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98 信長の後継者2

楽しんで頂ければ幸いです。

1590年7月下旬 二階堂氏 ~須賀川城~



信長様が懸念していた平和な時代の将来的な人口増加に対処するため、秀吉殿はその志を受け継いで海外貿易をするための道筋を模索し、それを俺に語ってくれた。

そのためにする事が朝鮮攻めだった事に驚いた俺だったが、以前から思っていた疑問点に答えを貰ったような気がしていた。

二人共将来を考えた政策を行える人物であり、負け戦を行うような無謀な人達ではないからだ。

この様な考えを持つ秀吉殿はここで俺に協力を求めて来た。


「輝行殿、この策を遂行するために力を貸して欲しい。造船の技を教えて欲しいのじゃ」

「既に西国では貿易も盛んで、造船の技も十分あるのでは?」

その意図を知りながら俺はそう問いかけた。

「知っておるくせにその様な事を言うでない。確かに沿岸や瀬戸内などで使う和船については技も進んでいよう。しかし、南蛮船の様に海を渡る船を完全に再現する事は出来んのじゃ。朝鮮に渡るだけならば良いが、南蛮へ船を遣わすには力が不足しておる」


「それならば南蛮の商人共から船を買い上げては如何ですか?」

しかし、秀吉殿は渋い顔をしてこう言った。

「九州での戦の後、バテレン共を追放した事が尾を引いてる。商人共も信者の一人であるからかどうも非協力的になってのう」

「追放令を解く事は出来ないのでしょうか」

うちの領地にはまともな神父がいるので何とかしたいのだが…。

「…すぐには難しいじゃろうな。信長様に倣ってキリスト教の布教を許してきが、やつらがとうとう政にも口を出すに至って一向宗の者共と同じ輩であることにようやく気付いた。神父の一人がキリスト教徒がいる領土を攻める際に、自国の艦隊を自分は動かす事が出来ると言いおった。この儂を脅しおったのじゃぞ!」


あちゃ~!政教分離の考えを信長様から付け継いでいる秀吉殿には言ってはいけない言葉だったな。

うちの神父達にもよく言っておかないと。

「分かりました。バテレンの追放については将来の解除に期待する事とし、造船に付いてはご協力いたしましょう。ただし、伊達や蘆名など船を共同で運営する大名に諮ってからとなりますのでご容赦ください」

「おお、ありがたい!少々時間は掛ってもかまわぬから協力を取り付けてくだされ」

本当に偉い人なのに拝み倒す様に頼んでくる秀吉殿には困ったものだ。これじゃ断れないよ。


秀吉殿の頼みを聞いたところで、俺は将来の事のついて確認した。

「日ノ本の将来については少し伺いましたが、豊臣家の将来についてお聞きしたい。秀吉様の事は信頼しておりますが、ご子息の鶴松様はまだ生まれたばかりと幼い。今後はどの様に日ノ本を統治するおつもりか」

「鶴松を儂が後継者として教え、少なくとも元服までは秀長や前田、徳川などの大名が後ろ盾となりながら将来の関白として育てるつもりじゃ。ただし、儂も若くは無いから一族からその間を担ってもらうつもりじゃがな」

このまま行くと鶴松と秀長が死んで、秀次が切腹するルートが見える。

前の二人の死因も分からんし、俺が未来を変えるのは難しいだろうな。


「これは興味本位でお聞きするのですが、秀吉殿以外に他家で信長様の志を継ぐ事が出来る方はいらっしゃらなかったとお思いですか?」

「うむ、もしも信忠様が生きておられて儂ら織田家臣がそれを支えれば十分可能だったじゃろうな。こう言っては失礼じゃが、信忠様には信長様ほどの才は無かったと思っておった。しかし、それを十分に自身で知った上で他の才を使う度量のある方じゃとも思っておった」

そうか…、信忠様が二条城から逃げられていれば織田が天下を統一出来たかもしれないな。


「他には居りませんか?」

「そうじゃな…。人物で言えば家康殿も十分な才を持つ方じゃ。しかし、信長様の志を受け継ぐ事は出来まい」

「それはなぜでしょうか?」

徳川幕府を築き上げた大人物なのだから十分可能なのではないか?

「それはのう。家康殿が多くの事を武士や農民の視点で考えるからじゃ。恐らく家康殿が現状での日ノ本を治める事は出来る。だがのう、平和になった日ノ本で民が増えすぎた時にどうするかまでの考えは持っていないじゃろうな」


「それはなぜでしょう?」

「家康殿はとても堅実で我慢強い方じゃ。そうでなければ信長様と長い間同盟を維持する事も出来なかったじゃろう。長い間に力を蓄え、周りからも信頼を得て来た。もしも儂がこの場で倒れれば、その後に日ノ本を統一する一番手となろう。しかし、その堅い性格が災いして日ノ本と言う枠の中で物事を完結していまうのではないかと考えておる」


秀吉殿の聞いていると徳川幕府の行く末を予言された気持ちになった。

江戸時代初期は人口が増加しても開発の余地があった事から農地を広げて食糧を増産できた。

しかし、江戸中期になるとその人口増加は大きく減速する。

その主な原因は大規模な干拓などの開発が頭打ちとなり食糧増産が止まったためだと考える。


その時、農村ではどの様な事が起きただろうか。飢饉となれば無理やり年貢を奪われ餓死者が多く発生した。

平時でもその生産物は江戸や大阪など大都市へ運ばれ、金銭に代わって大名の懐へ入る。

遠く離れた農村に残った僅かな作物を農民は分け合って食べるが、それでは暮らして行けず娘を売りに出し、子供を口減らしに丁稚奉公へ出せるのはまだまともな方。

年寄りや赤子を山に捨てたりする事も珍しい話ではなかったと言う。

その多くが実際に明治初期まで奥羽、即ち東北地方で起こった事なのだ。


そんな事が分かっているのにその悲劇再現させてはならない。その未来を変えられるならば俺は進んで秀吉殿に協力するつもりだ。

「秀吉殿、是非とも信長様の志を引き継ぎ、日ノ本に平穏をもたらしてくだされ。この輝行、最後のご奉公と思って働きまする」

「そうか輝行殿、協力してもらえるか。頼みましたぞ!」

そう言って秀吉殿は俺の手を両手で強く握った。その手はとても熱かった。

やっぱりカリスマ性のある人だよな。色々と裏もあるのは知ってるが、この人のために何とかしたいと思わせるもんな。



俺は須賀川城内の私室に戻り、先ほどの会談を思い返す。

恐らく奥州での地位を固めた二階堂はこのまま生き残れる。しかし、歴史通りに物事が進んだとすれば奥羽の苦境はこれから数百年続く事になるだろう。

ここは歴史を改変しても豊臣政権を持続させる必要があるのではないか?

そのためには二階堂で育てた医師や薬師を派遣して秀吉殿の寿命を少しでも伸ばし、助けられるものならば鶴松様を何とか生かす事は出来ないだろうか?

そして、親豊臣で奥羽の大名が纏まれば徳川幕府が生まれる事は無いだろう。

そう考えた俺は二階堂一族と重臣にこの考えを伝え、奥羽の大名をどの様に纏めるかを夜更けまで考え続けていた。

読んで頂きありがとうございます。

(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。

   史実や現実と大きく異なる設定がありますのでご了承ください。


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