10-12
「ねえ、それにしても……何だか都合良すぎないかしら? 桔子さんと優菜さん……こんなに同じようなタイミングで“道具”って集まるものなの?」
名探偵よろしく腕と足を組んだまま、自ら導き出した結論の余韻に浸っている夢姫を真似たような仕草を見せていた詠巳は首を傾げると誰にでもなく呟く。
その疑問は深く考えずとも誰しも辿りつくものであった。
――そう、“道具”は持ち主を選ぶのだからだ。
夢姫の元に舞い降りた“腕輪”のように突如現れる事もあれば、幼い日の和輝が絶望の縁で出会った“刀”のように、第三者の手を介してめぐり合うこともある。
それぞれの形で選ばれた末に“今”があると言えるであろうが……確かな事実として存在することは“どれも出会う時期はバラバラである”と言う事であった。
「私は……この“鏡”は、美咲さんから預かったものです。元は優菜さんが持っていたようですが」
「ええ。優菜が“これが導いてくれる”って俺に渡してきて。最初は言っている意味が分からなかったんですが、預かってすぐに桔子さんに会ったんです……だから、きっとこの人に渡すべきなんだと思いましてね」
「……ってことは、優菜ちゃんが二つとも持っていたのかなあ? なんで? ギーンパワー!?」
「議員の力は関係ないと思うけど」
「あいてて! ……きいちゃんが冷たい」
桔子がため息交じりに親友のおでこを叩くと、間の抜けた声が静寂を切り裂く一方――
――自身のすぐ隣で起こっている少女達のやりとりを横目に、美咲はふと何かを思い出したかのように声をあげた。
「……そう言えば」
「ギーンパワーなの!? みさ吉!」
「その呼び方は変えてほしいですね」
「えー? じゃあ“みさきちゃん”!」
「……まあ良いか。議員パワーとは関係ないでしょうけど、前に一度だけ、優菜を訪ねてきた男の人がいた事を思い出しましてね」
「男……?」
――以前、美咲は優菜が紹介してきた金髪の青年、“ルーカス”と邂逅した事がある。
優菜はルーカスの事を愛称で呼び、親しんでいた。
そして青年が桔子の持つ“道具”に関係していそうな事を話していたという事を思い出したのだった。
「金髪の……」
「外人パワー?」
この現代日本、金髪の人間など人通りの多い通りを見渡せば幾らでも見つける事が出来るような時代だ。
一昔前ほど珍しくは無くなった髪色の青年、たったそれだけではどのような人物なのかを特定することはほぼ不可能であろう……。
それ故に意識して探した事も無かった和輝達は一様に首を傾げた。
「金髪……あら、あららら!? あああ!!?」
それ以上の詮索は不可能であろう、と和輝達が思考を停止しかけたその時だ。
たくましく太い声が店内に轟く。
さながら雄たけびのような叫び声はカウンター席にいた夢姫や美咲達だけでは無く離れた席に腰かけていた和輝やソラの耳をも劈き、その心音を跳ね上げたのだった。
「うるさい兄さん」
「ち、違うの~! さっきお店に来た人! あの人も金髪だったのだぞ! だからもしかしてと思って……」
「……こんな店に、お客さんが来たの?」
皆が雄たけびの余波で言葉も失ってしまっていた最中、比較的慣れていた和輝が一同の代表として文句を投げつけると、クララは恥ずかしそうに大きな体をくねらせ口を尖らせた。
――つい先程まで来店していた客の事、普通の飲食店であれば特段気にも留めない良くある出来事として受け流している事だろう。
くどいようだが、ここ“來葉堂”は滅多に新規のお客さんが来ない。
それ故に誰かの知り合い、と言う事でもないごく普通の客が来ると言うことは相当に珍しい出来事であり、その記憶は鮮明に心にとどめられていたのだった。
「タイミングがタイミングですからね、俺が会った人と同一人物の可能性もありますね。どんな人でしたか?」
「んー……クララ、取り乱してたからお顔を見たくらいでほとんどお話してないのだぞ……そう言えば、詠巳ちゃんは何か話していなかったのだ?」
「……何も聞かなかったわ。私の事を聞かれたからそれに答えたくらいで」
――だが、詠巳はぽつりとそう答えを紡ぐと、何かしらの感情を隠すかのように目を逸らして口を噤んでしまったのだった。
「美咲さんがおっしゃる方と、お店に来た方……同一人物ともかぎりませんが、いちおう、けいかいはした方が良さそうですね」
「だな。……もし、來葉堂にもう一度その金髪の男ってのが来たら、その時は隠れて写真でも撮って、吾妻に確認してもらおう。……吾妻の方は、もし優菜が何か覚えていたらそれとなく聞き出してほしい」
「分かりました」
これ以上話の進展は難しいだろうと察した様子のソラは傍らの和輝と顔を見合わせると、頷く。
クララの顔のインパクトでトラウマを負っていなければ、決して提供している料理やお茶の味は悪くない店ではあるから、再来店の可能性は残されていた。
保険のようなものではあるが可能性に掛ける事は決して悪手ではないだろうと判断した各々は同意の声をあげる。
そして、美咲もまた“無理やり聞き出せはしないでしょうが”と気遣った上で優菜の事を請負ったのだった。




