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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
11.物云ひ可咲き奴にてぞ有ければ
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11-5

 

「何を喧嘩している! ……事情はこっちで聞くから、一旦離れなさい」

「ちっ……続木か」

「こら離せ! あっちのピエロ頭が悪いんだ! 僕じゃない!」


 ――先程の女生徒が呼びに行った職員室からの教師が数名駆け付け、二階へと続く階段の踊り場からは補習授業中であった続木が声を荒げる。


 体格の良い体育教師ら数名掛かりで佐助と男子生徒、その双方を羽交い締めにして捕え引き離すと、それぞれ職員室と教育指導室へ連れられて行った。


 補習が終わったのか、途中で抜けてきたのかは定かではないが……どうやら夢姫が続木についてきた様子は無い。

 桔子がなんらかの形で食い止めているのだろうと察した和輝はその健闘を称えていた。



「……あーあ。久世君つれていかれちゃいましたね~」


 不安げに様子を伺っていた女生徒達も、事態の収束を見届けると各々の帰路へ発って行く。

 グラウンドで練習に勤しむ運動部活生の掛け声だけが開け放された出入り口から耳に届けられる中、不意に和輝の背中を軽やかな声が叩いた。


「吾妻……見てたなら止めろよ」

「いやいやいや。俺ってばこう見えてごく普通のか弱い男子ですよ? 怖くて怖くて下駄箱の隅で怯えてるのが精一杯で」

「……復讐の為にナイフ振り回してた奴の台詞とは思えないな。……それで? 佐助の奴、あの如何にも不良って感じの人と何を揉めたの?」

「ああ……」


 口から生まれた、と言う表現は彼の為に用意されたのかもしれない。

 そんな合点と共に冷ややかな視線を手向けると、片目が隠れた少年は長い前髪を指先で弄びながら目を逸らす。


「ご、ごめ、ごめんなさい! ……く、久世、久世君は僕の、僕のせいで!!」

「わ!?」


 言い淀んだ美咲の代わりと言わんばかりに割り入り、目の前に飛び出してきた少年は和輝に飛びつくと、その目に大粒の涙を浮かべたまま声を震わせたのだった。


「――ご、ごめんなさい……あの、僕、金剛寺、金嗣って言います」

「金嗣君は俺や久世君と同じクラスの子なんです。……俺から話して大丈夫です?」

「……ううん、僕、僕から……」



 ―――



 ――さかのぼる事半日前。一年の教室内では授業前のわずかな休憩時間、前後に並んだ級友を交互に睨むと、佐助は不服そうにため息を落とした。


「で、頼みとはなんだ」

「う、うん……あの、その……じ、実は、今日から、一週間くらい……ぼ、僕と一緒に帰って欲しいんだ」

「…………は?」


 金嗣の顔面は緊張に青ざめ、緊迫した様相である。

 ……だが、それとは裏腹に彼のひねり出した言葉、要求は驚くほど単純なもの。

 呆気に取られた佐助は前の席で同様に話を聞いていた美咲の方を振り返り、意思疎通を試みていた。


「ごご、ごめん! 迷惑だよね!? ちゃ、ちゃんと報酬なら用意するから」

「報酬!? マジですかじゃあ俺一人でも全然どこでもお供いたしますよう!」

「金に釣られるな吾妻! ……いや、金など要らぬが。何故、わざわざ改まってそのような願いを?」


 冗談のつもりではなく、わりと本気で狙っていたのかもしれない……背後で聞こえる美咲の舌打ちを無視した佐助は首を傾げる。


「そ、その……僕、いつもはお父さんの会社の秘書の人に送迎してもらっているんだけど、今日から一週間、その人がお休みで。……秘書さんは気を使って大学生の弟さんを迎えに手配しようか、って言ってくれたんだけど、僕、その弟さんと会った事無いし、二人きりだと、緊張して……」

「ああ、それで俺たちも一緒なら多少は緊張が和らぐかもってことですかね?」

「う、うん……ごめんね、その、迷惑かとは思うけど……」


 気を取り直した美咲が声を投げると、金嗣は一度だけ深く頷く。


 高校生にもなって送迎が必須かのような口ぶりにはいささか違和感を覚えたが――

 ――佐助に対してだけでは無く、温和な印象を与える美咲を前にしても声を震わせる金嗣に裏があるとは到底考えられない。

 またこのような人見知りの激しい少年が見ず知らずの年上男性と二人きりで平気でいられるとも思えなかった。


「……僕も途中まで同行してやらんことも無い」


 佐助がため息と共に呟くと、その小さな声に金嗣は大きく反応しもう一度頭を下げたのだった。



「――ごめんね……本当に」

「良いですよ別に。どうせ俺たちは予定なかったですから。ねえ久世君」

「“たち”って言うな」

「予定あったんですか?」

「……ないけど」


 放課後になると、三人はいそいそと帰り支度をすませ階段を下っていく。

 佐助は勿論、美咲や金嗣も部活に入っていない為、帰宅時間の融通は合わせ易かった。

 申し訳なさそうに頭を下げっぱなしの金嗣を慮った美咲が軽口を交えると冗談の通じない佐助はその頭を叩いた。


「……あっ」


 階段を降り、下駄箱に向かっていた最中――一番前を歩いていた金嗣は小さく声をあげると慌てたようにすぐ近くの男子トイレに駆け込んだ。

 “我慢でもしていたのか”とさほど心配もせずに想像をしていた佐助達がトイレの前で金嗣の戻りを待とうとしていたその時――


「おい、お前ら一年坊だろ? ……今こっちに“金ヅルくん”来なかったか?」


 ――派手な赤髪の男子生徒が高圧的な声で二人を呼びとめたのだった。


「金ヅル君? 誰ですかそれ?」

「んだよ知らねえのかよ……ちっ。今日もお恵みもらおうと思ったのによ」


 赤に染めた髪の毛に重厚なピアス、体を動かす度に金属がこすれ合う派手なアクセサリーに眉毛の無い鋭い目つき――

 一般の生徒であれば震えあがりそうな強面の男子生徒であったが、美咲もまた色々と見てきているがゆえに動じることは無い。

 神経を逆なでしないように気を配りつつもそう尋ねると、赤髪の男子生徒は舌打ちをして美咲の肩を片手で押しのけた。


「もしかして……」


 ――一向に戻る気配のない金嗣を思い出した美咲は遂にある推論を脳裏に過らせる。

 この素行不良そうな生徒は金嗣の事を探しているのではないだろうか? と。


 そう考えると合点がいった。

 行き帰りに送迎が必要な理由、お金を払おうとしてまで校内でも評判の狂犬・佐助と一緒に帰りたがったその理由がこれだったのではないか?

 ――トイレにこもったまま出てこようとしない金嗣の姿が答えを証明しているような気がした。



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