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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
2.日当らざる故に
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2-7


「――そこにバイクを置いて話をしている時に、恵子があの空き地で見たらしいわ」

「空き地……商業施設の跡地ね!」


 強めの香水を(マト)った瑞穂の指先を辿り、夢姫と和輝も視線を暗闇に手向ける。

 ――その時、梗耶の悲鳴が一同の心音を跳ね上げ、静寂を切り裂いたのだった。


「風見さん、どうしたの?」

「……誰か、誰か来る!!」


 一同の視線を集めた梗耶は声を震わせ叫ぶと咄嗟に駆け出し、香奈と身を寄せ合う。

 和輝はすぐ隣にいた瑞穂を守るように背中に隠すと暗闇の彼方――ゆらゆらと足を引きずり近づいて来る人影をまっすぐ見据えた。


「あああ、あれって……!」

「恵子を送ってった先輩だわ!」


 和輝の背に隠れたまま顔を覗かせていた瑞穂と、梗耶の後ろに身を潜めた(大分はみ出している)香奈……二人それぞれが同時に声をあげる。


 こちらに歩み寄るにつれ心許ない街灯が明らかにするその人物は、香奈と瑞穂の二人にとって見覚えのある人物……そう、あの日恵子を置き去りに逃げた筈の先輩、その人だったのだ。


「ふん、こいつが例のブス専と言う事か!」

「佐助ぴょん、それ今は言わない方が良いと思うの」


 佐助が脇に差した木刀を構え笑うと、珍しく夢姫がフォローに回る。

 そんな佐助達に向かい、“先輩”は声にならない叫びをあげると前のめりに走り寄り始めたのだった。


「ちっ……馬鹿女、貴様はそいつら(香奈たち)でも守っておけ」

「ほわっ!? お、おけー!」


 武器を持たない男が握り拳を振りかぶり、佐助はそれを木刀で受け止めると、男の拳からは鈍い音が響き渡った。


「かなちゃん! きょーや! ここはあたしに任せて!」


 既に見なれた“非日常”に心を躍らせた夢姫が漫画の類にありそうなどこぞの拳法風の決めポーズを決めると、見なれない“非日常”に驚き悲鳴をあげた香奈の元へ走る。


 その姿を見届けると和輝も瑞穂を促し、香奈たちと合流させた。


「よし、水瀬はそのまま女子を引き連れて大通りまで守って行けよ、良いな?」

「おっけ……ってちょい待ち!? それだとあたしの出番ないじゃん!」

「いや護衛だって立派な」

「やだー! 戦う! そっちの役に立たない佐助とチェンジしてよ」

「誰が役立たずだ!」


 夢姫の売り言葉を佐助が買い叩く。

 “今それやめてくれないかなあ”と仲裁すら面倒に思えていた和輝はため息を落とした。


「あーもう、じゃんけんで勝った方が護衛で――」


 和輝が半ば投げやりに言いかけた時、完全に無視された格好となった男は奇声をあげる。

 攻撃性を隠さないままの男に対して佐助は背を向けた状況と相成っており、その声で彼の存在を思い出した佐助は木刀を構え直し男に向き直る。完全に隙だらけである佐助の身を誰もが案じ女子達が目を逸らした……が。

 男は振り上げたこぶしを自身の頭にそのまま振り降ろし、何度も何度も打ちつけ始めたのだった。


「せ、先輩……!?」


 自分で自分の顔を殴る――

 もうすぐ成人ともあろう大の男がやる事ではない、その異様な行動を、息をのみ見つめていた瑞穂が思わず呼びかける。


 その声に反応したのだろうか、男はふと殴り続ける手を力なく落とすと、うっ血し腫れ上がった顔を夢姫の方へと向けた。


「女……女の分際で!! 女、女、女ぁぁぁぁぁぁああ!!」

「や、やろうっての!?」


 佐助を無視した格好で一目散に走り来る男を真正面に見据え、夢姫は古びた腕輪が鈍く光る右腕を街灯に掲げ、意識を集める。


 やがてその手の中には、光の元に生まれる陰のような――漆黒の杖が握られていた。


「やっぱ、クソ生意気ボーイよりあたしみたいな超絶美少女がいいわよね! 選ばれたのは美少女でした!!」


 緊張感に欠ける素っ頓狂な声でウインクして見せると、夢姫が手にした杖で弧を描き男の足元をすくう。元々覚束ない足取りであった男はそのまま足を絡めアスファルトに伏せると、その隙に和輝も間合いを詰め、自身の“道具”を――柄だけの刀を両手に構えた。


 静かに息を吐き切り、赤みを帯び始める瞳で男を見据えると、気持ちを重ねるがごとく刀は本来あるべき姿に――光を集め刃を成す。


「水瀬の声が癇に障るのかなー……なんかあいつ狙いみたいだし。護衛は佐助、頼……む?」


 光を宿した刀を構え、和輝が佐助に言いかけた時……ふと、身にまとったパーカーの裾を引く力が言葉を遮った。


「……は、はい?」


 目の前では夢姫が、執拗に殴りかかる男の拳を杖で振り払いながらどうにか均衡を保っている。男の狙いはまるで夢姫だけのようで、その後ろで怯える瑞穂と香奈には見向きもしていない。

 ――その事実に気付いたのか、佐助は瑞穂達二人に“下がっていろ”と声を投げると、あともう少しで顔面を殴られてしまいそうになっていた夢姫を押しのけ男の脇腹に木刀を振り抜いた。


「貴様をご指名のようだな、灯之崎!」


 皮肉たっぷりと言った調子の佐助らしからぬ揶揄を横目に、和輝が恐る恐る振り返る。

 ――そこには相変わらず顔色の悪いままの梗耶の姿があった。



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