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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
11.物云ひ可咲き奴にてぞ有ければ
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11-2

 

「――では、午前の授業は終わり。……水瀬は放課後に職員室に来るように。以上」

「えーー!!? 今日もいっちーとデート? 飽きたんだけどー!」

「人聞きの悪い言い方をするな! 今日も“補習”だ! 水瀬、お前は進級できた事が奇跡なんだからな!?」


 一方、こちらは明陽学園二年、夢姫が在籍する教室だ。

 昼休みを告げるチャイムと共に悲鳴が響き渡ったのだが、最早この学校の恒例行事のようなものとなっている為、誰も驚くことも無い。

 むしろお決まりのコントを見ているかのような共通認識であり、級友たちは温かな笑いを返しながらそれぞれの休憩時間へと向かっていった。


「……はー……毎日、懲りもせず勉強ベンキョーって……あたし達、何のために生きてるのかなあ」

「いや、学生だから毎日勉強は当たり前だろ。“達”って俺を勝手に仲間にカウントするな」

「あいた」


 昼食を学食室で取る者が多いようで教室には残る生徒もまばら……片手で数える程度しか残っていない静かな室内で和輝がおでこを叩くと、間の抜けた夢姫の声が響いた。


「もー何よ、あたしが折角ぼっち飯極めてる和輝の為に貴重な休憩時間を割いてあげてるってのに」

「いや前にもいったけど水瀬がそうやって四六時中ついてまわるせいで他に友達が――」


 ふと、言いかけた和輝は真横に立つ誰かの気配に口をつぐむ。

 注意をしようとしているかのような、敵意の気配がしたのだ。


「……なにか?」


 目の前の席に座り、和輝と向かい合って座っていた夢姫もまた、何者かの圧力に気付いた様子で怪訝に目を細めるとその人物を見上げる。


 ――そこに立っていたのは、特に顔なじみでも何でもない、ごくごく平凡な顔をした男子生徒であった。


「…………誰? 和輝の友達?」

「いや違う……気がするけど」


 ここ最近、刹那や八雲と言ったいわゆる“美形”と言われる顔の整った知り合いが増えていたからであろうが……夢姫の目は肥えてしまったらしい。

 目の前に立っているのは、ごくごく平凡で特筆すべき特徴も無く……敷いて言えば時代遅れな丸いメガネが、分厚いレンズの重みのせいかやたらとずれ落ちるくらいか。


「……うーん、無し寄りのナシって感じかなあ」

「本人を目の前に言うのは流石に失礼だよ水瀬」


 男子生徒に夢姫があからさまな冷たい視線を手向けている一方……和輝にとってはどこか見覚えのある顔だったようで怪訝な表情を隠せずにいた。


「うぉっほん! 灯之崎 和輝君、だよね? 僕の名前は美川(ミカワ) 健二(ケンジ)。明陽学園高等部生徒会風紀委員副委員長だ」

「情報量が多い」

「ミカワ、ケン……ちょっと、さそり座っぽい名前ねー顔は平凡な……あいたー!?」

「水瀬はちょっと黙って」


 美川、そう名乗った男子生徒の腕には風紀委員の腕章が光っている。

 やたらと持ち上げられる眼鏡が気になりすぎてその言葉のほとんどを聞き流しかけていた和輝は、失礼を上塗りし続けそうな気配を見せる夢姫の頭に手刀を落とすと気を取り直押す為の咳払いをしてみせた。


「……えっと、それで美川さん? 副生徒会風紀長さんが俺に何の用で」

「違う。生徒会風紀委員副委員長だ」

「副……」

「もういい」


 一言発する度にずり落ちる眼鏡を人差し指で持ち上げながら、美川は大げさなため息を落として傍らの夢姫を一瞥する。

 イケメンであれば多少なりとも言い返したりの反応を見せる夢姫だが、やたらとずり落ちる眼鏡以外は興味を持てなかった様子で口を噤み昼食の準備をし始めていた。


「灯之崎 和輝君、話がある。ちょっと来てもらおうか」

「……俺に? 風紀乱れなら水瀬の方がよっぽどなのに」

「それは関係ない!」


 夢姫がお弁当を広げ始めた頃、言葉尻と眼鏡を強くあげた美川は和輝の腕を引き強引に立ち上がらせると強制的に教室から連れ出す。


「……和輝、逮捕されちゃった」


 さながら、強制連行でもされる犯罪者のような姿を手を振り見送ると、夢姫は一人お昼ご飯を食べ始めたのだった。




「――それで、俺が一体何をしたって言うんです? 生徒会風紀委員副委員長美川健二さん」

「噛まずによく言えたね!? ……まあ良いけど、さん付けじゃなくって良いよ。同じクラスなんだから」

「……」


 “同じクラスにこんなキャラ濃い奴いたんだ”


 新年度も始まって一カ月以上経過していた。自己紹介もしていたはずなのに一切覚えていなかった和輝は“自分まで失礼を上塗りするところだった”と間一髪のところで堪えると苦笑いを浮かべた。


 ずり落ちる眼鏡を持ち上げながら美川は生徒もまばらな廊下を闊歩して行き、やがて食堂室に辿りつくと食券販売機の前で仁王立ちをして見せる。

 歩くたびに彼の分厚い眼鏡は少しずつ鼻の線を滑り落ちている様子で、メニューを眺めながらもう一度眼鏡を押し上げると美川は何やら選んだ様子で券売機の上部に据えられた差し込み口に千円札をくぐらせた。


「……もしかして、ごはん食べるの?」

「お昼だよ灯之崎君。お昼なんだからご飯くらい食べるでしょ」

「いやそうだろうけど……俺、なんで呼ばれたのかなって」


 美川が選んだメニューは日替わりで提供されている定食のようだ。

 簡素なカタカナで“ヒガワリ”とだけ記されたチケットを受け取り口から抜き取ると、美川はしゃがんだ拍子にずり落ちた眼鏡を面倒そうに押し上げた。


「勿論、放課後に時間もらえるならそれで良かったんだけど……君は放課後になると初等部の生徒と一緒に帰る事が多いだろう? だから、昼、邪魔が入らない内に話を聞きたかったんだ」

「初等……ソラか」


 確かに、和輝は相変わらず帰宅部のままであるものの、同じ学園の初等部に通うソラと一緒に帰宅する事が殆どとなっていた。

 美咲の一件……力の無いソラが誘拐されると言う、あの一件の以降は念の為に警戒をしているのだった。


 クララが設えた愛情たっぷりのお弁当が教室には置き去りのままである。だが、放課後に話をもつれこませることの方が食べ残すよりずっと面倒そうだと判断した和輝は小さく息をつくと券売機に並ぶボタンに視線を手向けた。


 券売機の横には小さなホワイトボートが据えられており、本日の日替わりメニューがイラスト付きで紹介してある様子。


 美川が頼んだものと同じものでも構わないだろう――和輝は視線を落とした瞬間、ふとそれまでの既視感の正体に気付き声をあげた。


「……コロッケ、そうだあんたあの“コロッケ”の……!」

「おや奇遇だね、何を隠そう僕もコロッケは大好物なんだ。美味しいよね、たまに無性に食べたくなるんだ!」

「あ……いや、そうじゃなくって」


 ――以前、“コロッケ”を巡って戦った事がある……。


 和輝は、恐らく彼が覚えていないであろう昨年の出来事に記憶を馳せると、狐色のイラストから目を逸らしたのだった。


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