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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
11.物云ひ可咲き奴にてぞ有ければ
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11-8

 

 一方、同じ頃――一年の教室で朝礼の開始を待っていた佐助は、ふと前の席……美咲からの視線を感じ、睨むように視線を返した。


「や、やだなあ。そんな毎朝睨まないで下さいよう。……それより、昨日金剛寺君を送ったじゃないですかあ。聞いて驚いて下さいよ? 帰りに秘書の弟さん、って言う人とお会いしたんですけど何とその人――」

「こら吾妻君、前を向きなさい。……ホームルーム始めるわよ」

「あいて!」


 美咲の後ろ頭を名簿の背表紙で軽く叩くと、女教師はため息を落とし教壇に立つ。

 担任教師の振舞いはいつも通り、他の生徒達もそれは同じ事である。

 ――だが、一つだけいつもと違う事があった。


「……おい。後ろの奴は遅刻か?」

「久世君、“先生”と呼びなさいって何度も言っているでしょう……はあ。金剛寺君の事? 彼なら今日はお休みしますって連絡があったわよ」

「休み?」


 そう、佐助の後ろの席である金嗣の姿が見当たらなかったのだ。

 元々口数も少なく、美咲以外の生徒と話をしている事も殆どない内向的で存在感の薄い少年と言えど、その姿が見えないとなると気がかりなようである。

 佐助が怪訝そうに教師を睨みつけるのを美咲は慌てて制止したのだった。


「――んー、でも確かに妙ですねえ。昨日は弟さんとも打ち解けて、“今日から安心して通えそう”って元気になってましたけど」



 ホームルームは滞りなく終わり、担任の女教師は教室を後にする。

 次の授業は国語、担当の教師が来るまでの僅かな余暇である。授業の準備もそこそこに美咲は椅子に座りなおして後ろを振り向くと、推理中の高校生探偵の如く腕を組んだ。


「……昨日初対面だったのではなかったか? そんな簡単に打ち解けるものか?」

「ええ。だって弟さん俺たちも知っての通り――」

「こら吾妻! 前を向きなさい前を。授業始めるぞー」

「あいた。……もー、いっちー先生まで」

「続木先生と呼べ。……ああもうどこのクラスにもこういう奴がいる……」


 言いかけた美咲の後頭部に向けて教科書の背表紙がまっすぐに振り落とされる。

 ――国語担当の教員、続木は馴染み始めてしまったあだ名に頭を抱えたまま教壇にあがっていったのだった。



―――



「――風見情報によると、大体倉庫の裏に……」


 ――昼休み。この日和輝は終礼と同時に教室を飛び出し裏庭へと足を運んでいた。

 中休みに連絡をしておいた桔子の協力により、この“場所”の情報と、確実に邪魔になるであろう夢姫を捕まえておいてもらっていた為、ここまでは何の滞りも無く事が運べているようである。


「……我ながら、育児でもやってるのかって錯覚するよ。水瀬は宇宙人の子供かなんかだ」


 恐らく一緒に昼を共にしているであろう詠巳と桔子がうまい事ごまかしていてくれているだろうが……心の奥に何故か湧きあがる“任せきりにしてしまう罪悪感”の正体に苦笑いすると、和輝はもらった情報を頼りに体育館の横にある倉庫に辿りついたのだった。


「あ、本当にいた」

「……ああ? てめえ、昨日のチビサルの仲間じゃねえか」

「チビサ……ああ、佐助ね」


 夢姫に内緒で和輝が訪れた場所――それは、岩崎が良く日中を過ごしているという場所であった。


「昨日の続きでもやろうっての? 良いぜ、こっちは邪魔されてむしゃくしゃしてんだ」

「いや、そうじゃない……俺は喧嘩するつもりはない」


 ――そう、和輝は兎にも角にも、まずは岩崎の話を聞こうと考えたのだ。

 だが、それは美川に頼まれたからでもコロッケに釣られた訳でもない。むしろコロッケには興味無いとも言えよう。それは揺るぎない事実であった。

 だが、佐助やその級友も関わっている事とあり、和輝の中で放っておくことのできない事となっていたのだ。


 大きな体育館の日陰に入ってしまっている倉庫の辺りは日中でも薄暗く、ひんやりとした苔の匂いが微かに漂う。

 殺気立った鋭い目で睨みつけると、岩崎は手にしていたスマホをポケットにしまい込んだ。


「じゃあ、お前が金恵んでくれんの? 持ってそうな顔してるもんな」

「……持ってない、って言うか俺には使う権利が無いって言うか。……なあ、昨日もそれ言ってたけど、なんでお金欲しいの?」

「はあ? なんでお前にそんな事情とか言わなきゃいけない訳? 言ったらくれんのかよ」


 いわゆる“ガンを飛ばす”と表現できる挑発的な眼光を受け取っても尚、和輝は出来るだけ乱暴な言葉を吐かないようにと言葉を探す。

 インパクトの強い顔面の兄や理性を失った“鬼”と対峙してきた彼だからこそ怯まずに向き合えているのだろうが、これが喧嘩を嫌う優しい少年であれば――

 ――金嗣が味わったであろう恐怖に思いをはせると、和輝は息を吐いた。


「って言うか、理由の有無に関わらずお金を奪ったら駄目に決まってるだろう」

「奪ってねえよ。睨んだら金ヅル君の方から差しだしてくれたんだよ」

「それを“奪う”って言うんだよ」


 何か金入りの事情があって、仕方なく恐喝じみた行為に及んでいるのではないか……

 そんなドラマのような展開にでもなってくれれば、平穏に解決の糸口も見いだせるのではなかろうかと考えていた和輝だが、詰めが甘かったようだ。


「……あーそうだ。あいつ、お金持ちのボンボンらしいじゃん。“沢山持ってるお友達”は“持ってないお友達”に分けてあげるのが仲良しの第一歩だと思うけどなあ?」

「友達……?」

「ああ、そうそう。お前だって一年のチビサルが友達なんだろ? 俺と金ヅル君もそうな訳。ほら友達にも色んな形があるし、年齢も関係ないじゃん」

「そんな事……」

「あんだよ。それとも何? 金ヅル君から聞いた訳? “お金取られた、助けて下さい”って?」

「……そうじゃないけど」

「じゃあ良いじゃん。あいつも人助けしたかったんだろ」


 岩崎は半ば一方的な理論を押しつけると“それ以上話すこともない”と言わんばかりに背を向けた。


「…………友達、確かに助け合うべきだけど、あんたが言っているのは違うと思う。一方的に助けてもらうのは本当の友達じゃない。困ってなさそうだから、とか言って相手を見ようともしないのは、友達じゃないと思う」

「ちっ……うるせえな。じゃあ“友達じゃない”で良いよ。はいはい今度返すわ」

「あ、ちょ……」


 咄嗟に和輝が言い返すが……面倒そうに何回も相槌を打つと岩崎は舌打ちをし、校外へと立ち去っていったのだった。



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