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95 須賀川訪問

楽しんで頂ければ幸いです。

1590年7月下旬 二階堂氏 ~須賀川城~



秀吉殿は豊臣方を伴って蒲生殿が新封される事となった白河城へ一時滞在した後、大崎・葛西家臣の妨害を軽く退けながら須賀川城へ到着した。

二階堂としては今後も当面は豊臣方と上手くやっていきたいので可能な限りの歓待をするつもりだ。

このため、当主の盛義や家臣達は秀吉殿や一緒に来た蒲生殿らの接待の準備で大わらわとなっている。


秀吉殿の須賀川訪問でいくつか問題があったが、一番はキリスト教の教会をどうするのかだった。

当初は信長様に倣いキリスト教に寛容だった秀吉殿だったが、九州平定の際に伴天連追放令を発布して布教を禁止しており、現在では教会が存在するだけで問題となってる。

南蛮人とも積極的に貿易をしている二階堂の治める須賀川には必然的に多くのキリスト教徒が訪れ、宣教師が一定の制限の下で布教を行ってきた。


このため、信者が多くなってくると教会の建設の許可を懇願され、奴隷貿易の禁止や武装の制限などを条件に教会の建設を容認していたのだ。

小田原征伐への参陣を一番の目標としていた俺は、教科書でも見ていたはずの伴天連追放令の事が頭から抜けており、今回の須賀川訪問で大慌てする事になってしまった。

仕方が無いので急遽、教会の十字架を全て取り外して隠し、宣教師に対し一時的に人前には出ない様に通告するに至った。

こんな事で改易にでもあったら目も当てられない。何のためにこれまで頑張ったのか分からなくなると言うものだ。


そんな大忙しの家中でも俺は一応隠居の身分なので動かないでその様子を眺めるに留めている。

長旅でかなり疲れたので身体を休める必要があるのだ。やっぱり我が家は落ち着くよね。

…とは言っても方々に顔が効く俺を盛義は遊ばせて置いてはくれませんでした。

秀吉殿達に茶を振舞ったり、南奥州の開発について質問を受けたりして働かされました。


俺の事はもう隠居してるんだから少し労わるべきだと思う。

まあ、二階堂のためと思えば老体に鞭打って働くしか無いんだけどね。

せっかく史実を覆して奥州仕置まで二階堂の家を存続させたのだから徳川の世までは持たせたい。

ただし、その頃には俺も草葉の陰から見守るしか出来ないんだろうな…。






1590年7月下旬 豊臣氏 ~須賀川城~




宇都宮城で主な奥州の仕置を終えた儂らは巡察のために白河の関を越え、二階堂の本拠地である須賀川を訪れた。

奥州でも有数の繁栄を誇るこの地で二階堂の当主盛義殿から盛大な歓待を受け、日ノ本の平定がとうとう完了したという気持ちが沸き起こって来た。


桶狭間の戦より30年、金ヶ崎で織田の殿軍を賜ってから20年、長篠で武田を打ち破って15年。こんな日が来るとは露とも思わんかった。

信長様であればもっと早く平定出来ていたのじゃろうが、儂にはこれが精いっぱいじゃった。

輝行殿はどう思っておるかのう…。



「それにしても秀吉様、須賀川の地の賑わいは予想以上でありましたな。多くの商家が軒を連ね、たくさんの蔵が立ち並んでおりました。奥州各地は基より関東や西国、南蛮からも商人が集まっていた様に見受けました」

「その通りじゃのう氏郷。石高は伊達や蘆名に劣るが財力は同等と噂されておる。お前も白河をこれくらい繁栄させてみよ」

「これは手厳しい。須賀川ほどとは参りませんでしょうが、この氏郷、白河を人々が安らかに暮らせる地とするつもりでございます」

「白河は奥州の玄関口。重要な地であるからこそお主に任すのじゃ。しっかりと統治して見せよ」

「はっ!」


「秀吉様、この須賀川は縦横に街道が通じ、川筋も整えられており栄える条件が揃っております。ただし、それも輝行殿が長年に渡り普請した成果であると聞いておりまするが?」

