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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
11.物云ひ可咲き奴にてぞ有ければ
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11-4

 

「――それで、風紀委員みたいな事をやるって話になっちゃったんですね」


 放課後。

 続木の管理の元で補修授業を受けていた夢姫を廊下で待っていた桔子は納得したように呟くと声を潜めて笑っている。

 まるで他人事のように軽やかに笑う桔子の隣で、“佐助と仲良ければ風見もこちら側なのに”と喉まで出かかった言葉を飲みこんだ和輝は恨めしそうにため息を返した。


「問題児四天王……確か、今年度からその呼び方が追加されて目をつけられているんですよね」

「そうなんだ」

「ええ。今までは、現二年生の三人だけでしたから。そこに佐助さんって言う目立つ問題児が入ってきたから……それで遂に四天王に格上げになったんですよ」

「ああ……」


 相変わらずの情報通ぶりだ。

 饒舌に語る少女の隣で関心しきっていた和輝はふと、ある事に気が付き首を傾げる。


「……四天王ってさ。水瀬、犬飼、佐助……あと一人って誰?」


 美川は“分かっている”という前提で説明していた上に、あの時の和輝はやたらずれ落ちる眼鏡とコロッケに集中力を削がれていたので、軽く聞き流していたが……

 良く思い返してみると、後一人の名前を聞いていなかったのだ。


 夢姫や佐助を基準にしてしまえば、他の生徒のささやかな反抗など可愛いものであり、逆に言えば他に頭一つ飛び出て目立つ素行不良の生徒が思い浮かばないのが本音であった。


「ああ。あと一人? 彼も和輝さんと同じクラスなので、多分ご存じだと思いますけど――」


 不意に言いかけた桔子の唇が閉ざされ、辺りに束の間の静寂が広がる。

 静寂の中、微かに声が聞こえる。声の主は長い廊下の中に姿は見えない、だが確かに言い争うような強い声であった。


「喧嘩、でしょうか……? まさか、また“鬼”が?」

「“ま”の気配は無いみたいだけど……ちょっと見てくる」

「待って下さい。私も行きます!」

「いや風見はここに残って」

「わ、私も戦えます」

「そうじゃなくて……風見までいなくなった状況で水瀬が出てきたら絶対喜んで飛んでくるから。ちょっとそれとなく抑えておいてほしい」

「……あ、そっち」


 桔子が納得したように息を吐く一方で、教室の中からは続木の諌めるような声が二人の耳に届いていた。



 ―――



 ――声が聞こえている方角に向かい歩き始めた和輝は、その声の一部が聞き覚えのある人物のもののように思え、耳を澄ます。

 階下、下駄箱の辺りで喧嘩でもあっているのだろうか。冷たい階段を下りるにつれてその予感は確信へと変わっていった。


「佐助、何やってんの?」


 良く見なれた後ろ姿――切り揃えられた黒髪を高い位置で一つに束ねた男子生徒に和輝が呆れたように力の無い声を落とすと、振り向いた佐助は苛立ちをそのまま跳ね返すように鋭く睨み返す。


「……灯之崎か。止めるな、僕はこいつを見逃すことなど出来ぬ!」


 ――周囲には騒ぎを聞きつけたのか、様子を心配そうに伺っている女生徒達が複数名身を寄せ合い、佐助ともう一人……見なれない派手な髪色の男子生徒に視線を注いでいた。


 佐助となんらかのもめ事を起こしたのだろうか。オレンジがかった赤髪の男子生徒の耳には見ている側の耳が痛くなりそうな重厚なピアスがぶら下がり、引きしまった腕には銀のアクセサリーが光を跳ね返している。


「……あ? お前もこのチビの仲間か」


 和輝の存在に気付いた様子で眼光鋭く睨みつけた少年は眉毛をそりあげ、前髪の一部には真っ赤なメッシュを散らせた派手で仰々しい出で立ち。

 だが、派手な装いの旧友――故郷の幼馴染・燈也(トウヤ)や、生ける妖怪とまで称される自身の兄・白塗りのクララと過ごす日々によって目がすっかり慣れてしまっていた和輝は周囲の生徒とは違い怯む事も無かった。


「仲間って言うか、後輩って言うか……友達だけど。何かあったんですか?」

「友達か。だったら言いたい事分かるよな?」

「……ええー……」


 和輝にとって、本日二回目の“ここまで言えばもう分かるよね”である。

 赤髪の派手男子生徒や風紀委員・美川にとっての和輝は“一を伝えたら十の事がらを理解できる”と言う共通認識でもあるのだろうか……。

 和輝は謎の前提を振り払うかのように首を横に振ると、いがみ合う二人の顔を見比べた。


「ちっ……分かんねえなら引っ込んでろよ! おらチビ、さっさとてめえが隠した“金ヅルくん”を出せって言ってんだよ」

「だから、出せぬと何度も言っておろうが!」

「じゃあお前が“金ヅルくん”にとって代わるか? それでも良いぜ、二号様大歓迎だ」


 状況も呑み込めないままの和輝を置き去りに、二人は言葉を荒げている。

 ――このままでは佐助が背負っている木刀に手を掛けるかもしれない。一部の女生徒はそんな不穏な空気を察したのだろう。

 気を昂らせた二人に気付かれないように音を潜めて職員室にかけていく姿が和輝の視界の端に消えていった。


「とって代わるつもりも無い。ここで貴様ら悪党どもを打ち滅ぼせば終わるのだからな!」

「悪党を打ち滅ぼす、か。お前、自分がどれだけ身の程知らずか分かってねえな? お前らたった()()でやれるほどこっちはザコじゃねえんだよ!」


 “良く分からないままなのに()()()()()()にカウントされた気がする”

 ――和輝は相も変わらず状況も分からないまま。二人が何を巡って争っているのかも知らないままに自分までも駆り出されかけている現状から逃げたい心情に駆られていた。



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