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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
10.心有るべし
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10-8


 いつの間にか立場が逆転しており、距離感などお構いなしに詰め寄る少女に遠慮した美咲はついに壁際まで追い込まれていた。


「ギゼンだかガゼンだかゼンゼン分かんないけど! 美咲のお母さんが死んじゃったとしても、あんたは、“吾妻さんの息子”として生き続けなきゃいけないでしょ? それなのに、簡単に自分も人も傷つけてさ! 恥ずかしくないわけ!? “結局、片親の子供はろくな育ち方しない”ってレッテル貼られて、母親に申し訳なくないの?」

「う、うるさい! あ、貴方にだって、片親だからって俺の母の事なんて分かりも」

「知らないよ会った事無いもん! だけど、美咲の事はちょっと分かるもん! だからほっとけないの!」


 夢姫の言葉は止まる気配も見せないまま、どんどんと追い込まれた美咲はいよいよ開け放された窓から落ちそうなまでになっていた。

 ここは邸宅の中でも一階――落ちたからと言って大けがを負うような高さでは無い。とは言え、そろそろ年頃の異性を押し倒しそうな雰囲気さえ漂ってきてしまっていた為に和輝が夢姫の腕を引き諌めると、同時に美咲が握ったまま弄ばれていたナイフを取り上げたのだった。


「水瀬は一回落ち着け、そろそろセクハラで捕まるぞ。……で、吾妻も」

「な、何ですか! 灯之崎先輩も説教ですか? そうやってみんな上から……」

「違う、そうじゃない。……あのさ、水瀬は馬鹿だから、言葉も乱暴なんだけど……多分、言いたい事は分かるんだ」


 疲れたように言葉尻を弱めた美咲の目の前、夢姫の隣に並び立った和輝は刀身に宿したままであった光を差し込む木漏れ日に返すと、優しく微笑む。


「水瀬は、“復讐を止めてほしい”とか“まっすぐ生きてほしい”……みたいな、上から手を差し伸べようってことじゃなくて、一緒に歩きたいんだよ。こいつには上とか下とか、そこまで考える知能はないから、ただ単純に“仲間”として助けたいって言うのかな」

「さり気なくても“バカにされてる”ってことくらいは分かる知能持ってるわよ?」


 夢姫が頬を膨らませたまま和輝の肩を叩く。蚊に刺された程度で痛みも伴わないらしく、和輝はその抵抗を無視したまま美咲に手を差し出した。


「――水瀬と同じ。俺も吾妻とは友達になれそうな気がするんだ。立場とかそう言ったものを取り払ったら、多分似てると思うから」

「…………貴方の大好きなお師匠様の事は嫌いなままですけど?」

「いいよそれで。俺も前よりは好きじゃなくなったし……それに、そもそも。同調するだけが友達じゃないんじゃない?」

「……」


 差し出された手を見つめたまま、美咲は黙ってしまった。

 何も持たない美咲の両手は自由である。だが、魔法にかかったかのように硬直したまま動かせずにいたのだった。


 その心中を察している訳ではないであろう夢姫だが、業を煮やしたようで割り入ると美咲の右手を掴む。

 突飛な行動に驚き、美咲が何か言いかけたその時だ――


「夢姫! やっぱり邪魔してた……」

「和輝……それに、吾妻君」


 ――遮るように廊下にこだましたのは、桔子と八雲の声だ。

 夢姫がいないと察してすぐに桔子はここにいるはずだと確信し走ってきていたのだった。

 すぐ後ろを追いかけてきたのだろうが……元来より体力が無い八雲は桔子が辿りついたしばらく後に虫のようなか細い息を整えながら和輝達の名前を呼んだ。


「……俺は、“疫病神”……春宮八雲がやったことを許すつもりはありません」


 駆け寄ってきていた桔子の後ろに八雲の姿を見つけると、美咲は絞り出すような小さな声を紡ぐ。

 片方だけの瞳には今も尚残る憎しみが炎のように燃え盛り、名前を呼ばれた八雲はその視線を黙ったまま受け取っていた。


 “まだそんな事を言っているのか”――半ばおせっかいな言葉を紡ぎかけた夢姫の口を手で覆いふさぐと、桔子は友の言葉を遮る。

 それは桔子自身が喋りたかった、というわけでは無く、“今口を開くべき人物が誰であるか”を理解していたが故の行動だったようで――

 ――もう一人の()()()、桔子のまっすぐな視線を受け取った八雲はため息を落としたのだった。


「許されるとも思っていないよ。吾妻君、桔子ちゃん……全ては、俺のわがままな心が引き起こした身勝手な行動だ」


 八雲が頭を下げると、真っ白な髪の毛は光を吸い込むかのように透き通り、重力に身を預ける。

 ようやく解放された夢姫が文句を言おうと自由になったばかりの口を大きく開く……が、今度は和輝に長いツーテールのお下げを引かれて遮られてしまっていた。


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