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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
11.物云ひ可咲き奴にてぞ有ければ
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11-7

 

「ほへー! うちの学校にもテンプレヤンキーが生息していたのね! ねえねえきいちゃん、その人って格好良い?」


 確たる信念を持つ名探偵の如く静かでありつつも凛とした声を紡いだ桔子を遮ったのは甲高くパワフルな声――夢姫であった。


「格好良いかどうかは人それぞれの判断でしょうけど、少なくとも恵さんは号泣するルックスでしょうね」

「お母さんが怖がる系かあ」


 佐助と夢姫、四天王のうち二人があっさり揃ってしまった状況に和輝は思わず一笑に伏す。

 “飼いならしている”と称していた美川の言い分もあながち間違ってはいないのかもしれない、と和輝が一人納得しかけていた様子に気付いた様子で夢姫はまだ数段残していた階段を飛び降りた。


 居残りで勉強をしていたであろうにも関わらず元気が有り余ったままの夢姫を無視して、言いかけたまま置き去りとなっていた桔子の方を向き直ると和輝はため息を落としたのだった。


「……流石の情報通っぷりで」

「褒めて頂いたと解釈しときますね。……いやでも耳に入ってくるんですよ。夢姫や犬飼さんと関わりがあるから、特に」

「どういう事?」

「岩崎さん……さっき言いかけていた話の、問題児四天王の最後の一人なんです」

「あー……」


 話についていけていない夢姫を無視して桔子はそう言葉をつづける。

 ――そう、先程の騒動でうやむやになってしまっていた“問題児四天王の四人目”の話である。

 桔子の言葉を受け取った和輝はさほど驚くことも無かった。


 ほぼ見た目だけでラベリングされている詠巳もいるのだ。あの派手派手しい外見、かつ素行も佐助並の悪さ……むしろ四天王に入っていて然るべきだと思ったのだ。


 一方、四天王と言う単語自体初耳である佐助は置き去りのままながら視線の居心地の悪さから大方の察しが付いたらしい。腕を組んだしかめっ面で和輝達を睨む。


 ……だが。


「四天王? 校内でもたった四人しかいないってこと?」

「ああ、夢姫には話が難しかった? 四天王って言うのは」

「分かりますけどー! だから、悪いやつ四人組ってことでしょ?」

「僕は悪くない!」

「佐助は黙ってて。……つまり、あたしは選ばれしヴィランってことよね?」

「は……」

「つまりあたしカッコイイ! いやー美少女戦士って言うのも悪くないけど、世紀の大悪党、その正体は美少女! ってのも全然ありね!」

「……」


 夢姫にとってはむしろ良い話のネタとなってしまったらしく、拳法家のようなポーズを決めるとその大きな瞳を爛々(ランラン)と輝かせたのだった。




 ――翌日


「和輝おっは……」

「灯之崎和輝君! くわしく話を聞かせてもらおうか!?」


 いつも通りに登校し、教室の扉を開けた和輝は目の前に迫る二つの人影に圧倒されて後ずさる。


 ……正確には“いつもの調子で駆け寄ってくる夢姫”を蹴散らすように美川が突っ込んできた、と言うのが正しいだろうか。

 珍しく他者に勢いで押し負けた夢姫が言葉を失う隣で美川はずれた眼鏡を押し上げた。


「くわしくって何が?」

「何がじゃないよ! 昨日、問題児四天王のうち二人が揉め事を起こしたらしいじゃないか!」

「ああ……」


 ズバリ、と指を指すと美川はまたも眼鏡を指で押し上げる。

 ――彼が言っている事、それは恐らく佐助と岩崎と言う不良が揉めた昨日の一件であろうと察しはついていたが、和輝は咄嗟に良い言葉が見つけ出せずに言い淀む。

 自身も最初から全てを見ていた訳ではない。人づてに聞いた話をどこからまとめたらいいのやら……元来、機転の利いた言葉の応酬が得意ではない和輝が取り繕うように口を開くと、それを封殺するかのように美川はもう一度眼鏡を指で押し上げていた。


「まったく、これだから不良は困るんだよね! ただ人を傷つける事を楽しみとしてるんだもんね! そもそも、うちの学校はこの辺りの教育施設の中でも品位ある学び舎だというのに。勉強する気が無いんだったら、他の学校にでも行ってもらいたいものだよ」


 特定の人物を指しているかのような口ぶりでありながら、美川の分厚い眼鏡は夢姫の姿をまっすぐに捉えていた。


「あたし?! あんたね、その言い方は失礼じゃ――」

「水瀬はただ馬鹿なだけで、確かに勉強は出来ないし集中力も犬以下だろうけど、人を傷つけたりはしないだろ。そうやって、ひとまとめにするのは良くない」

「……さりげなくディスるよねー」


 苛立ちを隠せない夢姫が飛びかかろうとするのを制すると和輝は美川に対峙する。

 美川は男子の平均身長より少し低い事もあり、和輝は見下ろすような形と相成った。


「べべ、別に水瀬夢姫さんが不良とは言わないけど!!? たたただ、久世佐助君と岩崎弘海君はどう見ても不良じゃないか! 人を傷つけて楽しんでいるのは間違いない!」

「佐助はそう言う奴じゃない。昨日だってやっとできた希少な友人を守ろうとしてぶつかっただけだし……言葉の選び方と目付きが悪いだけだよ」


 平均的な高校生男子よりも腕が細い――いわゆる文科系生徒と言える外見の美川にとって、いくら声色が穏やかであると言えど背の高い和輝の姿は敵対したくないものなのだろう。

 借りてきた猫のように背中を丸めてしきりに眼鏡を押し上げていた美川は、ふと夢姫と目が合い、何かを思い出したかのように和輝と向き合った。


「……そ、そう言う裏事情がある、なんて普通一般の生徒は思う訳ないじゃないか。人は外見で判断するんだからね。目付きは仕方がないとしても言葉の選び方が悪いなら直させるのが君の仕事だよ!」

「俺、そう言う面倒な仕事まで任されてたの……?」

「コロッケ山盛り食べたいんだろう!? とにかく、岩崎弘海君共々何とかしてよね!」

「いやコロッケはいらな……待ってそっちも俺の仕事!?」

「むしろ今一番手を焼いているのがその二人だからね! 当然だよね!」


 ――チャイムが和輝の声を遮る。間もなく朝礼の時間となるようだ。

 景気良く眼鏡を指で押し上げた美川はきっちりとした角度で踵を返し、自身の席へ向かっていったのだった。



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