が気に入らないだけだろう?」


 “いや、そこまで客観的に見えているなら態度も直そうよ”――

 ――喉まで出かかったその言葉を飲みこみ直すと、美咲は再び険悪になり始める二人を引き離す。

 教室内には自分たち三人以外誰も残っておらず、夢姫と佐助の高い声が響き渡っていた。


「まあ、灯之崎先輩も他の友達と帰る事もあるでしょ……う?」


 問題児二人がようやく口を閉じた瞬間、その一瞬の静寂の中で美咲はふとある事に気が付いた。


「……なんか、外が騒がしくないですか?」


 先程まで夢姫達の声により全く気にも留めなかったことだが……運動部の生徒達の掛け声とは明らかに違う、どよめく声が校庭を騒がせているようだ。


「事件!? 事件なの?」

「どうせ迷い犬でも入り込んだのではないか?」


 異変の予感に心をときめかせた夢姫が窓辺へと駆け出すと、追うように佐助もため息を落とす。


「……え、ガチ事件じゃないですかこれ……!?」


 二人の背中越しに見える校庭には可愛らしい野良犬の姿などはなく、そこには見覚えのない派手なジャージ姿の男たち。その手にはバットや角材を握る者もいる。

 美咲は声をあげると、息を飲んだのだった。



 ――遡る事数十分前。


 終礼と同時に夢姫が教室を駆け出して行き、それを続木が追いかける。

 嵐のような少女が出ていった後の静かな教室で、和輝は夢姫の姿が遠ざかる事を確認すると速やかに荷物をまとめ校舎を後にした。


「――風見情報によると、このコンビニに……」


 來葉堂がある商店街とは逆の駅を挟んだ向こう側、あまり歩きなれない裏通りは夜間営業の飲み屋が多く軒を連ねる。

 まだ日も傾かない時間とあってか、どこか寂れた印象を与える通りの片隅にあるコンビニに辿りついた和輝は辺りを見渡した。


「……本当にいた」


 店内に目をやると、大きな窓沿いに並ぶ雑誌コーナーの片隅に赤い頭を見つけ声をあげる。

 ――和輝が静かに店内に足を運び入ると、その姿に気が付いたのか赤髪の少年、岩崎は小さく舌打ちをしたのだった。


「お前、昼の……なんでここにいるって分かったんだよ、ストーカーかよきめえ」

「俺がストーカーって言うか風見が……いや良いや」


 体育館裏の他にも行きそうな場所をいくつか教えてもらっていた和輝は、幸先良く見つけてしまった岩崎の元へ歩み寄ると、目を逸らす。

 一方の岩崎は苛立った様子で鋭く和輝を睨みつけていたが……レジに立ちこちらの様子を伺い見ている店員を前に波を立てたくなかったのだろうか、ため息を落とすと手にしていた雑誌を本棚に戻した。


「買わないの? その本」

「買う奴がわざわざ立ち読みするかよ」

「……やっぱり金が無いから?」

「うるせえな」


 ろくに和輝の顔を見ないまま、岩崎は押しのけるように横をすり抜けると自動ドアに誘われてコンビニの外へ向かう。


「あ、待てってば」


 何も買わずに冷やかしのような真似をしてしまう事を申し訳なく思いつつも、見失ってしまってはまた振り出しに戻ると察した和輝は慌てて追いかけると店を飛び出した。



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