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97 信長の後継者1

楽しんで頂ければ幸いです。

1590年7月下旬 二階堂氏 ~須賀川城~



「まずは、信長様の事を話す前に言っておきたい事がある。信長様が光秀に弑された件じゃ。儂が毛利との戦を中断して畿内へとんぼ返りしたため、柴田や徳川との戦の折には到底受け入れがたい噂をされた。何と儂が光秀の謀反を知っていてこれを放置し、わざと信長様を討たせたというものじゃった」

秀吉殿は少し顔を赤らめながら、眉間に皺を寄せ目を閉じている。

思いもよらない恥辱に耐え、怒りをこらえている様子が伺える。

「秀吉殿、私もそのくだらない噂については耳にしておりますが信じてはおりません。見事に信長様の敵を討った秀吉殿に対するやっかみの類でありましょう」

そう言って俺は秀吉殿を気遣った。


秀吉殿に上昇志向がある事は承知しているが、あのまま信長様の下で働いていれば全国統一の頃には無理をせずとも最低二国か三国を領する大名になり、悠々自適の生活が遅れたはずだ。

あの時点で日ノ本を統一しても、それを継ぐべき後継者も居なかった秀吉殿に利は少ないと俺は感じていた。


「その通りじゃ。しかし、あの噂の厄介なところは少しだけ真実を含んでいるところだ。これは秘し話なので我が幕下の将以外に話すのは初めてでな。儂は信長様が襲撃されると言う情報を掴んでいたのじゃ。いや掴まされていたのだろうな」

何だか衝撃の事実が語られそうだ。

「それはいったいどの様な事でございましょう」

「儂の配下の忍が毛利討伐へ向かう信長様を播磨の残党が襲うと言う情報を得た。信長様も同様の情報を得ていたはずじゃ。そのために毛利への援軍として光秀を先行させて、途中の播磨を再度徹底的に平らげる予定だったのだ」


播磨では三木城での兵糧攻めによる飢え殺しで別所一族から恨みをかっている他、荒木村重などとも因縁があり、表面上は秀長殿が山名一族を取り込み上手く統治していたものの、毛利や周辺大名の動きによっては反旗を翻す者も多く存在したはずだ。

そのため後顧の憂いを絶つためにも反抗的な者達を殲滅するつもりだったのだろう。


「そのため儂は最悪の場合を孝高に想定させた。播磨攻めが上手く行かず信長様に危険が迫った場合は一時的に毛利と和睦し、これを救援するつもりじゃった。ただし、光秀が播磨攻めを失敗するとは思わなんだし、信長様が敵に囲まれるとは思ってもいなかったから準備はしておらんかった」

「そこに信長様が光秀に弑されたとの情報が入ったと」

「そうじゃ、狼狽した儂は思考が止まってしまったが、撤退を想定させていた孝高が逸早く皆を纏めて儂に進言したのじゃ。戻って光秀を討つべきじゃとな」


もしかすると信長様を油断させるつもりの光秀の欺瞞工作が用意周到な秀吉殿の思考に影響を与えた結果なのかもしれない。

また、主君を討たれて混乱した状況で思考を変え、中国からの大返しを成し遂げた家臣団が無ければこの事は成功しなかっただろう。

これを予測するのは光秀とて無理だったに違いない。


「だからあたかも信長様が討たれるのを知っていたと言われる理由が発生したのですな」

「そうじゃ、まさかこんな事になるとはのう。儂は信長様からはよく叱られもしたが、その本心を話していただいた。輝行殿が一緒ならばもっと本心を明かしてもらえたやもしれん」

「私がもう少し若ければ信長様の下で働いていたかもしれませんなぁ」

これは嘘だ。安全第一の俺が日ノ本で最も危険な信長様の下にいたらやばいじゃないか!



