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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
10.心有るべし
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10-7


 言葉こそ交わしていないが、和輝と美咲――お互いに考えている事柄が理解出来ているようである。


 すなわち、“人質を解放しろ”と言う訴えに対し、美咲は“貴方が手出しをしないならば”と言う条件を突きつけ、それを和輝が飲んだ格好だ。


「流石、お察しが良い」


 夢姫の頬から切っ先を引き離すと美咲は掴んだままの夢姫の手首を緩める。

 言葉に出さないままの無言の“取引”が完了したと言う事だろう。頬に迫っていた脅威から解放され、疎かになっていた呼吸を取り戻した夢姫が口を開く。

 だが、夢姫がその胸の内を発するよりも幾分か先に……和輝は先手を打ち“離れろ”と声をあげた。


「おっと、隙をつこうったってそうは……!」


 和輝は置いたばかりの刀をその手に拾い上げると刀身に光を宿す。

 ――そう、夢姫から意識が離れる瞬間を狙って自身の身を守り、かつ攻勢に転じようとしていたのだ。


 だが、美咲もまた予想の範疇だったようで、和輝が刀を構えるとほぼ同時に話しかけた夢姫の手を引くと、その華奢な体の背中にナイフを突き付けて盾のように押しだした。


「ち……っ」


 和輝は咄嗟の判断ながら“引きさがらざるを得ない”と刀を引き間合いを取る。

 万事休す……と次の動きを思案しかけていた和輝であったが――


「もー! だから! 動けない役割はいやー!」

「は……!?」


 突如声を張り上げた夢姫は溜まりにたまった鬱憤(ウップン)を晴らすように地団太を踏むと突拍子のない動きにナイフを持つ手を緩めた美咲の方を振り向いた。


「あたしを置いてけぼりで勝手に話を進めないでよ!」

「いや水瀬、今そう言う話じゃ」

「うるっさい!」


 「怖かった」や「自分の為に危険な事をしないで」と言う心優しい女子が言いそうな台詞なんかよりも、よっぽど似合う言葉……むしろいつも通りと言える夢姫の言葉。

 慣れてしまっており、聞き流しかけていた和輝が我に帰りいさめようとしている傍らで、初見ゆえに戸惑いしか持ち合わせていない美咲は呆気にとられた様子で口をぽかんと開けた。


「あたしはね、あんたに言いたい事があったの!」

「な、何ですか……説教ならいらないと――」


 逃げようとするであろう、と言う美咲の予想に反して夢姫は言葉の勢いそのままに緩く掴まれたままであった片腕を持ち上げるとナイフの切っ先をも顧みずに詰め寄った。


「説教? そんなんじゃないもん!」

「水瀬ーお前さ……」

「和輝はちょっと黙ってて!」

「あはい……はい?」


 背を向けたままの夢姫の言葉は珍しく迫力にあふれており、思わず引き下がってしまった和輝は念の為に、と美咲の逆上に備えて刀身に光を宿す。

 ――美咲もまた真正面に見据えた年の近い少女の言い知れぬ迫力に気圧されている様子で目を見開いたまま、ナイフを握る力を弱めていた。


「……あのね、あたしも生まれた時からお母さんしか居ないの。お父さんの顔も思い出せない、多分あんたと一緒! だから、あんたになったつもりで想像したんだ……あたし、あたしもお母さんに何かあったら同じようになるかもしれないなって」


 和輝の立ち位置では、夢姫の表情を伺い知ることは出来ない。

 それでも、普段の能天気な声の調子とは違うとすぐに分かり、和輝は口を閉ざす。


 ――夢姫の母、恵にも会った事はある。

 背が小さくて、些細な一言で目に涙を浮かべて震えてしまうようなか弱い女性、だが誰よりも自身の娘の身を案じ、守ろうとしている強い女性だと和輝は思い出していた。

 母が過保護なまでの愛情を注いでいる分、娘もまた母に愛を返しているのだろう――

 和輝自身には身に覚えのない“関係”であるがゆえに想像の範疇(ハンチュウ)を超える事はないが、決して理解できないものでは無かった。


「だけどね! あたしがそれだけ怒るのと同じくらいに、お母さんは悲しむだろうなって思うの! あたしのお母さんはね、あたしに何かあったら、死んじゃいそうなくらいに泣いてご飯も喉を通らなくなるんだ。美咲のお母さんもそうなんじゃないの? 片方しか居ないからこそ、お父さんの分も……二人分の仕事してたんじゃないの!?」

「それは……」

「あのね、知ってる? 復讐って復讐しか呼ばないのよ! お母さんはそんなことしたって喜ばないし、きっと美咲にまっすぐ前を向いて生きてほしいなって天国で願ってるはず! あたし、あんたの気持ち少しは分かるはずだから……! 美咲と似た立場だと思うから、それが言いたくて来たんだ!」


 美咲の目をまっすぐに見つめて紡ぎあげられる夢姫の言葉の中、これでもかと詰め込まれた既視感――美咲の嫌うテンプレートの供給過多と相成った和輝は思わず頭を抱える。

 そして、供給過多だったのは美咲も同じ事であったのだろう……吸いすぎた“既視感”を吐き出すがごとく深いため息を落とすと、苦笑いと共に和輝に視線を預けていた。


「……すごい全力でフラグ回収して行きましたねえ、水瀬先輩」

「何がよ」

「うん、予想を裏切らなさ過ぎて、逆に水瀬凄いよ」

「だから何がよ……って言うかあんたたちちょっと仲良くなってない?」


 自身の背中に向けて飛んできた和輝の呆れた声は美咲のため息と重なり、何故か一体感さえ感じる雰囲気にたじろいだ夢姫は目を瞬かせる。

 勢いが削がれたと察した美咲は咳払いと共に気を持ち直すと夢姫に視線を返し口を開いた。


「もう、言い返すのも疲れちゃいましたけど。……そう言うのって“偽善”だって何回言えば」

「何か難しい事言おうとしてるわね!? あたし分かんないわよ!?」

「いやあの……灯之崎先輩助けて」

「……助けそうになったけど一応は俺も敵な」

「そうでした」



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