「うむ、長政、輝行殿は信長様が堺で誼を通じておった頃から領内の開発に心血を注いでおった。信長様もその考え方に感じ入り、遠く奥州の大名である輝行殿を何かと気にされていたのじゃ。熱田や堺の様子を話し合っておられたのを覚えておる」

「秀吉様、浅野殿、それでは某が白河を須賀川の様にするのには数十年の猶予を頂けると言う事でよろしいでしょうかな?」

「おうおう、10年でも20年でも掛けてよい。重要なのは侵さず侵されず奥羽の蓋として盤石である事よ」


ここで氏郷が少し様子を変えて話を始めた。

「秀吉様、話には聞いておりましたがこの須賀川城、二階堂がそれほどの大領でも無いのにその規模は小田原を一回り小さくした様です。正直驚きました」

「蒲生殿それは某も同じじゃ。伊達や蘆名ならばまだ納得も行くが、二階堂がここまでするとは。一貫して臣従するとは申してきておりましたが、戦となった場合はどうなっておったか…」

「恐らく輝行殿は所領が安堵されるとは思っておっただろうが、それを妄信せずに万が一戦となった時の事を考えておったはずじゃ。儂には北進する佐竹が心配でと説明しておったがのう」


「それではこの際、南側の空堀と土塁は撤去して頂く事で進めてよろしいでしょうか」

「うむ、佐竹は既に押さえておる。それであれば二階堂としても逆らう事は出来ないはずじゃ。本より奥羽の差配は当面長政に任せるつもりじゃったから、その方針で進めてよい」

「はっ」


「ただし、土塁と空堀を撤去しても攻めにくい地である事は間違い無いでしょうな。北と西を釈迦堂川で遮り、南側には寺社町、東側には詰城までありまする」

「よく見たな氏郷、釈迦堂川はしっかりとした堤が整備されておるから、少し手を入れれば立派な土塁となる。南の寺社町の配置は真田の上田城と似ておる。寺社は塀などがしっかりしておるから防御陣地として使える。手前が平坦な土地になっておれば攻め手が鉄砲で狙い撃ちされよう」

「はい、それに須賀川城の本丸は一見平城ゆえに大軍であれば容易に落とせそうに思えますが、この城は政務を行うための城なのでしょう。しかし、東側で須賀川城と一体化して囲われている愛宕山城は攻防を考えられた戦のための詰城だと見ました。戦の場合はそちらが本陣となるのでしょう」


「そうなれば長期戦は避けられぬ。戦が長引けば蘆名や伊達などの奥州勢にも対処する必要があったろうな」

「それであれば小田原と変わらずに包囲する事で対処出来るのでは」

「長政、出来る出来ないで言えば出来る。しかしのう、お主らには言っておらなんだが儂には包囲戦に対する懸念が生まれたのじゃ」

「それはどの様な事でございましょう…」


「奥州勢は海から攻められると言う事じゃ。お主らも小田原の沖から打ち上げられた花火を見たはずじゃ。あれがもしも大砲であったならばいかがする。まだ、打ち込まれる場所が分かっていれば対処も出来ようが、海に囲まれた日ノ本であれば何処にでも行けるのじゃぞ」

「そんな事になれば従軍している将兵も領地が心配で戦どころでは無くなるやもしれませんな…」

「瀬戸内であればそう簡単にはいくまいが、それ以外ならば何処にでも攻撃出来る。それも自らの被害は皆無で一方的にじゃ。伊達と二階堂は南蛮の船を模したものを20艘余りも持っておると聞く。それを知ってもまだ率先して戦いたいと思う大名が何人おるかのう…」


氏郷と長政は少し青ざめた様な顔を見せる。当たり前じゃ、儂とてこの考えに至った時は大きく狼狽したからの。

「じゃから長政、必要以上に奥州勢を追い詰めるな。これからは時間を掛けて少しづつ力を削いでいくのじゃ。そして、氏郷には近いうちに白河に加え那須辺りも支配下に置く事が出来る様になるじゃろう。準備しておけ」

「「はっ」」


やっと日ノ本を平定したのじゃ、ここで躓きたくは無い。

輝行殿とも膝詰めでじっくり話をする必要がありそうじゃ。

読んで頂きありがとうございます。

(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。

   史実や現実と大きく異なる設定がありますのでご了承ください。


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