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隣のテディのほっこりランチ

隣のテディのチキンステーキ

作者: パルコ

今回はやわらかジューシーなアイツがメインです!

ハイスクールごはんライフ第3弾

 4限が終わって、チャイムが鳴った。私はいつものように図書室へ向かう。持って行くのは自販機で買ったミネラルウォーター。


 私は薮崎やぶさき紗々(ささ)。2年A組、文芸部。身長165cm、体重40kgのやせ型。なぜこんな体型かというと、私は「食」に興味がなく、興味がないものに無駄な時間を使うのが嫌で食事をほとんど摂らないでいたらいつの間にか、というわけだ。私にとって「食」っていうのはホントに道端の石ころのようなもので、別に魅力的なものでもなければ、拒絶の対象でもなかった。


  少し前まではね。


つい最近のことだけど、私の「食」に対する価値観を揺り動かす出来事があったわけで、その元凶(?)が図書室にいるというわけ。階段を上り切ると図書室の入り口にずんぐりした人影。さらに近づくと、さながら絵本のクマのような男の子がいた。

「やぁ、ナイスタイミング」

「うん」

「前と同じ席でいい?」

「大丈夫」


 男の子のは森野もりの瀬和せお。2年B組、演劇部。うちのクラスの男子曰く、身長172cm、体重95kg。愛称は『テディ』。『テディ』の由来はクマさん体型と、彼の名前があのぬいぐるみの名前の由来に似ているから。1年の頃はあまり顔を合わせなかったけど、2年になってから結構見るようになった。友達が多いのは勿論、うちの担任や学年主任と喋っているのを見ると先生からも信頼されてるように見えた。


 そんな彼のお昼は毎日お弁当で、初めて見たときにはじっと見入ってしまった。だってホントにカラフルで綺麗で、美味しそうで、それが彼の手作りだなんて思わなかったから。それから彼は、2人分お弁当を作ってくれている。彼のお弁当に興味を持った私の為に。

「今日のお昼は何だろな」

森野くんから受け取った赤いランチボックスを開けて、最初に目に入ったのは鶏肉だった。

「今日はね、チキンステーキ」

「へぇ~美味しそう」

小さく切られたチキンステーキは、皮はこんがりと焼き色がついていて、肉はふっくらしている。タレがついてるわけではないから多分だけど味付けは塩だ。そしてチキンステーキの側にいる緑色はスナップえんどうとブロッコリー。もっとお弁当をカラフルにしているのは人参の胡麻和えとゆで卵。二段目を開けるとわかめご飯が敷き詰められていた。


 彼のランチボックスは私が持っているものと同じ形で色は黄緑。なんで2つ持っているのか聞いたら「ミートパイいっぱい買ったらキャンペーンで貰った」と言った。

「ちなみに俺のタンブラーもそうだよ」

彼の側に立っているストライプ柄のタンブラーは、容量とか機能性より男子高校生っぽくないデザインが目についた。いつの間にか「いただきます」とチキンステーキにパクついていた森野くんを見て私も箸を手に取った。


 私もチキンステーキを一口食べる。

もぐもぐ……もぐもぐもぐ……ごくんっ

「あぁ~……」

「え? 何?」

森野くんが笑い声を混ぜて訝った。そりゃそうだ。私1人で納得して変なリアクションしたんだから。

「ごめんごめん。意外に味がしっかりしてたから『こういう味か』って、そういうやつ」

チキンステーキは意外に塩が強くて、それに冷めていても柔らかい。脂っこくないところも好きだ。

「そうなの? じゃあマズいワケじゃないのね?」

「うん、いつも通り美味しい」

「よかったよかった」


 それからは貸出や返却を頼む生徒が来ることもなかったので、2人でゆるゆると食べていた。ゆで卵も黄身がしっとりしていて美味しかったし、人参の胡麻和えは塩気だけじゃなくてなんだか出汁の味もした。

「ごちそうさま。美味しかった」

「お粗末様です」

「コレ明日返すね」

私はランチボックスをショップ袋に入れた。初めてお弁当を作ってもらったとき、森野くんは当然のように私の分も持ち帰ろうとしたから「洗うくらいはさせて欲しい」とランチボックスをひったくった。それから私の分のランチボックスは洗って翌日返すことにしている。その関係で森野くんのお弁当は週3回と決まった。母さんには「多すぎる」と言われたけどこれ以上減らすと彼から取り調べを受けることになる。それは面倒だから避けたい。


 お弁当がない日は母さんが隣町の激安スーパーで買ったパンを1つ持って行くようになった。でも「なんでこんなつまらないものに時間割いてんだ」と思って途中で仲のいい野球部の男子にあげる。捨てていないから許してほしい。それなのに森野くんのお弁当を完食することが出来るのは、やっぱり彼のお弁当に目を奪われたからだろうか?

「次はもう決まってるの?」

「うーん、生姜焼きもつくねもやっちゃったからなー……」

「和食多かったね」

「そーだねー。あ、オムライスは?」

「あたしは森野くんが作ってくれるならなんでも楽しみだよ」

「ふふふっ! 薮崎さん新妻にデレデレな旦那みたい」

確かにそんな感じだったかもしれない。けど本当に楽しみだから。こんなに食事が楽しいなんて思ったの初めてだから。

「じゃあさじゃあさ、グラタンとかは?」

「お! 珍しくリクエストしたね! いいよ。簡単に作れるレシピ調べてあるからそれで作るよ」

「うん」


 次回のお弁当が決まったところで予鈴が鳴った。明日は70円パンを食べずに譲渡する日。それを思い出すと明後日のオムライスが楽しみになってきた。2人で英語の宿題の話をしながら階段を下りて教室に戻る。

「じゃあね」

「うん」

B組の教室からは「テディ!」と呼ぶ声が聞こえる。私は愛され者テディの料理を知っていると自覚するとなんだか楽しくて仕方なかった。

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