86 天下の行方
長くお休みしておりましたが再開しました。
楽しんで頂ければ幸いです。
1583年 二階堂氏 ~須賀川城~
今年に入ってから奥州の諸大名の間では秀吉殿の話題で持ち切りだ。
それはそうだろう。予想通り秀吉殿の軍勢は勝家殿の軍勢と戦い、これを打ち破ったのだ。
決戦の地が賤ケ岳だったのは戦略的な必然だったのだろうか?
戦力的には勝家殿に大きな不利は無かったとも伝えられているが、やはり前田利家の戦線離脱が大きかったようだ。
勝家殿は恐らく、その戦歴や噂と異なり『いい人』過ぎたのではないだろうか。
昔からの思い人であったお市様を娶れる事で勝家殿は清洲会議において秀吉殿に一歩譲った。
戦国大名としては通常有り得ない選択だったが、自分の気持ちを優先したのだ。
これは賤ケ岳で戦に敗れた後の行動にも現れた。
普通なら裏切りの代償として殺される運命にあった人質である利家の妻子を敗戦後に送り返したらしい。
策謀と裏切りがまかり通るこの戦国では珍しい出来事だろう。
最後の地となった北ノ庄城では妻のお市殿や多くの家臣らと共に天守で自害したと伝えられている。
武人として自分の正しい道を貫いた結果なのだろうが、残念な最後だと思う。
勝家殿はずっと下位の者として見てきた秀吉殿の下に付くことに納得出来なかったのだろう。
それとも織田を実質的に支配下に置こうとした秀吉のやりように憤慨したのだろうか。
勝家殿に勝った秀吉殿は石山本願寺の跡地に有名な『大阪城』を建築中だと聞く。
一度旅行で遠目から現代の大阪城を見た事があったが、その大きさはかなりのものだった。
本来の大阪城の規模は、それを遥かに凌駕すると言うから機会があれば完成後の大阪城を見たいものだ。
二階堂が石垣の石を遥か遠い奥州から送るのは無理なので、裏方でがんばるよう一族には伝えてある。
ただし、完成まではかなりの年月を要したとも聞くから、それまで俺が生きるのは難しいかもしれないな・・・。
西国はこれで一時的に落ち着いたが、問題は関東の雲行きが怪しいことだ。
秀吉殿との対立が噂される織田信雄殿に徳川が接近しており、その徳川と北条が婚姻で同盟関係を結ぶ様だ。
これに対して徳川・北条を脅威と感じている関東の諸大名は、秀吉殿に関東における停戦命令を望んでいるらしい。
徳川は信長殿の死後に甲斐・信濃を支配し、計五国を領有する大名となっている。
このまま行けば秀吉殿と徳川・北条の対立は、多くの大名を巻き込んだ大きな戦いになるのだろうな。
1584年 二階堂氏 ~須賀川城~
歴史の大きな流れと言うものは、そうそう変わらないらしい。
尾張南部の小牧城などを中心に、広範囲で秀吉・家康両陣営による戦いが各地で発生した。
その中心となるのが歴史の教科書で書いてあった小牧長久手の戦いだ。
実際は全国各地でたくさんの戦いがあったが、トップ同士が激突したこの戦いが有名になった。
本当ならば秀吉殿を支援するための軍勢を奥州から派遣するべきなのだが、これまで北関東の佐竹を中心とした勢力と戦ってきたため、そこを通過して参戦するのは難しかった。
親しい者達が殺し合ってきた彼らと肩を並べて戦う事は現時点で考えられない。
ましてやあの佐竹の事だから、この隙に再び北進を開始する事も十分考えられるのだ。
俺は当主となった盛義を呼んである策を授ける事にした。
「盛義、秀吉殿への支援はどうなっておる?」
「伊達や蘆名などにも協力をもらって物資を送っております。また、大阪にいる有力大名の妻子へも多少の贈り物を運ばせております」
「うむ、それでよい。戦う者だけでなく後ろで支える者があってこそだからの。平時にはこれが生きて来る」
「高禄とは申せませんが父上の口利きもあり、二階堂の一族は少しずつ各大名家の政の一部を任されております。これで少しでも彼らの待遇が良くなれば二階堂への心象も良くなりましょう」
「もう一つ気がかりなのは佐竹だが、こちらはどうじゃ?」
「影の報告では、こちらへ探りを入れる気配があるものの兵は北条方へ張り付いており、こちらへの北進は当面無いとの様子です」
「そうか。だが、奴らがいつ攻めて来ても対応出来るよう準備を怠る事は出来ん。我が方の軍備はどうなっておる?」
「はい、鉄砲隊を中心に3千5百の常備兵が出陣可能です。その他予備役の兵も千程動員可能かと」
二階堂は領地が拡大したとは言え10万石程度の大名だ。このため普通ならば動員兵力は2千5百程度になるが、米以外や交易での収入がかなりあるため石高以上の動員兵力となっている。
また、一般兵は農地をもらって退役する者も多数いるため、この者達が予備役として動員可能だ。
現在の兵は織田のような戦専門の兵を多く編成しており、待遇の良さから中には遠く西国から仕官する者もいる。
ただし、間者の可能性があるため監視も厳重に行っているとの事だ。
「北条が北に目を向けられない隙に佐竹がこちらに攻めて来る事は十分考えられる。これに備えるためには結城殿の協力が必要じゃ」
「・・・結城殿ですか」
「そうじゃ。陸奥への玄関口となる白河の防備を高めねばならぬ。その為には我等が身銭を切るのだ」
「こちらの援助で白河の地に砦でも造るのですか?」
「そうとも言えるし、違うとも言える・・・。近こう寄れ」
俺は盛義に策を説明し、白河の結城殿へ協力を願い出るよう指示した。
既に当主である盛義へ指示するのも少しはばかられたが、これも二階堂のためだ。
この策は一部の重臣で共有する以外は極秘事項として進められた。
これが上手く実を結べば二階堂だけでなく陸奥の為にもなるのだからな。
それにしても俺はもう65歳になりこの時代ではかなりの高齢だ。
現代ならば年金を貰って悠々自適の暮らしをしているはずなのに、どうしても殺伐とした事案から逃れられない。
これもこの世界を生きて多くの繋がりが出来たためだろうな。
まあ、畳の上で死ねるようにこれからも足がこうか。
読んで頂きありがとうございます。
(注)この物語はパラレルワールドでありフィクションです。
史実や現実と大きく異なる設定がありますのでご了承ください。
私事都合でお休みしておりましたが、何とか再開できました。
周辺環境が変わり色々あってこちらに手を付けるのが難しい状態でした。
現在は環境も概ね整ったので完結まで頑張るつもりです。
見放さずに読んで頂き感謝いたします。
なお、感想等への返信は少しづつ行いたいと思いますのでご了承ください。