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歓迎するよ、勇者様  作者: 喜多逢太郎
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一章 第一話

「歓迎します、勇者様」


 霞がかかったような意識を覚醒させたのは厳格な声だった。

 流斗はかぶりを振って無理やり目を覚ますと、ここが見覚えのない場所だということに気づいた。

 目の前に奇抜な服装をした老人が数人。ハロウィンにはまだ早いハズだが、皆ゲームに出てくるような神官の格好をしている。

 クオリティの高さに思わずジロジロと見つめてしまうが、相手と視線が合ってしまい、気まずさで下を向いた。


「お気分でも悪いのでしょうか。今すぐ、治癒の出来る者を呼びます」


 見当はずれの心配をされ、流斗は慌てて否定しようとする。

 しかし、治癒という言葉。先ほどの勇者といい、この老人たちはファンタジーの設定で話を進めていくのだろうか、と流斗は頭を悩ませた。

 最近テレビでもコスプレは市民権を得て広まってきているとは思うが、いい年したジジイたちが真顔でRPGの真似事をされてもドン引きである。

 そうこうしているうちに、眼鏡の可愛らしい女の子が走ってきて流斗に近づいてきた。


「あの、今から回復の魔法をおかけしますね」


 鈴の鳴るような、とはいかないが、なかなかに可愛い声音で語りかけてくる。

 肩まで切りそろえた髪が清潔感を感じさせ、医療行為を受ける身としては好感度が高い。

 視線を少し下の方にずらすと、たわわに実った果実が二つぶら下がっていた。


「まじかよ……こんなんアダルティックなビデオでしか見たことないぜ」


「え?」


 流斗の言葉に女の子が反応してしまう。

 思わず漏れ出た言葉に流斗は恥ずかしくなるが、女の子は流斗の言葉の意味がわからないのか処女雪のように無垢むくな顔を見せる。

 それを見た流斗の胸の内にムクムクとよこしまな感情が沸き起こるが、鉄の意志でなんとか封じた。


「そこまで純真だと汚したくなるネ」


 だが、彼の鉄の意志は錆び付いてひび割れていたようだ。

 欲望が口を出てしまったが、それでも彼女は懸命に何事か呟き始める。

 ゲームのように回復の呪文でもつぶやいているのだろうか。とりあえず、流斗は彼女が目をつぶって集中しているのをいいことに胸を視姦することにした。

 彼女の息遣いに胸が上下する。服の生地が薄いのか、胸の質感が服越しでも伝わってくる。

 今までの生活では女子の胸を間近で見る機会はなかったので、ここぞとばかりに脳内HDに保存をする。


「準備できました。ではイキます!」


 頭の中が煩悩まみれになっていたため、彼女の言葉が別の意味に聞こえてしまった。

 もちろん今の声もしっかり抜かりなく録音しておいた。

 するとどういうことだろうか、彼女の言葉に反応して流斗の身体を暖かい光が包み始めたではないか。


「わっ、なんだこれ!」


 現代の科学技術はここまで発達していたのかと流斗は感心していた。ホログラムか何かと思っているのだろう。

 夢の国も真っ青なアトラクションに心をときめかしていたが、やがて光は消えてしまった。


「あれ?」


 女の子が不思議そうな声を漏らした。

 後ろで事の成り行きを見守っていた老人たちも疑問符を浮かべている。

 そして、みんなに釣られて流斗も首をかしげた。 


「おかしいな、何の変化も見られないなんて……」


「おい、勇者様のお気分は治られたのか?」


「それが、特に悪い症状は見られませんでした。あの、この方はたった今召喚されたばかりなんですよね?」


「ああ、我々が呼び出してすぐに貴様を呼んだのだ」


「だったら召喚酔いがあるはずなのに……」


 流斗そっちのけで会話が進んでいく。

 疎外感を感じるが、いつものことなので特に気にした様子は見られない。

 しかし、流石におかしいと思い始めているようではあった。

 彼らの様子が演技にしては真に迫っているのだ。

 流斗はおずおずと彼らに言葉をかけた。


「あの、すんません」


 老人ズの中でも偉そうな男とおっぱいが話し込んでいるため、代わりにエロそうなジジイが流斗に反応を示した。


「どうかしましたかな?」


 間延びした声が眠気を誘う。

 こいつは自分の声で催眠状態にして、女の子に酷いことをする奴に違いないと心の中で思いながら、流斗は現状を確認するためにここがどこなのか聞いてみた。


「おお、そう言えば説明がまだでしたな」


 ここで寝ては貞操の危機と気を引き締めて、エロオヤジの話に耳を傾ける。


「実はここは、あなた様が住んでいらっしゃった世界とは異なる世界なのです。今、この世は戦乱の危機に瀕しております。そのため、国を挙げて自国を救ってくださる勇者様をお呼びしているのですが……古来より、英雄とは外部から招くもの。昔の大災いでもどこかの世界から来りし勇者様が世界を救ってくださいました。その時に使用された召喚の儀をもって、今回も呼ばせていただいたわけです。ただ、昔と異なるのは、当時は国同士協力して怪物を退治したのですが、今回はその国同士の争いというところです。敵が人間ということで、最初は英雄召喚もはばかられたのですが、今の国王様が他国を恐れて召喚を強行してしまいました。不本意かもしれませんが、どうか、この国を救うと思って、お力をお貸し願えないでしょうか。わたくしどもの方でも協力は惜しみません。かつて、この国を救った英雄の如き光を我々にお与えください……勇者様?」


「……」


 神妙な面持ちで話を聞いていると思っていた流斗が何の反応を示さないので、催眠術師えろおやじは彼に詰め寄った。


「勇者様? ゆ、う、しゃ、さ、ま!」


 いきなりの大声で皆がびっくりする。

 呼びかけられた本人は目を開けた瞬間エロそうなオヤジの顔が間近に飛び込んできたので、乙女のような叫び声をあげてしまった。


「聞いていましたか! 今! わたしの話を!」


「近い近い!」


 こいつは男も対象らしいと脳が警鐘を鳴らす。

 こうやって相手を眠らせて好き放題身体を弄ぶとは、羨ましい力だと流斗は相手の凄さを再認識した。


「それで、結局ここはどこなんだ?」


「聞いてましたか? ここはあなたの住んでいた世界とは異なる世界です」


「俺は学校の寮に住んでいたんだぞ。さかいになど住んでないわ」


「せ、か、いです、世界。あなた様の服装を見る限り、こちらとは文明の発達具合も異なるようですな」


「んん? そう言えばあんた外国人みたいな顔立ちしてるけど、俺たちの言葉話すのうまいな。夢の国のようなテーマパーク想像してたんだけど違うの?」


「てーま、なんですと? 別に言語の違いは感じられませんが?」


「ん?」


「とにかく、あなた様は我が国を救うために呼ばれたのです! 遠い場所で嫌かもしれませんが、よろしく頼みますぞ!」


「……んん! そう言えば、俺暗闇に堕ちていった気がするんだけど生きてる!」


 今更のような言葉が口をついて出てきた。

 まさか、アレは夢だったのだろうかとも思ったが、おっぱいと話していた偉そうなオヤジが説明をする。


「どういったものかは私にはわかりませんが、恐らくソレがゲートなのでしょう。あなたはゲートをくぐってこちらの世界に呼び出されたのです」


「……つまり、これってもしかして――」


 ここではないどこか。流斗の住んでいた国にも娯楽のジャンルの一つとして存在する。

 その名も、異世界召喚。


「マジかよ……」


 流斗は突然の非日常に驚くと同時に、灰色の世界からの脱却に胸を躍らせるのだった。

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