11-1
――長いようで短い連休が過ぎ去り、季節は春の終わりを告げる。
明陽学園高等部、一年生の教室にはようやく高校生活に慣れ始めた級友たちの打ち解けた声が重なり合っていた。
「いやあ、もうすぐ期末テストですねえ。久世君、勉強の方は大丈夫ですか? 俺は勿論問題ないんですけど」
「…………何故、普通に、そこにいる」
このクラスの生徒、久世 佐助は教室の扉を開けて早々――飛び込んできた一人の男子生徒の声に耳を疑った様子。眉間にしわをよせ睨みつけている。
「ええ? だって同じクラスじゃないですか。まあ……ご心配なく。優菜が“ま”から解放され、桔子先輩がそちら側についてしまった以上、俺一人で抗い続けても無謀だと分かっていますからね。それに、灯之崎先輩からお願いされちゃいましたし?」
「何を?」
「“友達がいない佐助と友達にでもなってやってよ”って!」
“次会ったら一発殴る”――
和輝に対する確たる怒りを胸に押しとどめた佐助の、冷たい視線をさらりとかわした少年は片目を覆い隠している長い前髪を指先で弄ぶ。
そして茶化すように悪戯な笑みを返し、佐助の背中を叩いたのだった。
「それより、久世君の方はどうなったんですか? 優菜の持っていた“道具”……持ち帰ったのでしょう?」
「あれは――」
――和輝達と別れた後、佐助は摩耶に付き添い自宅でもある久世神社へと戻っていた。
「この道具は持ち主の手を離れたとは言え、まだ危険だ。次の持ち主を求めている。……私がしばらくの間静めるから、佐助……お主は他の道具の事を頼んだ」
そう言い残すと、摩耶はかつて自分自身の手の中にある道具“腕輪”が眠っていた祠の中へと足を進め、佐助の手にあった優菜の道具、“勾玉”と共に闇の中へ消えていったのだった。
「……そういうことならば、もう優菜のような人は現れないでしょうね」
「ふん、残念だったな。もうこれで貴様の復讐に付き合ってくれる新たな仲間が出来る事も無い」
「いえ。むしろ安心しました。……心を奪われていた時の優菜は、最早人間じゃなくなっていましたから、見ていて辛かったのも事実ですし」
――ふと、まだ新しい制服の裾に抵抗を感じて口を噤む。
誰かが引っ張っているかのような感覚に振りかえると、そこには眼鏡をかけた男子生徒が立っていたのだった。
「……誰だ? 僕に何の用だ」
佐助が苛立ちを隠さず乱暴な言葉を投げつけると、男子生徒は怯えたように体を縮ませる。
その顔立ちはお世辞にも男らしいとは言い難い。
むしろ不格好な女子よりはよほど可愛く思える垂れ目がちな眼に涙がたまっていく様子に、居たたまれなくなった美咲が二人の間に割って入ると……佐助は深いため息を落とした。
「名前と用件を聞いただけだろうが」
「久世君は顔が怖いんですよう。……ほら、金剛寺君でしょ? 久世君、後ろの席の子の名前くらい覚えて下さいよ」
「……ああ?」
男子生徒は小動物のように何度も小さく頷く――そう、彼の名前は金剛寺 金嗣。
美咲、佐助と並んだ名前順の席のすぐ後ろの席の級友である。
“顔が怖い”など、直接言われた事も無く気にもしていなかった佐助だが、目の前で実際に怯えきった瞳を手向けられると調子が狂うような罪悪感は持ち合わせていた。
「……別に取って食いはせぬ。何か話があるのだろう?」
嘲笑の意味にしか見えない笑みを堪えている美咲を視界に入れると自身の怒りが抑えられなくなると悟った佐助が小さな声で呟くと、少し気持ちがほぐれたのか金嗣は再びコクコクと何度も頷いた。
「あ、あの……その、おね、お願いが、あって…………」




