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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
11.物云ひ可咲き奴にてぞ有ければ
113/287

11-3

 

「――で、話って何?」


 結局、美川と同じ日替わり定食を頼んだ和輝はお盆に堂々と君臨する狐色の山から目を逸らす。

 食事のひと時を楽しんでいる生徒達の隙間を縫うようにテーブル席を確保すると、美川はお盆を置いて眼鏡を押し上げる。


「……大体の察しはついているだろう? この学校を牛耳っている“問題児四天王”の事さ」

「問題児四天王……」


 真面目が服をまとい分厚いメガネをかけているかのような、まるでジョークの一つも言いそうにない同級生の口から紡がれたどこかのゲームのような単語に戸惑った和輝が聞き返す。すると美川は頷き、そして眼鏡を押し上げた。


「問題児四天王……その名の通り、水瀬夢姫を筆頭に学園の風紀を著しく乱す不良集団の事さ。我々風紀委員は勿論ながら教師も頭を悩ませている」

「はあ」

「まず、水瀬 夢姫」


 ――同じクラスだし説明の必要も無いだろうけど。

 校則違反の制服、授業中の態度は勿論ながら……彼女は学園内に水鉄砲やけん玉、虫の模型や音の出るモデルガンなんかを持ち込み、“サプライズ”と言う名のテロを実行する。さらに学園祭の時には他高の不良とも揉めて騒ぎに発展した事も記憶に新しい……まさに危険因子だ。


「続いて犬飼 詠巳」


 ――最近は他の問題児に比べると幾分か身を潜めている印象だが、彼女もまた校則違反の制服改造、むしろあの黒いローブ意味が分からない。授業は比較的真面目に取り組んでいるらしく成績は良いようだけど、昨年の飛び降り自殺騒ぎの一件があったのだから彼女もまた危険因子と言えよう。


「そして新規加入の一年、久世 佐助」


 ――彼は一年生、つまり入ってきたばかりの新入生と言える訳だけど……彼には先輩や教師を敬うという基本中の基本の礼儀が無い。まるで小馬鹿にしたような態度を常とし……それだけでは無く、彼は常に木刀を携帯しているという。まさに狂犬、目に入る全てに噛みつく危険因子だ。


「……もう、ここまで言えば分かるだろう?」


 狐色の衣を箸で割ると、美川は眼鏡を押し上げた。

 夢姫、そして詠巳が校則違反の外見上問題児として扱われているであろうということは桔子や続木の話で察しのついていた和輝であったが、そこに佐助も同列でカウントされているとまでは思っておらず……気難しい少年の怒り狂う姿を想像して一笑に伏した。

 ただ、人選には何の違和感も感じない訳だが、話の全容を掴むにはまだ至っていない。

 言葉の意味は理解できても真意が掴めないままである和輝が訝しげに眉をひそめていると、それに業を煮やしたように美川は眼鏡を押し上げたのだった。


「あくまでとぼけるか。だけど、どう隠そうともこの風紀委員副委員長美川健二の目はごまかせない」

「いや、だから……」

「灯之崎和輝君、君はこの学園で唯一……屈強な教師陣ですら手に負えない問題児四天王を懐柔している、いわば四天王を従える存在だと言う紛れもない事実は隠せないんだ!」

「…………はい?」

「問題児四天王の頂点、灯之崎和輝君」

「いや待て途中からずっとおかしい」


 中までしっかりと火の通ったコロッケのジャガイモの風味とほくほくとした食感が口の中いっぱいに広がっていく。

 心まで優しくなれそうな素朴な味わいとは裏腹に、美川の口をついて飛び出した言葉は訂正する事さえ疲れてしまいそうなほどの誤解に満ちており、和輝は水と共にコロッケを流し込んでいた。


「水瀬夢姫との蜜月(ミツゲツ)ぶりはもとより」

「いや」

「犬飼詠巳……彼女は別クラスながらも水瀬夢姫とも親しい。つまり君とも親しい」

「だから……」

「そして久世佐助は君以外とまともに会話が成立しているところを見たことが無いほど親しい!」

「……確かに佐助には友達いないだろうけど!」


 確かに、親しくないと言えばうそになる。

 道具や“ま”の存在により関わりを持った関係性とは言え、傍から見れば普通の友達と受け取られておかしくない。


 ……だが“それすなわち四天王の頂点”と言うのは詭弁(キベン)であろう。

 和輝は反論を試みようと口を開いたが、美川の話はまだ終わっていなかったらしく大げさ気味に眼鏡を押し上げるとさほど特徴も無い顔の眉間にしわを寄せていた。


「最初は君も問題児の一人であろうと考えて、実はひそかにマークしていたんだ。だけど、君は成績も平均以上、授業態度も良好で校則違反の類も無い。それに四天王だけでは無く一般の優良生徒ともそれなりに親交がある……つまり、君自身は白。と、言うことは君自身が風紀を乱すのではなく、四天王を影で操って学園の平和を脅かしているのではないか、と言う結論に至った訳だ」

「最後大分ぶっ飛んだな」


 ――和輝自身、塩対応やゼロ距離に慣れきってしまっていたがゆえにすっかり感覚が麻痺していたが……夢姫はもとより、佐助や詠巳も十分に学園の風紀を乱す風変りな人物である。

 さくさくと小気味よい音を立ててコロッケを咀嚼している美川の眼鏡は口が動くたびにずれ落ち、そして指先で押し上げる所作を繰り返していた。


「……で、つまり俺もその四天王とやらと共々、処罰に乗り出されたってわけ?」


 “眼鏡、もうちょっと良い品に変えたらいいのに”

 ――心の奥に生まれていた雑念に似たツッコミを噛み殺しながら和輝が最後のコロッケに箸を入れていると、美川は一笑に伏して眼鏡を押し上げた。


「いや。だから、君自身は白だとさっきも言っただろう? ……むしろ君には“こちら側”に協力をしたいと思って声をかけたんだ」

「こちら側……ってまさか」

「そう。君が友の未来と、学園の平和を願ってくれるならば……! 後はどうすればいいか分かるだろう? 今まであの狂犬どもを従えていた君だ、狂犬を飼い犬にするくらい容易い事だろう」

「従えていないんだけど……」

「勿論お礼もしよう。……例えば、一人更生するにつきコロッケ定食一食分!」

コロッケ(一年編)はもう(参照)いらない!!」



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