「ふふふ。儂と同様、商いや民の事を考えていた信長様じゃ、輝行殿とも胸襟を開いて話が出来たじゃろう。光秀ともそこは同じ考えじゃったはずだがあやつは道を間違えた。輝行殿、儂は信長様の考えを引き継いで日ノ本を発展させたいのじゃ」

「日ノ本をですか。それはいったいどの様な方法なのですかな?」

信長様が思い描き道半ばで閉ざされた日ノ本の未来とはどの様なものなのだろう。


「儂が聞いた事とてそのお考えの一部に過ぎぬであろうが、信長様はある時こんな事をおっしゃっておった。このままでは日ノ本から人が溢れるとな」

「人が溢れるですか…」

「そうじゃ、戦乱が続いた今の世では食うものも食えず、戦で人が死んで行く。しかし、日ノ本が平定されて平和になれば、人は死なずに畑を耕し、稲を育て商いをする。人は豊かになり増えて行くじゃろう」

「そうですな。そんな世を私も望んでいます」


「しかしなぁ輝行殿、宣教師らから世界を知った信長様は思った。日ノ本は狭く、世界は広いとな。そして、自分の何代か後には人が増えて日ノ本で作る作物では全ての人を養えなくなる日が必ず来るのだと考えたのじゃ」

これは人口増加による混乱を信長様が予測していたと言う事なのか。

「それを避けるためには国外へ領土を広げる必要がある。それが明国を信長様が平定すると言う逸話に繋がるのですね」

「ああ、その前哨戦として朝鮮を攻めると言う話もな。そして、朝鮮攻めの実施については儂も信長様から直接聞いておる。じゃが、それは明国を平定するためでは無かったのじゃ」


史実の秀吉殿は「唐入り」と称して明国の征服と朝鮮の服従を目指して朝鮮に攻め入っている。これと同様の考えを信長様が持っていたと考えたが違ったのか?

確かに日ノ本の兵力で朝鮮を平定する事は可能だが、広大な明国を征服するのは現実的に無理があると思っていた。

三国志などでも数十万の軍勢が戦う場面が見られるし、根本的に戦の規模が違うため戦っても勝てる可能性は低く、広大な領土や言葉の問題などがあって統治も難しいのだ。


「それならばなぜ信長様は朝鮮攻めをお考えだったのでしょう?」

「それはな輝行殿、貿易のために明国と対等な立場になるためじゃ。明国は日ノ本を朝鮮の様な属国の一つとしか考えておらん。さらに陸続きではない事などから占領しても利が少なく統治する価値を見い出していない国と言う認識じゃろうな」

現状で明国と貿易をしようと考えればこれまでの歴史から見ると朝貢貿易が思い浮かぶ。しかし、信長様や秀吉殿は明国と対等な立場で貿易をするつもりだったのだ。


「信長様は朝鮮を服属させた上で明国の先兵と戦い、日ノ本の強さを認めさせるつもりじゃった。その上で明国と講和し、日ノ本を対等な立場の国として認めさせるつもりだったのじゃ。まあ、明国平定などは少し話を大きくした方が面白いと思って方っていたのじゃろうて」

普通の人は話を面白くしようとして明国を平定するなんて言わないと思う。やっぱりこの二人がおかしいだけだよな。

「それでは朝鮮を服属させても明国へは攻め入らないつもりだったと?」

「あんな所へ正面から攻め入ったら泥沼の戦となろう。信長様も儂も負け戦をする程馬鹿ではない。食料はおろか弾薬すら届かない戦となるのは目に見えておろうが」


そうだよねー。そんな事は漢書などの書物で勉強すればある程度予想できるもんなぁ。それが分からなかった人達もいるんだけどね。

「そうなると秀吉殿は将来的に明国との本格的な貿易をお考えですか」

「その通りじゃ。しかし、明国ばかりではないぞ。南蛮の国々へも船を出して商いをするのじゃ。日ノ本の外にはまだ無限の可能性が広がっていよう」

こうして秀吉殿は海外貿易の夢を俺に語ってくれたのだった。

読んで頂きありがとうございます。

(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。

   史実や現実と大きく異なる設定がありますのでご了承ください。


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