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ユメユメ~二年目~  作者: サトル
2.日当らざる故に
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2-6


「――と、言うことで……川島さん達はそのかたき討ちをしたいんだそうです。仮屋さんはその一件のせいで病院にも通院する事になるかもしれない……置いて逃げたっていう男も、許せないけど……“疫病神”の正体を突き止めてやりたい、っていうのがお二人の希望です」

「ええ、だけど」

「私達女子だけじゃ、もし何かあったらって思って……」


 最初はもう一人の“道具”の主であり、女性に対して優しい美少年、刹那セツナが働いているバイト先のカフェで、彼を頼る事は出来ないかと(主に瑞穂の一存で)考えたようだが、タイミングが合わなかったらしい。


「……それで、仕方なく、ここなら和輝さんがいるから、って」


 最後の方は言いにくかったのか、眼鏡を人差し指で押し上げながら梗耶は言葉を濁す。

 事情は呑み込めた和輝と佐助であったが、口に出さずとも二人の意見は合致していた。


「気持ちは分かるけど――」


 これは恐らく“ま”に取り憑かれた人のなれの果て――“鬼”による仕業であろう。

 そうであれば、抵抗する力を持たない、“ま”を見る事も叶わないごく普通の女生徒など足手まとい以外の何物でもないのだ。


 目に見えない“ま”は人々の心の隙間に知らぬうちに入り込み、それは心の“間”を、“魔”を吸って肥大化し蝕んでいく。


 つまり、彼女達を引き連れていく事など、“餌”をばらまきに行くようなものなのだ。


 本来の理由は口にできないにしろ断る理由はいくらでも作れる、と和輝が口を開きかけたその時だった。


「そーいうことなら! あたしも、そしてきょーやも! 皆でいこーよ! 疫病神、皆で倒せば怖くない!」

「え?」

「は」


 言いそうな気はしていた。だが、和輝の想像以上に夢姫のフットワークは軽かった。

 和輝が立ち上がり夢姫を制そうとするよりも遥かに早く彼女は瑞穂と香奈の手を取り天高く掲げる。


「いやおい待てクソ馬鹿女! 貴様一人でも邪魔なのに、これ以上足手まといを増やすな!」

「ええー良いじゃん!」

「良くない!」


 夢姫は勿論、瑞穂や香奈をも追い払うように佐助がジェスチャーをしていると、それに乗じ思いついたように瑞穂は不敵な笑みをこぼす。


「……そう、そんなに言うなら仕方ないわよねえ……ねえ香奈。私達二人で行きましょ」

「え、えええ!? そんな、私怖いよう……走ったりするの得意じゃないし……」

「だって、一緒は嫌だって言われちゃったじゃない。……ああ、大丈夫よ? もし何かあったとしても灯之崎君達は責めないから」

「で……でも……」


 助けを求めるように香奈は佐助を見つめる……が、“勝手にしろ”と言わんばかりに佐助は目を逸らす。

 続いて和輝を見つめ始めた少女の縋るような視線に、暫しの間無視を決め込んでいたが――

 やがて、音をあげたらしく和輝はため息をついたのだった。



―――



「――とにかく一人にならないで、もし嫌な気配がしたり気分が悪くなったりしたら、その時は女子皆で人通りが多い所まで行け、良いな?」

「あたしは和輝達の方についてくけどね!」

「もー勝手にしろ」


 日が傾き、街灯が明々と歩道を照らす中。

 中々の大所帯となった一団を見渡すと和輝は念を押した。


 どこか不安げな梗耶や香奈の事が気がかりであったが、それでも来ると言うのであれば無理やり追い払う事が出来る性分でもない。

 和輝は息をつくと隣を歩く佐助と共に港沿いの道を歩き、やがて人通りのない広大な空き地の前まで辿りついたのだった。


「……ちょうど、この辺り。バイクに乗っていた恵子はバイクのエンジントラブルで止まってしまったらしいわ」


 瑞穂が駆けだし、スマートフォンの明りで道を照らし和輝を手招く。目が粗いコンクリート地の車道には真新しいタイヤ痕が黒く焼きつけられ、路肩には二人が乗っていたバイクなのだろう、大型のバイクとヘルメットが無造作に転がっていた。


「エンジントラブル、ね……」


 タイヤ痕からは微かに煙のようなものが……“ま”が燻し出されていた。

 残り香のような微々たるもので、直ちに影響が出るようなものではなさそうであるが――瑞穂には見えていないのだろう。バイク本体ではなく、そのタイヤ痕の方を見つめる和輝の横顔を不思議そうに見つめていた。


「――きょーや、顔色悪くない? だいじょぶ?」


 一方、その後方で瑞穂達のやりとりを眺めていた夢姫は梗耶の顔を覗き込むと背中に手を添える。

 緊張していた様子の梗耶は背に触れた感触に驚いた様子で小さく声をあげたが、すぐに気を取り直すと眼鏡を指先で押し上げた。


「……夢姫、ありがとう。私は大丈夫です」


 梗耶はこの場所で自身の家族を失っているのだから、気分が良くないのは当然であろうと、(珍しく)夢姫が気遣うと、それを察したのか梗耶も力なく微笑む。


「か、風見さん……無理して私達について来てくれたの? ありがたいけど、我慢しないでね?」


 幼馴染二人のやりとりをその後ろから見つめていた最後尾の香奈が割り込むように控えめな声を紡ぐと、振り返る梗耶に“立っていられなくなったら私が担ぐからね”と香奈が笑った。

 “本当に担いで帰れそう”と由来の分からない安心感を密かに抱き、梗耶はまた頭を下げた。


 緊張がほぐれ、微かに笑みを浮かべる梗耶の姿に安心したのだろうか、夢姫は瑞穂の話に興味津津の様子で和輝の背中に突撃していく。

 瑞穂の言葉に集中していた和輝は思いがけない攻撃に成す術もなく、そのまま吹き飛び前のめりにこけてしまったのだった。


「――ねえ、佐助さんは、気分悪くなったりしませんか? この場所」


 夢姫の後ろ姿を呆れたように見送ると、梗耶は息をつき一人離れた場所であたりを見渡している佐助の背中を叩く。神経を尖らせていた佐助は反射的に刺すような視線を返したが――

 梗耶の顔色が良くないと悟ると、苦々しくため息をついた。


「ふん。眼鏡は“ま”が見えるのであったな。……怖いならとっとと帰れ。後ろのデブを連れてな」


 煩わしそうに佐助が冷たい言葉を返した……が、梗耶の興味は既にそこにない様子で、その視線は、佐助の斜め後ろ――つまり、火災現場の跡地の暗闇に向かっている。

 その態度で佐助の苛立ちはさらに増したようで、苦々しいため息をつくと梗耶を睨みつけた。


「話しかけておいて無視か、良い度胸だ眼鏡」

「……そうじゃない、そうじゃない……あれ!」



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