89 小田原征伐2
楽しんで頂ければ幸いです。
いつも誤字が多くて申し訳ございません。ご報告感謝いたします。
1590年 二階堂氏 ~須賀川城~
俺が知る歴史において二階堂は昨年中に伊達政宗に滅ぼされていた。
しかし、徹底的なフラグ回避によって南陸奥における騒乱は起こらず、伊達、蘆名においても家督相続で問題は発生していないのが現状だ。
そのため、蘆名制圧が原因で伊達政宗が小田原征伐に遅れる事も無い。
それに伊達では当主こそ政宗だが、息子に謀殺されたとの説もある父の輝宗殿も存命である。
このため小田原には輝宗殿も秀吉殿へ恭順の意思を示すために向かうと聞いている。
率いる兵の数も、伊達が8千、蘆名が6千、二階堂2千など主だった諸将の軍勢を合わせると2万近くになるだろう。
小田原へ向かう軍ではあるが佐竹など関東の大名達は警戒感を示したものの、秀吉殿の威光もあって問題無く行軍出来るだろう。
ただし、油断は出来ないため白河周辺には一定の軍を集めて警戒しておくつもりだ。
また、陸からだけではなく海からも軍船で兵を出す事になっている。
歳を取ると長旅が身体にこたえる様になってきたため、俺や輝宗殿は移動時間の短縮を理由に船での移動となる。
危険が多いとされるこの時代の船旅だが、船の安全性を高めるためマストや竜骨など国外の外洋船の技術を導入するほか、船を直接買い付ける事もしているため太平洋沿岸の航海にも問題は無い。
これは現在二階堂が協力体制を築いている岩城領や伊達が支配している相馬領へ外国船が頻繫に訪れているために可能となっている事だ。
わざわざ奥羽の地まで国外の船が来る理由だが、これは二階堂領内で作る工芸品や蘆名が算出する金、伊達の産物となる絹などの物品を手に入れるためだ。
このため各港には商館の様なものも既に建設されており、二階堂領には統制は厳しいものの教会も建設が許されている。
伊達領内にも教会の建設が計画されていると聞いているが、そのうち支倉さんあたりがヨーロッパまで行ったりするのかな。
なお、冬の間の移動は難しいとの弁明の使者を事前に秀吉殿へ送っているので、我等が小田原に向かうのは早くとも4月頃になる。
二階堂から小田原征伐へ向かう兵の半分は鉄砲隊となるが、その前進が印地隊であるため工作部隊の役割も持っていたりする。
陣の設営には彼らの活躍が欠かせないので、今回も多くの兵を投入することになっている。
普通に考えれば全軍の半数以上を大きな遠征となる戦に投入するのは問題がある行為かもしれない。
しかし、秀吉殿へ奥羽の意思を示す今回の作戦のためにはうちの兵がどうしても必要なのだ。
この作戦は伊達や蘆名など一部の大名にしか伝えていない機密性の高いものとなっている。
最近は奥羽にも西国に間者が多く入り込んでいるため情報の漏洩には注意しなければならない。
まあ、一部の情報はわざと流したりもしているので、情報操作による相手のかく乱も狙っていたりするのだがな。
俺も奥羽百年の計のためにはここで頑張らねばならないと思っている。
ただ中央に搾取され、蹂躙されるこれまでの歴史に少しでも歯止めをかける必要があるからだ。
阿弖流為や藤原三代が夢見た奥羽の静謐の為の道筋を、是非とも俺が生きているうちに付けたいのだ。
さて、俺の気持ちをどこまで秀吉殿は汲み取ってくれるだろうか。
秀吉殿や秀長殿などの優秀さは十分理解しているのでその点を信じてやるしかないな。
1590年 豊臣氏 ~小田原・石垣山~
それにしても北条の輩はどうして降伏せんのか?
これだけの大軍勢に囲まれ、助ける者もいないのにいつまでも籠城する意図がわからん。
日ノ本に静謐をもたらすために儂がどれだけ苦労しているか・・・。
おそらく民の事を大事と考えていた(北条)早雲殿なら無益な戦を避けていたであろうよ。
それに比べ領土の拡張ばかりを望む氏政が北条を率いたためにこの様な事になったのじゃろうな。
北条の統治は他の大名に比べてもよいものだから、ある程度の譲歩はして取り込むつもりじゃった。
それなのに欲をかいた氏政が約定を破って沼田に手を出したのだから取り返しがつかなくなった。
周辺の諸城も時が経つにつれ落城するものが増えてきておる。
落城した北条の者共からも降伏を促す文などを出させれば小田原城にいる者からも離反者が出るであろう。
今は石垣山に陣を置き、林で小田原城から見えにくい状態のまま城の様な陣場を築くよう勧めておる。
これが完成する頃には北条も降伏している事であろう。
それまで儂は茶々達とのんびり過ごすとするかのう。
「失礼いたします。秀吉様、ご報告がございます」
「おう三成か。何用じゃ」
「はっ、二階堂輝行殿がこちらに向かっているとの使者が参りました」
「そうか、早いのう。船でこちらへ来る手筈じゃったな」
「はい、船で小田原沖に到着した旨が九鬼の者からも知らせがございました。小舟に乗り換えて上陸したようです」
「そうか、輝行殿はかなりのご高齢なはずなのに、こうして足を運んでくれるとは喜ばしい事じゃ。豊臣に従う事を身をもって示すためとは言え、あっぱれな振る舞いじゃな」
「その通りかと。なお、二階堂盛義殿が率いる本隊は、伊達輝宗殿や蘆名盛興殿らと共に陸路よりこちらへ向かっているとの事でございます」
「そうかそうか。関東の静謐が整えば奥羽にもこれを広げねばならん。その先兵となる事に陸奥の大名が同意しておればやり易いから心強いのう」
輝行殿と言えば信長様と堺で出会った折に話が弾んで長く会談なさっておった事が思い出されるのう。
あの信長様が認めておった数少ない御人であり、家臣ではないのに信長様の考えを理解しておった珍しい方じゃ。
そうじゃ、宴の席を設けて輝行殿と昔話でもするとしようか。
今ならば人に上に立っていた信長様の気持ちが以前よりも理解出来る様な気がしておる。
輝行殿ならば儂の気持ちも察してくれるかのう・・・。
読んで頂きありがとうございます。
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。
史実や現実と大きく異なる設定がありますのでご了承ください。